最終話

 それからしばらく時間が流れたが、特別珍しい事が起きたわけではなく、いつもと変わらない日常を過ごしていただけだった。

 実莉みのりとは仲直り(?)をしてから関係は良好だし、明沙陽あさひとも親友として仲良くしている。


 すべてのはじまりは、清楚可憐な親友の幼馴染からの恋愛相談だった。

 それをするように仕向けたのは八重樫やえがしらしいが、今となって振り返ってみるとあの時は刺激的な毎日だった。

 俺としてはあの時実莉の好きな人は明沙陽だと思ってたわけだし、そんな彼女が俺に思わせぶりな行動ばかりしてきて戸惑うことが多かったけど。

 なんなら本当は俺のことが好きなんて知ってめっちゃ驚いたけど。


「だって俺、好かれるようなことした覚えなかったしな……」


 さらに言えば、ずっと一緒にいた親友がイケメンすぎるせいでそっちに女子の視線は釘付けだったし。


「はぁ……」


 思い返すだけでもため息が出てくるくらいだ(もう思い返したくない)。

 そんなわけでため息が止まらない中、待ち人である実莉が小走りでこちらに近づいてきた。


「ごめん。思ったより時間かかっちゃって……」

「全然大丈夫だよ。先生に呼ばれてたんだから仕方ない」

「……うん、ありがと」


 俺たちは手を繋ぎ、揃って歩き出した。

 あとは家に帰るだけ……なはずだが、恋人同士となるとそうはいかない。

 お互いが離れたくないと思い、今の時間を一分一秒足りとも無駄にしたくないと心の中で思っている。

 そのため自然と歩くスピードは遅くなり、二人でずっと一緒にいたいと願うように歩いていた。


「「あ」」


 そして二人同時にとある場所を見つめ、そう漏らした。俺たちの目に留まったのは、すべてのはじまりの場所。

 実莉が俺に恋愛相談を持ちかけてきて、それからほぼ毎日のように通うようになったカフェだった。


「……ちょっと寄ってく?」

「ああ、寄ってくか」


 俺たちはそのカフェに吸い寄せられるように入っていく。別に何か用事があるわけではないが、いつもこのカフェの前を通ると二人で入るようになっていた。

 …………多分、週四くらいで来てる。


 入店すると定位置に座り、いつも頼んでいる物を注文する。俺は運ばれてきたカフェオレを口につけ、一息ついた。

 そんな俺を見て、なぜか実莉がニヤニヤし始める。


「……なんだよ」

「いや? なんでもないよ?」

「嘘つけ。ならなんでこっち見てニヤニヤしてるんだよ」

「別に〜? ただきょうくんが可愛いなって思っただけだよ〜」

「かわっ……!?」

「照れてるのも可愛い〜♡」

「俺より実莉の方が可愛いに決まってんだろ」

「っ……」


 ニヤニヤしながら頬杖をつき、からかってくる実莉。

 そしてそんな彼女をからかい返す俺。

 いつも同じようなやり取りをしているが、全く飽きる気配はない。どうやらそれは実莉も同じなようで、こうして毎日のように同じやり取りを続けている。

 俺は照れているせいか少し頬を赤く染めている実莉に目を向け、最愛の彼女の名前を呼んだ。


「実莉」


 実莉を泣かせてしまったあの日、俺は決めたのだ。

 彼女だけを見て、彼女を大切にし、何があっても彼女を守ると。


「もう絶対に離さないからな」

「んっ! 私も絶対京くんを離さないからね。別れたいって言われても断固拒否するから」

「そんなこと言うわけないだろ」

「ならいいけど」


 俺と実莉は同時にクスクスと笑った。


「これから一生かけて幸せにするから、覚悟しとけよ」

「……っ、ん。覚悟しとく」


 もうプロポーズとほぼ同じかもしれないが、それはまだ先の話。

 まずは実莉の両親に挨拶に行かなければならない。そしてはっきりと伝えるんだ。

 男が一生に一度しか使わない言葉を。

 もう迷わない。覚悟はとっくのとうにできている。

 高校生ならまだ早いと思う人は多いと思うが、それほどまでに俺は彼女のことを好きなのだ。


 いや、愛している。


 何年後になるかは分からないが、その時にはきっと……。

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