第22話 早く浅草行きたい
校外学習まで約一週間。
今日は来週に控えた校外学習の班決めとバスの席決めをするらしい。
今年の二年生の行き先は浅草。
基本的には各クラスで四人班を十個作り、その四人班で浅草を自由行動することができるらしい。
「いやー、楽しみだな。浅草」
「浅草行くならやっぱり食べ歩きしたいな」
「分かる! あとは浅草寺にも行きたい!」
「それな!」
このような感じで、クラスのみんなは完全に来週行く校外学習の話題で持ちきりだった。
高校生として行く二回目の校外学習。俺としてもすごく楽しみだ。
ちなみに一年生の頃は神奈川にある水族館や遊園地、ショッピングモール等を含む複合型海洋レジャー施設に行った。昼はバーベキューをして、午後は自由行動ですごく楽しかったのを覚えている。
「
「
「遊園地っていうか、絶叫系アトラクションが好きなんだよ。可能であればずっと乗ってたい」
「いや、死ぬわ」
校外学習が近くなり、当然俺たちも浮かれていた。
浅草には何度か行ったことがあるが、ちゃんと観光したことはない。
そのため俺としては一ヶ所にずっと滞在するのではなく、色々な場所を回って観光したいと考えている。
「えー、絶対楽しいのになー。あ、そういえば
「うん。もう誘ったよ」
「早いな。誰誘ったんだ?」
「そんなの一人しかいないよ。私といえば
「まあ、同じ部活だからな」
実莉が誘ったというのは、
少し長めの黒髪を後ろでまとめたポニーテールと碧眼が特徴的で、スタイルが良くいつなんどきも元気で明るい美少女だ。
そして俺と同じ陸上部に所属していて、種目は1500mと3000m。ちなみに、1500mでは県大会にも出場している。
走っている時の姿はいつもの明るく元気な顔とは違って、すごく凛々しいところがチャームポイントであると俺は思う。
「八重樫さんか! 俺も話してみたいって思ってたし、ちょうどいいな!」
「や、明沙陽は美音に近づかないで」
「なんで!?」
「美音は私の大切な友達だから」
「いやいや、同じ班になるんじゃないの!?」
「うん。でも近づかないで」
実莉に思い切り冷たくされ、しゅんとしてしまう明沙陽。
さすがにあれは言い過ぎだろう。
「
「ふふ、
俺が名前ではなく苗字で呼ぶと、実莉はこちらに大変怖い笑顔を向けてきた。
しょうがないじゃん。明沙陽がいると、なんか実莉って呼びづらいんだもん。
「……実莉、今のは言い過ぎだと思う」
「幼馴染だからこそ、美音に近づけてたくなかったんだけど……確かに言い過ぎたかも。明沙陽、ごめんね」
「お、おう?」
「はぁ……」
明沙陽は俺と実莉の関係について疑問に思ったのか首を傾げるが、何も聞いてくることはなかった。
「お前ら席に着けー。校外学習の班決めするぞー」
俺たちが校外学習の話で盛り上がった直後、先生がようやく教室に戻ってきた。
先生の合図により、クラスの全員は一斉に静まり返って先生に注目する。
「班は四人で一組。男女別でも男女混合でもどちらでも構わない。班が作れたところから俺のところに来てくれ。じゃ、よろしくー」
先生は後のことは自由にさせるようで、クラスのみんなは一斉に動き始めた。
俺たちは元々席が近いため動いていないが、遠くの席から八重樫がやって来る。
「みのりん誘ってくれてありがとー! 大好き!」
「美音痛い……ほっぺスリスリしないで」
「いいじゃんいいじゃん! みのりんだって嬉しいでしょ?」
「うーん……まあ、うん」
「だよね! スリスリ〜」
「もう! 痛いってー!」
実莉ですらも手に負えないのが八重樫美音である。
一見実莉と八重樫は相性が悪そうに見えるが、実際はすごく仲が良い。むしろ仲が良すぎて、一部の人からは「百合?」などと噂されているくらいだ。
「ほんと元気だな、八重樫」
「八重樫さん、よろしくねー」
「飛鳥馬くんと
これで校外学習は楽しむことができそうだと、ここにいる全員が思った。
しかしその直後、思いも寄らない事態が起こってしまう。
「明沙陽くん、私たちと一緒に回ろ!」
「あたしたち! あたしたちと一緒に回ろうよ!」
「ちょっと! 私たちが明沙陽くんと一緒の班になるんだから邪魔しないでくれる!?」
「胡桃沢さん! 僕たちと一緒に回りませんか!」
「八重樫さん! 俺たちと同じ班になってください!」
「二人とも俺たちの班だぁぁぁあああ!!!」
「誰だよお前、調子乗んな! 二人は俺たちの班になるんだよ!」
明沙陽も、実莉も、八重樫も、クラスみんなから一緒の班になろうと誘われ一気に囲まれてしまったのだ。
そこで一人、ここに取り残されているやつがいるんだけど、俺のところには誰も来ないの……?
イケメンと美少女にしか興味ないってこと?
俺以外の三人を誘うなら、一人くらい俺のところに来てくれてもよくない?
「俺だけ取り残されて、本当に可哀想なんだが」
クラスの男子たちは全員実莉と八重樫のもとに。
クラスの女子たちは全員明沙陽のもとに。
俺だけ教室の隅で、悲しく座っている。
「京也ー! 助けてくれー!!」
明沙陽が助けを求めてくるが、もう関係ない。
あんな裏切り者は、一度くらい酷い目に遭った方がいいのだ。でなければ、あまりにも俺が惨めすぎる。
「がんばー」
「ちょ……!? おい! 京也ーーー!!」
さて、俺は男子たちに囲まれてる女子二人を助けに行くとするか。
明沙陽の悲鳴を気にすることなくそう心に決め、クラスの男子たちが群がっている中に入っていったのだった。
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