第33話 あの時の恋愛相談

京也きょうやおっすー!」

明沙陽あさひ!」

「「「明沙陽くん!!!」」」


 次の日、約一週間ぶりに明沙陽が学校に来た。

 クラスのみんなには「心配かけてごめんな」と謝ってから、俺と実莉みのりのもとに駆け寄ってくる。


「悪いな、心配かけて。あとあの時は、本当にごめん」

「「明沙陽……」」

「……ところで、二人はもしかして付き合ったのか?」

「「……っ!?」」


 真剣な表情で謝るとすぐにニヤリと笑い、俺たちの関係を疑うような目を向けてきた。

 俺たちはあまりにも突然だったため驚いてしまい、二人して言葉を失ってしまう。


「ははーん?」

「……なんだよ」

「付き合ってるのか」

「……まあ、うん」

「やっぱりな。二人の雰囲気が前と全然違うし、すげぇ距離近くなってるし。付き合ってない方がおかしいか」


 すると先程よりもニヤニヤしながら、明沙陽はこちらにゆっくりと近づいてくる。

 ……そんなに分かりやすかっただろうか。


「京也が俺の家に来た時にはもう付き合ってたってことか?」

「ち、ちがっ……!」

「じゃあその後か。よかったな、実莉は京也のことずっと好きだったんだろ?」

「……うん」

「まあ、今は遠くからお前らの行く末を見守っててやる。でも、俺はまだ実莉を諦めてないからな。最後に実莉の隣にいるのは俺だ。覚悟しとけよ、京也」

「望むところだ」


 まだ諦めない。そう言った明沙陽の顔は決意に満ちていて、闘志を燃やしているようだった。

 そして俺たちは前までと同じように、親友として笑い合ったのだった。



 放課後、俺は部活を終えて一人で校門へ向かっていた。

 すると競技場から出たところで、後ろから誰かに肩を叩かれる。


「飛鳥馬くんっ! おつかれ!」

八重樫やえがしか。お疲れ」


 八重樫美音やえがしみおん

 俺と同じ陸上部に所属していて、実莉の親友である女子だ。


「なんだよ、今日は他の女子たちと帰らないのか?」

「帰るよ。ただ校門まで飛鳥馬くんと話したいなって思って」

「……俺と?」

「うんっ。だって校門でみのりん待ってるでしょ?」

「なんでそれを……」

「そりゃ毎日のように一緒に帰ってる姿を見てたらねぇ〜?」


 実莉の親友である。ということもあって、八重樫には何もかもバレている。そんな予感がした。


「あとみのりんとはようやく付き合ったみたいだし」


 ニヤリと笑う八重樫。

 八重樫には校外学習の時の行きのバスで色々言われたこともあって気が付いたが、こいつは人をよく観察している。そのため、朝にした明沙陽との話を聞かれていてもおかしくはない。


「やっぱり朝の話、聞いてたのか」

「まあ、それも聞いてたけどね。飛鳥馬くんとみのりんが付き合ったのを知ったのは、みのりんに聞いたからだよ。ふふっ……」

「な、なんだよ」

「いや? ただ校外学習の時の飛鳥馬くん、みのりんへの気持ち自覚してなかったでしょ? だから今後も二人の関係は進まないままかなって思ってたの。でも意外とすんなり付き合っちゃったから、予想外だったなって」

「……そうか。八重樫は実莉の気持ち知ってたのか?」

「もちろん。結構前からみのりんに相談されてたからね。あ、そういえば飛鳥馬くんもみのりんから恋愛相談受けてたでしょ?」


 なんで八重樫がそのことを知ってるんだ……?

 もしかして、それも実莉が言ったのか……?


「実はその恋愛相談を提案したの、私だよ」

「…………え?」

「恋愛相談のフリしてアタックしまくれば? ってみのりんに言ってみたら、即採用されたよ」

「……まじかよ」

「うんっ。まじまじ」


 予想外だ。

 すなわち俺と実莉の関係が大きく変わったのは、すべて八重樫の提案からはじまったということになる。八重樫=恋のキューピットという等式が成り立ち、頭が上がらない。

 八重樫のその提案がなければ、恐らく俺と実莉の関係は今も尚ただの友達の友達に留まっていただろう。


「ありがとうございます。八重樫さん」

「どうして急にさん付け!? やめてよ! 恥ずかしいじゃん! いつも通り呼び捨てでいいから!」

「いいえ、八重樫さん。八重樫さんには一生ついて行きます」

「……もしかして、ふざけてる?」


 可愛らしい笑顔で、手をポキポキ鳴らし始める八重樫サン。本当に怖い。


「ごめんなさいごめんなさい……! でも、本当にありがとうな。八重樫がいなかったら俺、今こんなに毎日を楽しめてないかも」

「ふふっ、ちゃんと感謝してね? だからまた今度一緒に3000m走ろ!」

「それだけはご勘弁を……」


 俺の専門種目は100mと200m。

 対して八重樫の専門種目は1500mと3000m。

 どう考えても短距離を専門に走っている奴が、長距離で県大会出場レベルの奴と一緒に走れるわけないだろ?


「え〜! 飛鳥馬くんノリ悪い〜!」

「そういう問題じゃないだろ……」


 ぷくっと頬を膨らませて怒る八重樫を苦笑しながら横目で見ていると、校門の方からこちらに走ってくる女子が見えた。

 俺の彼女、実莉だ。


「飛鳥馬くん部活おつかれ! ……あれ? 今日は美音も一緒なの?」

「ああ、少し話したいって言われて」

「実は飛鳥馬くんに『実莉は飽きたから美音に乗り換える』って言われて……」

「え!?」

「おい! 一言もそんなこと言ってないが!?」

「てへっ☆」

「「……」」


 テヘッと笑ってペロッと舌を出す八重樫。俺たちはそんな八重樫を見て、絶句してしまう。

 やはり、こいつはよくわからない。


「じゃあ二人とも、これから末永くお幸せに〜! また明日〜!」


 そして八重樫は逃げるように、こちらに手を振りながら来た道を戻っていった。とんでもない爆弾を残しやがって。


「……飛鳥馬くん?」

「……はい、なんでしょう」

「さっきの、嘘だよね?」

「嘘に決まってるだろ!?」

「ふふっ、知ってる。美音ってたまに変なこと言い出すから、きっとそれだろうし」

「なんだよ……」


 俺が脱力するように肩を落とすと、その様子を見た実莉は口に手を当ててクスクス笑い始めた。


「私に怒られるかと思ってしゅんとしてた飛鳥馬くん、すごく可愛かったよ」

「……うるせ」

「か・わ・い・い」

「うるせ。お前の方がどう考えても可愛いだろ」

「……」


 また何か言い返される。そう思ったのだが、いくら返事を待っても何も返ってこない。

 どうかしたのかと心配になって実莉の方に目を向けると、そこには頬だけでなく耳まで真っ赤にした実莉の姿があった。


「おま……」

「や、やめて……。今こっち見ないで……」


 可愛すぎる。恥ずかしそうに顔を両手で覆って隠れている彼女を見て、その感情を抱かない男がいるだろうか。


「(可愛すぎて無理なんだが……)」


 結局、可愛すぎる彼女を見た俺も顔が真っ赤になってしまい、それからはお互い顔を見て喋ることができなかったのだった。

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