第23話 俺はどうすればいいんだ

 先週の班決めは本当に壮絶だった。

 クラスの男子たちは実莉みのり八重樫やえがしのもとに。女子たちは明沙陽あさひのもとに。

 俺だけが取り残されてすごく悲しかったが、結局強引に三人を引っ張り出してなんとか四人班を組むことができた。

 クラスの人たちにめっちゃバッシング受けたけど……。


「まあ、しょうがないよな……うん」


 クラスのみんなから目の敵にされたことを思い出し、深くため息をつく。

 しかし今日は校外学習。これからバスで浅草に向かい、着いてからはずっと自由行動だ。最高!


「いやー、浅草マジで楽しみだな。京也きょうや、あと今日はよろしくな」

「……あ、おう」


 バスに乗る直前、バスが止まっている場所まで一緒に来た明沙陽が楽しそうに話しかけてきた。

 今日はよろしくな。と言われたのは、昨日の夜明沙陽に頼まれたことが関係している。


『実莉ともっと距離を近づけたい。だから明日、協力してほしい』

『……わかった。告白、するのか?』

『…………わからない。するかもしれないし、しないかもしれない』

『……そうか』

『おう』


 明沙陽が幼馴染である実莉を好きなことは、結構前に教えてもらった。

 当時は実莉からの相談もあったため、二人のことを応援していた。

 しかし今、俺はどうすればいいのか分からないでいる。


 ――明沙陽の恋を応援するべきか。しないべきか。



『私は飛鳥馬あすまくんのことがずっと好きだったの。だから、私と付き合ってください』



 実莉に告白をされて、未だ返事は保留中。

 正直、こんな状態で明沙陽を応援なんてできるわけがない。

 もしこの事を明沙陽に知られたら、と思うと怖くて怖くて仕方がない。


 親友の好きな人の気持ちを知っていて、且つその気持ちは俺の方に向いている。それなのに親友の恋を応援する。意味がわからないだろう。

 やってることは人間として最低だ。嫌われてもおかしくない。


 なら、俺は一体どうすればいいのだろうか。

 今までずっとどうすればいいか考えてはいたんだ。

 でも、考えても考えても答えは見つからないままだった。


「はぁ……」


 これからが不安でしかない。

 明沙陽の恋の応援をやめれば少しは気が楽になるのだろうが、理由を聞かれれば回答に困ってしまう。

 また実莉を振れば少しは気が楽になるのだろうが、理由が明沙陽のためだと言えば当然怒られる。

 はぁ……本当にどうしたらいいんだろうな。


「じゃあ俺、実莉に隣の席になろうって誘ってくるわ。浅草でもよろしくな、京也」


 俺の悩みなど知る由もない明沙陽は笑顔でそう言って、早速バスの中に入っていった。

 元々俺と明沙陽が一緒に座り、実莉と八重樫が一緒に座る予定だったが恐らく交換は認められるだろう。

 でもなぜか、明沙陽の言葉を聞いた俺は心がモヤモヤして、バスの中にしばらく入ることができなかったのだった。



 明沙陽がバスの中に入ってからしばらく経ち、俺は結局答えが出ないままバスに乗車した。

 すると乗車してすぐの場所に、俺を除いた班員三人が座っているのを見つける。


「遅かったな、京也」

「「飛鳥馬くんおそーい」」

「悪い。トイレ行ってたんだ」


 どうやら明沙陽は実莉の隣に座れたようで、明沙陽と実莉が前、その後ろに一人で八重樫が座っていた。

 俺は八重樫の隣に腰を下ろし、ふぅと一息つく。

 そしてクラス全員が乗車したところで、バスは出発した。


「ねぇねぇ飛鳥馬くん」


 大半の人が隣の席の人と談笑している中、突然隣に座っている八重樫が小さな声で話しかけてくる。


「ん?」

「やっぱり桐崎きりさきくんってさ、みのりんのこと好きなの?」

「随分と急な質問だな。なんでそう思うんだよ」

「最近の桐崎くんを見てて思ったんだけど、みのりんにだけはすごく優しいんだよね。他の女の子に話しかけてられても塩対応なのに。私には多分みのりんの親友枠のおかげか塩対応じゃないけど」


 八重樫の言っていることは、基本的に全て当たっている。

 明沙陽の場合は差が激しいため分かりやすいが、八重樫とは初めて話してからまだ一週間も経っていないだろう。

 それでここまで言い当てられるなんて、エスパーか何かか?


「二人が幼馴染ですごく仲良いってのは知ってるんだけど、桐崎くん見てるとそれだけじゃなさそうなんだよねー」

「八重樫、俺はお前が怖い」

「なんで!? あ、もしかして当たり?」

「……うん、まあ。だから昨日協力してくれって頼まれた」

「へー? じゃあ飛鳥馬くんは協力するの?」

「頼まれたんだし、協力するしかないだろ」

「いいの?」

「……え?」


 八重樫の言っている意味が分からなかった。

 確かに、明沙陽の恋の応援で悩んでいるのは紛れもない事実だ。

 でも協力してほしいと言われて協力すると言ってしまった手前、今更やめることはできない。

 それなら恋の応援で悩んでいても、やるしかないじゃないか。


「飛鳥馬くん、桐崎くんのためにって遠慮してない?」

「? どうゆうことだよ」

「え、もしかして自覚ない感じ?」


 八重樫は驚いた顔を見せ、一度明沙陽たちが座っている前の席の方を確認してから俺の耳元に口を寄せた。


「飛鳥馬くんって、なんじゃないの?」


 ………………は?


「ちょっと待て。どうしてそうなった」

「え、違う?」

「普通に違うと思うけど?」

「うっそだー。照れ隠ししても無駄だよ?」

「全然照れ隠しなんてしてないぞ」

「ほんとに?」

「ほんとに」


 八重樫は目をぱちぱちとさせて、こちらの様子を伺ってくるが本当に照れ隠しも何もしていないためどうしようもない。

 それより、俺が実莉のことを好きだって思われているのが謎でしかない。


「飛鳥馬くんも桐崎くんと同じようによくし、放課後もよく一緒にいるみたいだから好きなんじゃないかって思ったんだけど」

「……え、目で追ってる? 俺が? 実莉を?」

「うん。いつからだっけな。私が気づいたのは席替えする前あたりだった気がする」


 実莉のことを目で追っている。

 そんなつもりは一切なかったし、今言われるまで自分でも気づかなかった。

 ということは完全に無意識で、実莉のことを目で追っていたのか?

 なんで……。


「全然気づかなかった」

「無自覚系かー。まあ、私はあまり人の恋愛に口を出したくないし、これ以上は自分で考えて。おやすみ」

「は? ちょっ……」


 言うだけ言って、一瞬で眠りについてしまう八重樫。

 俺もあまり昨日は寝れなかったため寝ようと思ったが、八重樫の言葉が頭の中から離れず寝ることはできなかった。

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