第34話 デートの誘い
あれから結局目を見て話すことができないまま、俺たちはそれぞれ家に帰った。
目を見て話すことができなかったのは、間違いなく俺の彼女が可愛すぎるのが原因だ。
「意識し始めるとここまで変わるものなのか……」
……いや、少し可愛いなとは思ってた気がする。
でも今、実莉への認識が親友の幼馴染から彼女に変わってから。実莉のことが頭の中から離れない。
実莉が可愛すぎて、天使のようにしか見えない。
例えるなら、テレビでよく見る千年に一人の美少女を超えて一万年に一人の美少女だと言われても納得できるレベルだ。それほどまでに、実莉のことが可愛く見えている。
「これ、やばいやつだ……」
俺は自分の部屋に戻り、ベッドに倒れ込む。
「くっそ気持ち悪いな、俺」
気が付くと、彼女のことを考えている。
自分でも驚くほどに、実莉のことを好きらしい。
「はぁ」
俺はそんな気持ち悪い自分に対して、深くため息をついた。そして何も考えないようにしようと目を瞑り、深い眠りについたのだった。
――ブーブーブー、ブーブーブー。
「ん……?」
アラームをセットした覚えはないが、なぜか手元にあるスマホからパイプ音が聞こえてくる。
確かあまりにも俺がキモかったから、それを紛らわせようとして眠りについたんだよな。
「…………って、実莉!?」
どうやらアラームなんかではなく、実莉からの電話らしい。
机に置いてある時計を確認すると、時刻は二十一時を回ったところだ。
「……もしもし?」
『あ、やっと出た。
「こん、ばんは?」
なぜ実莉が電話をしてきたのだろうか。
もしかして、これがよく聞く『急に声が聞きたくなって――』ってやつか!?
だとしたら可愛すぎて、寝起きでもすぐに意識が覚醒しそうだ。
『実はね、飛鳥馬くんの声が聞きたくなっちゃって……迷惑、だったかな?』
「全然そんなことないです! むしろありがとうございます!」
『……なんでお礼? あとなんで敬語?』
実莉がクスクスと可愛らしく笑った。本当に可愛すぎる。
『あ、そういえば明日から土日で休みでしょ? 飛鳥馬くん、両方暇?』
「うーん、土曜日は午前に部活があるかな。でも日曜日は休みだよ」
『ほんと? じゃあ、デートしたいな』
「……え、土日両方か?」
『うんっ。できれば泊まりで』
泊ま、り…………?
「ちょ、ちょっと待て。泊まりで二日連続デートはいいけど、どこに泊まるんだよ」
『んー、飛鳥馬くんの家か、私の家? ……あっ、別にホテルでもいいよ?』
「ホテッ……!?」
ホテルに泊まるって、まさか!?
これは、あんな事やこんな事をするための誘いなのか!?
『ふふっ。飛鳥馬くん、今絶対変な想像したでしょ』
「してないぞ!!」
『うっそだ〜? 顔に書いてあるよ? 変な想像してましたって』
「ビ、ビデオ通話じゃないから俺の顔見えないだろ!?」
『否定しないってことは、やっぱり変な想像してたんだ?』
実莉は『ねぇねぇ、飛鳥馬くん。どんな想像したの?』と茶化すように聞いてくる。
さすがにこのまま電話していると、実莉が暴走し俺の理性がもたない。
「何も想像してない。で、とりあえず明日は俺の部活が終わってからでもいいか?」
『あ、話逸らしたー。まあ、うん。そうだね。じゃあ部活が終わったら連絡して』
「わかった」
それからは沈黙が続いた。
もう話は終わったし電話を切ってもいいのだろうが、実莉は電話を切ろうとしない。
なら俺から切るか、と思って耳からスマホを離し、赤い受話器のボタンを押そうとした瞬間。
――チャプ、チャプ。
スマホから、水で遊んだような音が聞こえてきた。
外を見ても雨は降っていない。ということは……。
「なぁ、実莉」
『ん? どうしたの?』
「お前今、どこで電話してるんだ?」
『……あー、どこだと思う?』
今電話越しで、実莉がどんな顔をしているかはわからない。だが恐らく、顔を赤くしているだろう。
だって実莉は今――。
「もしかしてお風呂、とか?」
『…………飛鳥馬くんのえっち』
「え……あ、ち、違うんだ! そっちから水の音が聞こえてきたから、お風呂かなって思っただけで!」
『スケベ。変態。最低。デリカシーなさすぎ』
「ご、ごめん! もう何も言わない! 何も言わないから許して!」
――チャプ、チャプ。
俺が必死に謝っていると、またしてもスマホから水で遊んだような音が聞こえてきた。
お風呂じゃないなら、一体どこにいるのだろうか。
『えー? どうしようかなー? まあ、正解なんだけどねー』
「…………はい?」
『だからー、私は今お風呂にいるんだってー』
「…………は!?」
ならなんで俺、あんなに罵倒されたの!?
『……あ、もしかしてまた変な想像した?』
「してないが!?」
『…………飛鳥馬くんのえっち』
「えぇ……」
実莉の意味のわからない反応に困っていると、突然スマホの画面が切り替わる。
どうやら、実莉側のビデオ通話がONにされたようだ。
『やっほー飛鳥馬くん』
すると湯船に浸かって身体にタオルを巻いている実莉が、こちらに手を振っている姿が映し出された。
「お、おい!? なんでそんな姿でビデオ通話にしてるんだよ!?」
『見たいかなーって思って……ほら』
そう言って実莉は豊満な胸が少し見えるように、タオルを少しずつ動かしていく。そして胸元が見えたところで、タオルが落ちないように固定した。
『……どう?』
「…………どうって、なにが?」
俺はもう何も見ないように、画面には目を向けていない。
画面を見ればそこには男子にとって夢の世界が広がっているが、今の俺にとって彼女の裸というのは刺激が強すぎるのだ。
『もう、こっち見てよ』
「……いや、無理だ」
『んー! こっち見ないと一週間くらい飛鳥馬くんの口聞かないよ!』
それは嫌だよ!?
でも、さすがに…………。
俺は恐る恐るスマホに目を向ける。
これは、仕方がないんだ。一週間口を聞いてくれない、というのは耐えられないし、一瞬見るだけだから。
そう自分に言い聞かせて、画面に映し出された実莉の姿を見る。
『……どう?』
するとそこには、栗色の髪をお団子にして、豊満な胸元が少し見えている翠眼の美少女が映っていた。
「可愛すぎる」
俺はその言葉を最後に、意識を失ってしまったのだった。
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