4. 交際、そして恋人

第32話 好きになった理由

 告白をした後は、学校のことや友達の話などで盛り上がり約一時間半はこうしてベンチに座って話していた。

 俺と実莉みのりは晴れてカップルとなり、その記念日となる今日を堪能したかったのである。


「ねぇ、飛鳥馬あすまくん」

「ん? なに?」

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いい?」


 実莉は上目遣いで、そう聞いてくる。

 実莉にお願いされる時は大体上目遣いを使われるが、今まで特に何かを思うことはなかった。

 ……少し可愛いとは思ってたかもしれないけど。


 だが、今は違う。

 同一人物ではあるが、クラスメイトからではなく彼女から上目遣いをされている。彼女による上目遣いほど、破壊力がすごいものはない。

 認識の違いだけで、ここまで変わるものなのだろうか……。


「別にいいけど、なんだよ」

「……飛鳥馬くんってさ、私のこと、好きなんだよね?」

「っ!? そうだけど、突然どうした!?」


 俺が告白をしてから今まで他愛のない話で盛り上がっていたのだが、急に頬を赤らめて話を掘り返されたため驚きを隠せない。体が急に熱くなっていく。


「……あの、私分からなくて」

「…………え?」

「飛鳥馬くんが私のことを好きになってくれたのは嬉しい。すごく嬉しい。でも、飛鳥馬くんが私のことを好きになってくれた理由をいくら考えても分からないの。私は飛鳥馬くんのこと振り回してただけだし……」


 そして実莉は息を吐き、深呼吸をする。


「どうして、私のことを好きになってくれたの?」


 不安な気持ちでいっぱい。といったような目を向けてくる。

 俺が実莉を好きになった理由は、数え切れないほどにたくさんある。

 それを彼女の前で直接言うというのはかなり恥ずかしいが、不安そうな実莉を見ていると言わざるを得ない。


「俺さ、実莉が好きって言って告白してくれて、すごく嬉しかったんだ。人生で初めて告白されたし」

「……え、初めてだったの? 中学の頃、他校の女子たちからはあんなにモテてたのに」

「それを聞くと悲しいけど、うん。別に告白をされたから好きになったってわけじゃないけど、間違いなくその日から実莉を見る目が変わっていったんだと思う」


 あの時は明沙陽あさひからも恋愛相談を受けていたこともあって、複雑な気持ちだったけど。絶対にあの時から実莉を見る目が変わったのだと言い切れる。


「実莉が恋愛相談をしたいって言ってきて、男子として女子にされて嬉しいことの練習してた時あっただろ? お前さ、俺に対してすげぇ勘違いしそうなことしてくるから『なんだよこいつ』ってあの時は思ってた」


 だけど、勘違いなんかじゃなかったんだ。

 実莉は本当は明沙陽ではなく俺のことが好きで、それまでの練習はほとんど本番のような感じだったらしい。


「でも実莉が本当は俺のことを好きだって知って、すごく嬉しかったんだ。その日からは一緒に水族館に行って、実莉が作った弁当を一緒に食べて、夫婦ごっこをして……全部楽しかった」


 実莉と積極的に関わるようになって、さまざまな一面を知れた。


 料理が上手なところ。

 面倒見がいいところ。

 ペンギンが好きなところ。

 怖いのが苦手なところ。

 意外と真面目なところ。

 他人思いなところ。


 挙げていけばキリがない。

 そして、実莉のことをもっと知りたいと思ってしまった。

 よく考えてみると、男子として女子にされて嬉しいことを練習していた時のモヤモヤは、実莉を既に気になり始めていたから感じたのかもしれない。


「明沙陽にも言われたんだ。最近の俺が変わったって。最近の俺は毎日が楽しそうだって。きっとそれは、実莉のおかげだと思う」

「……ほんと?」

「本当だよ。恥ずかしい時の方が多かったけど、色々な練習を実莉としてその毎日をいつの間にか楽しく感じていたんだ。もっと実莉と一緒にいたい。そう思った」


 俺は息を吐き、深呼吸をする。


「だから俺は、お前のことが好きなんだ」


 もう実莉に何度好きだと伝えたか分からない。

 でも、まだまだ言い足りない。

 それほどまでに俺は、実莉のことが好きになってしまったのだから。


「……そっか。嬉しい……」


 顔を真っ赤にし、頬を緩ませる実莉。俺はそんな可愛らしい彼女の笑顔から、目が離せない。

 どうしてこんなにも可愛いのだろう。今すぐ抱きしめたいくらいだ。


「……え、なに?」

「いや、俺の彼女めっちゃ可愛いなって思って」

「……っ!? きゅ、急に何言ってるの!?」

「だって本当のことだし……。それにおかしい話でもないだろ? 恋人なんだし。彼女を可愛いって言って何が悪い」

「別に悪くないけど……急すぎるよ……ずるい……」


 実莉は視線を逸らし、顔を両手で覆って隠れてしまう。

 それでも顔だけでなく耳までもが真っ赤になっているのはバレバレだ。


「……実莉、こっち向いて」

「…………嫌だ。今の顔見られたくないもん」

「いいじゃん。見せてよ」

「…………やだ。飛鳥馬くんなんて嫌い」


 小さな声で、隣にいる俺にしか聞こえないような声で言ってくる。本当に可愛い。


「本当は?」

「…………大好き」


 顔を両手で隠すのをやめ、顔だけでなく耳まで真っ赤にした彼女は囁くように言った。本当に可愛い。

 俺はそんな自慢の彼女を、これから先絶対に幸せにしようと心に誓ったのだった。

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