第39話 可愛いの渋滞なんだが
お互いの写真をたくさん撮り合ったせいか、力尽きてしまったのだろう。
自分のベッドで可愛い彼女が寝ているというのはかなり刺激的なもので、いつにも増して心拍数が上がっているような気がする。
「やべぇ……寝顔可愛すぎるだろ」
こんなにも可愛い寝顔を俺は見たことがない。
まるで天使。いや、きっと天使に違いない。
「天使すぎる……」
一度実莉の頬をつついてみる。
ぷにぷにで、一度押すと癖になりそうなくらいに柔らかい。起こしたらいけないからやめないといけない、と思ってもやめられないほどにずっと触っていたい心地良さだ。
それからしばらく頬をつついて遊んでいると、実莉が嫌そうな顔で寝返りを打って背を向けてしまう。
「さすがにやりすぎたか」
これ以上やって起こしてしまうわけにはいかない。
そう思って俺はお風呂に入ろうと立ち上がり、お風呂場へ向かったのだった。
次の日、カーテンの隙間から射す光のせいか、いつもより早く目を覚ました。
俺は部屋の床に寝転がっており、昨日お風呂から上がってすぐに寝てしまったのだと気付く。ベッドに目を向けると、昨日いたはずの実莉の姿がなかった。
「……あれ、実莉?」
部屋を見渡しても、彼女の姿は見当たらない。
もしかして昨日のは夢だったのか? と心配になったが、部屋の隅に昨日実莉が持っていたバッグがあるためそれはないだろう。
「とりあえずリビングに行くか」
この場にいないならリビングにいるはずだ。そう思って階段を下り、リビングへ向かう。
リビングでは父さん新聞を読んでおり、キッチンに母さんと実莉の姿を見つけた。二人はエプロンをつけ、どうやら朝ご飯を作っているらしい。
「あ、おはよう
「
「おはよう……実莉、まさか朝ご飯も手伝ってるのか?」
「うん。ちょっとだけね」
俺の彼女、いい子すぎて泣ける。
それは母さんたちも同意見なようで、笑顔でそう答える実莉を見て泣きそうになっていた。
「もう実莉ちゃんをうちの子にしたいわ……京也、頑張りなさいよ!」
「……は? なにを?」
「「結婚!」」
母さんと父さんの声が重なった。
は? 結婚? 俺と、実莉が?
考えたことないと言えば嘘になるけど、俺たちまだ高校生だぞ? 結婚なんて……。
「けけけ結婚!? まだ早いですよ!」
「いいえ、早くないわ。実莉ちゃん、京也をよろしくね」
「……へ、へ? は、はい」
「母さん、やめてくれ。実莉が困ってるじゃないか」
実莉の手を掴み、目を輝かせながら念を送っている母さん。その圧に、実莉も頷かざるを得なかったようだった。
「なによ。京也、あんたまさか実莉ちゃんと結婚したくないの?」
「したいけど!?」
「「「…………」」」
実莉と結婚? そんなのしたいに決まってるだろ?
と言わんばかりに即答した瞬間、この家からは音が消えたように静まり返った。
実莉なんかは恥ずかしそうに真っ赤にした顔を両手で隠し、母さんと父さんはニヤニヤ笑っている。
「……トイレ行ってくる」
逃げよう。そう決めるにはあまり時間がかからなかった。
朝ご飯を食べた後、俺と実莉は部屋に戻った。
今日は午前中に昨日借りた恋愛映画を見て、午後にショッピングをしに行く予定だ。どうやら実莉は服を買いに行きたいらしい。
結婚のことは……記憶から消した。
恋愛映画を見終え、俺たちは昼ご飯を食べた後に駅前のショッピングモールに向かって歩いていた。
実莉の言った通り恋愛映画はとても面白く、予想だにしない結末で終わってしまった。続きがあれば見てみたかったが、どうやら原作にも続きはなく完全に終わりらしい。
「あんなに仲良いカップルでも、別れてそのまま別の人と付き合うってことあるんだな」
「ねー。まあ仕方がないよね。あの展開だったら私だって別れた方がいいな、って思うもん」
「……俺は絶対に実莉を手放さないから」
「……っ……うん」
俺は隣を歩く彼女の手を、今後絶対に離さないと誓って掴んだ。すると彼女も反応して、離さないようにと指を絡めてくる。
もうこの手を絶対に離さない。何があっても、この手だけは絶対に。そう誓うように、俺たちはお互いの手を強く握りしめたのだった。
ショッピングモールに到着すると、日曜日だからかかなり混雑していた。
はぐれないようにまた強く手を握り、目的地である服屋へ向かう。
「結構混んでるね」
「だなー。そういえば今日はどんな服買いたいんだ?」
「今日はねー、飛鳥馬くんが好きな服買うの」
「俺が好きな服?」
言っている意味が理解できなかったためオウム返しをすると、実莉は笑顔で頷いた。
「飛鳥馬くんがどんな服好きか私知らないもん。なら色々試着して決めてもらおうって思って」
「あー、なるほど……」
そうして目的地である服屋に着くと、早くも実莉によるファッションショーが始まった。
色々な系統の服装をかき集めては着て俺に見せる。時期的に夏服を買いたいようで、本当にたくさんの服を試着している。
「……どう?」
もう何着試着したか数え切れなくなってきた時、今までの服よりもシンプルで世界中の男子たちが沸くであろう服で登場した。
白いワンピース姿だった。透き通った乳白色の肌と相まって、透明感が増したようにも感じられる。その容姿はあまりにも儚く、とても美しい。
「……めっちゃ似合ってる。やばい。可愛すぎて死ねる」
「それは言いすぎだよ……」
実莉は頬をほんのり赤く染め、モジモジし始めた。真っ白の服を着ているせいか、赤く染まった頬が際立っている。
まじでやばい。いくらなんでも可愛すぎるだろ。
「こういう系、初めて着たの。本当に似合ってる……?」
「うん。やばい。まじ可愛い」
「そう……じゃあ、買ってみようかな」
間違いない。実莉の白ワンピース姿は、すれ違う人全員を振り返らせる。
彼氏としては嬉しいような、嬉しくないような……なんとも言えない気持ちだ。
「いやー、でもすごいな。実莉って昨日着てた大人っぽい服装も似合ってたけど、今日見た可愛い系の服装も似合ってる」
「……そうかな?」
「うん。だから今日、色々な服装見れて嬉しいよ」
「…………あ、ありがと」
その後たくさんの服を試着し終え、実莉は気に入った服三着を会計に持っていった。中にはもちろん白いワンピースも入っている。
いやー、本当に俺の彼女は可愛すぎる。
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