第24話 浅草観光①

 俺たちを乗せたバスは浅草に到着し、下車する前に先生から諸注意を受けてから自由行動となった。

 現在時刻は十時頃で、帰りの集合時間は十六時半だ。

 合計で六時間半の自由時間があり、その間ならどこにでも行っていいらしい。ただし、帰りの集合時間は厳守だ。


「よっしゃ! 行こうぜ!」


 いち早く下車し、随分と張り切った様子で明沙陽あさひが先頭に立った。

 俺たちの今日の予定は、


 雷門から仲見世散策 → 浅草寺と浅草神社参拝 → 浅草花やかた


 という感じだ。

 女子たちの提案で、昼飯は仲見世散策中の食べ歩きで済ませることに決まった。俺と明沙陽は食べ歩きで足りるかどうかは分からないが、その分たくさん食べることに決めている。

 …………それにしても。


「なんだよ、実莉みのり

「別になんでもないけど?」


 バスを下車してから、実莉が俺の服の裾を後ろから掴んで離してくれない。

 明沙陽と八重樫やえがしは二人でどんどん進んでいるのに対して、俺は実莉のせいで中々進めないでいた。

 てか明沙陽のやつ、実莉とのこと協力してほしいとか言ってたくせに実莉の存在忘れてどんどん進んでくじゃん。


「じゃあなんで服の裾掴んでんだよ」

飛鳥馬あすまくん成分充電してるの」

「なんだそれ」

「今日のバス、本当は飛鳥馬くんと隣になりたかったのに明沙陽に邪魔されたんだもん。だめ?」

「……勝手にしろ」


 上目遣いでお願いされて、断れるわけないじゃん。

 バスの中でもずっと明沙陽と実莉について考えてたけど、結局どうすればいいのか答えは出ないまま。

 もう考えるのはやめて、今日は全力で楽しもうって思ってたのに。このままじゃ、どうしても考えちゃうじゃないか。


「早く行くぞ。明沙陽たちに怪しまれる」

「うんっ」


 そして雷門に遅いペースながらも到着し、先に着いていた明沙陽たちと合流して四人で写真を撮った。

 雷門をくぐると、両脇にずらりとみやげ物屋さんが並ぶ仲見世通りに入る。ここは250mに約九十軒のお店がひしめく、江戸時代から続く日本最古の商店街らしい。

 とても賑やかで、日本人だけでなく外国人観光客もたくさんいるのが見て分かる。


「あっ! 見てここ! 昨日言ってた場所じゃない?」

「ほんとだ! 入ろうよ!」


 雷門をくぐってから、ハイテンションになっている実莉と八重樫。

 二人は目の前に続くたくさんのお店を見て、昨日調べていた場所には大体入ると決めているらしい。


 まず俺たちが入ったのは白玉スイーツ店だ。

 ここは少し前にテレビ番組でも紹介され、一時間以上待つこともあるすごく人気なお店らしい。

 和菓子好きな俺からしても、ここは絶対に行きたいと思っていた場所の一つだ。

 食べ歩きできないのは残念だが、中に入ってじっくり白玉の美味しさを堪能できる。


「白玉か! 美味そうだな!」

「五種類もあるのか……迷う」


 黒みつきなこ、みたらし、抹茶黒みつ、ずんだ、白玉ぜんざい。この五種類から選ばなければならない。


「黒みつきなこと抹茶黒みつで迷うけど、俺は抹茶黒みつにする!」


 本当は両方食べたいが、今後も何かしら食べるため仕方なく抹茶黒みつだけを食べることにした。

 するとなぜか、目の前に座っている実莉は俺の言葉に反応して口を開く。


「じゃあ、私も抹茶黒みつにしようかな」

「えー、みのりんが抹茶黒みつなら私も抹茶黒みつにしたい!」


 謎の連鎖。

 ということはまさか……。


「なら俺も抹茶黒みつだな!」


 いや、なんでやねん。

 四人全員が選んだのは抹茶黒みつ。しかもそれは俺が選び、それに合わせて選んだ実莉から連鎖が始まってしまった。

 別に悪いことではないが、絶対俺以外のやつは自分が食べたい物を選んでいない。


「すごく美味しいって評判だし、楽しみ!」

「抹茶黒みつなんて絶対美味しいもんな!」

「これからもたくさんの美味しい物食べれるなんて、幸せ〜!」


 目の前で楽しそうに話している明沙陽と実莉。

 俺はその様子を頬杖をつきながら見ていると、隣に座っている八重樫はニヤリと笑った。

 直後、ポケットに入っているスマホが振動する。


『妬いてるの?』


 八重樫からのLIMEである。

 返信せずに隣を見ると、クスクス笑っている八重樫の姿があった。


『なんでそうなる』

『羨ましそうに二人の様子見てたじゃん』

『いいんだよ。元はと言えば俺があの二人を隣にしたんだし』

『あれはびっくりしたなー。私とみのりんが一緒に座ろうとしたら飛鳥馬くん、八重樫と話したいことあるからって言って私の隣に座ってきたんだもん』

『うるせ』


 俺と八重樫が隣にいるにもかかわらずLIMEでやり取りしているうちに、注文した抹茶黒みつの白玉が運ばれてきた。

 早速一つ口に入れてみると、もちもちの白玉が口の中を転がり始める。


「「「「美味!?」」」」


 思わずそう口に出てしまうほど、この白玉は美味しかった。

 抹茶って、なんでこんなにも美味しいんだろう。

 その後は全員喋ることなく、ただ白玉を食べ続けた。喋らなかったんじゃない。喋れなかったのである。



「はー! 美味しかったー!」


 全員が食べ終えて、幸福感に満たされながらも外に出た。

 一番最初にこの白玉を食べて、果たして後の物を美味しく食べられるのだろうか。


「本当に美味しかったね! 浅草最高!」

「白玉、最高だった……」

「珍しく飛鳥馬くんが涙流してる!?」

「え、うそ!?」


 パシャリ。


「お、おい! なんで写真撮るんだよ!?」

「実莉、あとで写真送っといてー」

「俺にもー」

「やめろぉぉぉおおお!!!」


 悲報。俺、感動のあまりに涙を流したら友達に泣き顔晒されたんだが。

 実莉なんて、その写真見ながらずっとクスクス笑ってるし!


 実莉から明沙陽と八重樫に写真が送られ、二人は写真を見ながら笑っている。くそ、恥ずかしい。

 実莉だけは絶対に許さん、と心に決めると同時に、当人である実莉がこちらに近づいてきた。


「飛鳥馬くんの泣き顔初めて見たけど、可愛いね」


 そして俺にしか聞こえないような声で、クスクス笑いながらそんなことを言ってくる。


「……覚えとけよ」

「うん、わかった。覚えとくね」


 実莉は頬を赤く染めながら、ニコリと笑って身を翻す。

 そんな後ろ姿を、俺は黙って見ることしかできなかったのだった。

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