第38話 お風呂上がり彼女、えぐい!

 夜ご飯を食べ終え、俺と実莉みのりは二人で使った食器を洗っていた。

 俺がお皿を洗い、胡桃沢が洗ったお皿をタオルで拭く。そういえば以前にも同じようなことがあったな、と思うと懐かしい。


飛鳥馬あすまくんのお母さんとお父さん、すごく優しいね」

「え、そう?」

「うん。私、ここまで歓迎してくれるって思ってなかったから安心したよ」

「なら良かった。特に母さんが実莉みのりのことを気に入ったみたいだから、仲良くなってくれて本当に良かった」


 俺はリビングで仲良くテレビを見ている父さんと母さんの方に視線を向ける。

 母さんも父さんも、実莉と喋っているといつもより楽しそうだった。正直紹介するのは気が引けたが、今となっては紹介して良かったと心の底から思う。


「ふふっ、次は飛鳥馬くんが家に来る?」

「そうだな。いずれは挨拶しに行かないとな」

「……うん」


 いずれは挨拶をしに行かなければならない。

 「娘さんを僕にください!」なんてことを言う日が来るかもしれない。まだまだ先のことだとは思うが、ちゃんと考えておく必要があるだろう。


 その後、皿洗いを一通り終えた俺たちは部屋に戻った。これから恋愛映画を見るか、という話になったのだ。


「この映画、ずっと気になってたんだけど見れてなかったんだー」

「そもそも俺、恋愛映画あんまり見ないんだけど面白いのか?」

「え!? 嘘でしょ!? 有り得ない! すごく面白いよ!」


 恋愛映画は一度だけ、映画館に見に行ったことがある。

 明沙陽に誘われて二人で行ったのだが、周りはカップルだらけだった。周りを見渡せばカップル、カップル、カップル。

 羨ましいと思うと同時に、男二人で来ていたため居心地が悪く映画に集中できなかった。それ以降、絶対に恋愛映画は見ないようにしようと決めたんだが……。


「じゃあ見るか」


 今となっては俺も恋人がいる。

 確かに恋人と恋愛映画を見るというのは憧れがあったし、実莉が面白いと言うなら期待して見よう。

 そう思った瞬間、俺の部屋のドアがノックされた。


京也きょうや? 入るわよ」

「なんだよ、母さん。てか勝手に入ってくんなよ」


 俺の許可を得ていないにもかかわらず、母さんは部屋の中に入ってくる。

 全く。恋人が部屋の中にいるのに、なんで許可なく入ってくるんだこの親は。


「二人にお風呂入るかどうか聞きに来たのよ。あら、もしかしていやらしい事でもしてたのかしら?」

「してねぇよ!?」

「やだ、ごめんなさ〜い。配慮が足りてなかったわ〜」

「絶対そういうの見る気で来ただろ……」

「ふふっ。で、お風呂どうするの?」


 笑って誤魔化す母さんが悪魔に見えてきた。

 俺は母さんを部屋から追い出し、実莉に先にお風呂に入るよう促す。


「じゃあ、お先にいただきますね」


 実莉はそう笑顔で言い残し、お風呂場へ向かった。

 さて、俺は母さんを説教しないとな……。



 実莉がお風呂に入り、俺が母さんを説教してからしばらく経ったところで、またしても部屋のドアがノックされた。


「飛鳥馬くん、入っていい?」

「ああ、いいよ」


 実莉がどうやらお風呂から上がったらしい。

 正直実莉がお風呂に入っている間、俺はある敵と戦っていた。まあ、絶対にこの事は誰にも言えないのだが。


「飛鳥馬くんもお風呂入ってきたら? 気持ちよかったよ」

「い、いや……俺は後ででいいよ」

「そう?」


 実莉が部屋に入ってきた瞬間だった。

 彼女のお風呂上がりの姿を見て、頭の中がおかしくなっていく感覚に陥った。

 今目の前に現れたお風呂上がりの彼女は水玉模様がついている水色のパジャマを着ており、髪をかきあげて水色のもこもこした可愛らしいヘアバンドを巻いている。


(か、か、か、彼女のお風呂上がり姿、可愛いすぎるんだが!?!?)


 無意識に、心の中でそう叫んでいた。

 いつもと違った雰囲気を醸し出し、可愛らしい姿をした彼女が隣に座ってくる。

 すると、俺が使っているシャンプーの匂いが鼻腔をくすぐった。いつも自分が使っているシャンプーの匂いが彼女からする。それだけでも堪らないのに、容姿の可愛さも反則級だ。


「……んだが」

「え、なに? 聞こえなかったんだけど」

「可愛、すぎるんだが」

「…………え」


 心の声が漏れてしまった。伝えるつもりはなかったのだが、思わず口に出てしまった。

 それほどまでに、俺の彼女は可愛すぎたのだ。


「えっと、その……ありがと」


 お風呂から上がって間もないからか。または照れているのか、頬を赤く染めながら指で髪をくるくる回す。

 果たして、お風呂上がりの彼女よりも可愛い人が存在するのだろうか。

 否、絶対にいない。

 お風呂上がりの彼女こそ至高。これは世界中の男子全員の共通認識に違いない。


「……最高です」


 俺は誰にも聞こえないように、小さな声でそう呟く。

 そして同時に、近くに置いてあったスマホを手に取った。


 ――パシャリ。


「ちょ、ちょっと何してるの!?」

「何って、写真を撮ってるだけだよ」

「そうだけど……なんで私を撮るの!?」

「可愛すぎるから」


 俺は淡々と答える。

 決めたんだ。キモイと言われようと、どんなに罵倒されようと関係ない。お風呂上がりの可愛すぎる彼女を写真に撮って、いつでも見れるようにスマホの背景にしようと。


「……っ! でもダメ! 写真はダメ! 今すぐ消して! 恥ずかしいじゃん!」

「嫌に決まってるだろ。俺はこの写真をスマホの背景にするって決めたんだ」

「ちょっ……本当に恥ずかしいからダメー!」


 実莉は必死に俺のスマホを奪おうと手を伸ばしてくる。しかし絶対に奪わせまいと左手でガードしながら、右手でスマホを操作し背景を先程撮った写真に変更する。


「可愛すぎる……」


 俺のスマホの背景には、可愛らしく頬を赤く染めた実莉の姿が写っている。本当に、天使すぎる……。

 するとその様子を見た実莉はプクッと頬を膨らまし、お返しと言わんばかりにスマホを構えた。


 ――パシャリ。


「……え? お、おい!」


 実莉は頬を膨らませたままスマホを操作し、俺と同じように背景を先程撮った写真に変更する。

 操作が終わると、こちらにそのスマホを見せてきた。


「ちょっ……!? この写真はいくらなんでもないだろ!?」


 実莉のスマホの背景には、俺が彼女のあまりの可愛さに悶えている姿が写っている。

 我ながらさすがにこれは気持ち悪い。


「お返しだもんねー!」

「畜生……」


 それからは時間を忘れて、お互いの写真をたくさん撮った。

 おかげで俺の写真フォルダは、可愛い彼女の写真で埋め尽くされたのだった。

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