第25話 浅草観光②

 白玉スイーツ店で抹茶黒みつの白玉を食べた後も、俺たちはさまざまなお店に入っては出てを繰り返した。

 仲見世通りでは和菓子屋とお土産屋が多く、特に和菓子屋に入って各々食べたい物をたくさん食べた。


 仲見世通り散策を終えると、予定通り浅草寺と浅草神社に参拝しに行った。

 浅草神社では、入り口にある鳥居をくぐると相合い傘をしている夫婦狛犬が見える。

 この夫婦狛犬が寄り添っている様子から、良縁や夫婦和合、恋愛成就のご利益があるとされているらしい。

 そのため特に明沙陽あさひ実莉みのりはその夫婦狛犬の前で、二人揃って手を合わせていた。



「よっし! 次はやっと浅草花やかただな!」


 時刻は十四時前。

 かなり仲見世通りで時間を使ったことから予定よりかなり遅くなったが、俺たちは浅草花やかたにやって来た。

 近くには浅草寺や東京スカイツリーなどの観光スポットもあるからか、かなり混雑している。


「……これ、時間的にもアトラクション乗るの二つか三つが限界なんじゃないか?」

「だよね。乗りたいアトラクション絞ってから並ぼうか」

「賛成! 私、お化け屋敷行きたいっ!」

「え、八重樫やえがしってお化け屋敷とかホラー系好きなのか?」

「大好きっ! 絶叫系のアトラクションも好きだけど、やっぱり一番はお化け屋敷かな!」


 女子でお化け屋敷好きな人なんて今まで一度も見たことがなかったため、意外だなと思ってもう一人の女子である実莉を見てみる。

 実莉は「絶対言うと思った……」と言いたげな顔で深くため息をついて、八重樫を冷たい目で見つめていた。


「私、お化け屋敷は絶対行かないから」

「実莉は怖いの苦手だもんな。でもたまにはいいんじゃないか? せっかくだしみんなで入ろうぜ」

「絶対やだ! 私は絶対入らないから!」


 実莉が怖いの苦手だなんて、初めて知った。

 だから素直に怖がっている姿が新鮮で、見ていてとても面白い。


「……あ、でも飛鳥馬あすまくんとなら入る」

「…………は?」

「な、なんで京也きょうやなんだよ。別に誰とだって変わらないだろ」


 明沙陽の言うことは最もだ。

 なんで俺となら入るんだよ。理解ができない。


「だって明沙陽は絶対からかってくるし、美音みおんは私のこと置いて行っちゃうんだもん」

「それは……わかった。じゃあみんなで入って、俺と八重樫が先頭、京也と実莉が後ろでならいいか?」

「うん」


 その後俺たちはベンチに座り、みんなで乗るアトラクションを絞ることにした。

 恐らく二つか三つのアトラクションに乗るのが限界なため、ジェットコースターと回転式ローラーコースター、お化け屋敷の三つに絞る。

 乗る順番は、ジェットコースター → 回転式ローラーコースター → お化け屋敷 の順番だ。


「実莉、ジェットコースターは大丈夫なのか?」

「当たり前でしょ!? 子どもじゃないんだから!」


 お化け屋敷の件でいいものを見れたため、からかってみると実莉は俺の体をポカポカ叩いてくる。

 力を抜いているのか、あまり痛くはないが。


「悪い悪い。お化け屋敷の話になった時の実莉の顔、もう一度見たいなって思って」

「……っ! 飛鳥馬くんひどい! 嫌い!」

「そこまで言わなくても……」


 今も尚、実莉はポカポカ攻撃を止めてはくれない。

 そんなわけで俺だけポカポカ攻撃を受けながらも、俺たちはやっとジェットコースターの場所に到着しみんなで乗ったのだった。



 ジェットコースターと回転式ローラーコースターを乗り終え、俺たちは今お化け屋敷に向かっている。

 ちなみにジェットコースターと回転式ローラーコースターは、明沙陽と実莉、俺と八重樫が隣になって乗った。

 これは明沙陽の頑張りが功を奏したのか、実莉に隣になろうと誘うと二つ返事で了承してもらえたからだ。


「お化け屋敷っ! お化け屋敷っ!」

「本当に八重樫は怖いの好きなんだな」

「うんっ! あ、もしかして飛鳥馬くんは怖いの?」

「どんな感じかによるけど、本格的だったらやばいかも」

「えー、男の子なんだからしっかりしてよ? 私たち女の子を守らないと」

「……頑張るよ」


 そして回転式ローラーコースターの場所からしばらく歩き、お化け屋敷の場所に到着した。

 階段を上るとお化け屋敷の看板が見え、中に入るがあまり人はいない。


「お、全然人いないじゃん。ラッキー」

「やった! 早く入れる!」


 ジェットコースターや回転式ローラーコースターなどの絶叫系ではかなり並ぶ羽目になったし、待ち時間がないことは素直に嬉しい。

 それは明沙陽も八重樫も同じようで、二人で突っ走っていく。

 しかし一人だけ、体全体を震わせて立ち止まった者がいた。


「大丈夫か? 実莉」

「う、うん。だ、大丈夫……」

「無理なら無理して入らなくてもいいんだぞ。俺もあいつらに言って実莉と一緒に待つから」

「……う、ううん。私も行く」

「そっか。じゃあ、行くか」

「ま、待って!」


 俺も明沙陽と八重樫に続いて建物内に入ると、突然後ろから手を掴まれた。


「ん?」

「…………手、繋いでもいい?」

「……わかったよ。ほら、行くぞ」

「うん」


 実莉の手が震えていることを確認し、俺は自分から実莉の手を握って中に進んでいく。

 怖がっている女子がいるなら、守ってこその男だからな。



 空いているお化け屋敷に入ると、怖さレベルはかなり低めだった。

 アクターはおらず、たくさんの人形などで脅かされるタイプで日本人形がたくさん置いてあるくらいだ。正直怖い、とはあまり思わなかった。

 明沙陽と八重樫なんて全く怖がらずにどんどん前に進んでいたし、怖がっているのは俺の後ろに引っ付いている実莉くらいである。


「……実莉、歩きづらいんだが」

「うぅ……怖いぃ……」


 入ってから数分経っても、ずっとこんな感じだ。

 本来なら五分程度で終わるんだろうが、俺たちは恐らくもう十分くらいは中にいる。


「きゃっ……! なになになになに!? きゃー!! 白い人ー!!」

「あれは人形だ! 落ち着け!」

「いやぁぁぁあああ!!!」


 本当になんでお化け屋敷に入るって言ったんだよ、と思わせるほどに実莉は怖いものが嫌いらしい。

 ……あと、なんかずっと背中に柔らかいものが二つ当たっている気がするけど、気にしない気にしない。


「ほら、さっさと出るぞ」

「う、うん……」


 結局その後も何度も同じようなことを繰り返し、入ってから二十分後ようやく出ることができた。


「お、やっと出てきた。遅かったな」

「……ああ。めっちゃ疲れた」

「…………」


 俺はずっと叫んでいる実莉を外に出すのに疲れ、実莉は叫び疲れて黙り込んでいる。

 こうして、色々あったが長いようで短かった校外学習は幕を閉じたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る