3. 絶交、そして決断

第26話 違和感 ※桐崎明沙陽視点

 俺――桐崎明沙陽きりさきあさひには好きな人がいる。

 小さい頃からずっと一緒にいて、小さい頃からずっと好きだった女子。

 胡桃沢実莉くるみざわみのり

 それが俺の好きな人の名前だ。


『実莉!』

『明沙陽くん! これからもずっと仲良しでいようね!』

『もちろんだよ!』


 小さい頃はまだ純粋で、好きなんて気持ちは知らなかった。

 でも昔のことをよく思い出してみると、あの時の俺は間違いなく実莉に恋をしていただろう。


『明沙陽くん、かっこいい』

『明沙陽くん、もしよかったら私の家に来ない?』

『明沙陽くん――』


 俺は小さい頃から、色々な女子に言い寄られては告白されてを繰り返していた。

 最初の方は自分を好きになってくれる人がいてすごく嬉しかったし、かっこいいと言われてチヤホヤされてすごく心地よかった。

 でも女子たちにチヤホヤされ続けて、段々と鬱陶しく感じるようになってしまったんだ。


『ごめん。かっこいいって言ってくれるのは嬉しいけど、さすがに鬱陶しいよ』


 少し話をしただけでも、勘違いをされて告白される。

 ただ目が合っただけなのに、勘違いをされて告白される。

 告白をされる度に、常々思う。


 本当に鬱陶しい、と。


 告白をされる身にもなってほしい。

 ただ目が合っただけなのに告白されるって、普通に考えてもおかしいだろ?

 そして毎日のように放課後呼び出されて、知ってる人だけでなく知らない人からも告白されるなんて耐えられなかった。


 でも、実莉だけは違ったんだ。

 実莉とは小さい頃からずっと一緒にいるからってこともあるんだろうけど、目が合っても話しただけでも告白してこない。

 俺とただ仲良くしたいと思って接してくれた。


 ――好きだ。


 そう考えると俺は、いつの間にか自分を特別扱いしない幼馴染の実莉に惚れてしまっていたのだと思う。

 でも、ある日を境に実莉は俺を見てくれなくなったんだ――。



***



 校外学習が終わり、帰りのバスに乗る。

 俺は行きと同様実莉の隣に座り、疲れてしまったのかバスの発車と同時に寝た実莉の顔を眺めていた。


「……ほんと可愛いな」


 幼馴染なため何度も寝顔を見たことはあるが、実莉への気持ちを自覚してからすごく可愛く見えて抱きしめたくなる。


「なぁ、実莉。お前の好きな人って……」


 気持ちよさそうに眠っているため聞こえてはいないだろうが、ずっと聞きたかったことを聞こうと思った。


 ――実莉は、京也きょうやのことが好きなんじゃないか?


 確証はない。

 でも実莉の言動の節々に、違和感を覚えていたんだ。


 まずは今日バスを降りて雷門に向かった時。

 試してみようと思った。二人を一緒にしたら、どうなるんだろう。普通の友達だったら、何も無くただ歩いてくるはずだ。

 そのため俺は八重樫やえがしさんを引っ張るように先に行くと、その後京也と実莉が頬を赤く染めながら一緒に来た。

 普通におかしいって思うだろ? なんで二人して頬を赤く染めながら、一緒に来てるんだろうって。



 次は浅草花やかたのお化け屋敷に行くって決まった時。


『絶対やだ! 私は絶対入らないから! ……あ、でも飛鳥馬あすまくんとなら入る』


 あんなに怖いのが苦手ですごくビビりな実莉が、京也と以外は一緒に入りたくないと言った。

 俺と八重樫さんには別の理由を説明していたけど、俺はこの時に確信したと言っても過言ではない。


 実莉が見せた京也に対する信頼の眼差し。

 京也に向けた可愛い笑顔。真っ直ぐな視線。

 まるで京也以外の人には興味がないと言ったような、そんなアピール。


「やっぱり実莉は……」


 ずっと前から、違和感は覚えていたんだ。

 元々話したことすらあまりなくて、ただ俺と仲の良いだけの二人だったはずなのに。気がついた時にはもう、二人は仲良くなっていた。

 京也なんて、いつの間にか実莉のことを名前で呼んでるし。


 別に実莉が他の人を好きになることはいい。

 でも、京也だけは許せない。

 俺の気持ちを知っているくせに、俺に黙って実莉と仲良くなって。関わってる女子すらいないとか言っていたくせに、嘘をついて。

 ……もし実莉が京也のことを好きだったら。俺は、どうするんだろうか。


「明後日、探りを入れてみるか」


 明日は休みだ。そのため明後日に、何かしらの方法で探りを入れることに決める。

 これでもし、実莉の好きな人が京也だったら俺は――。



 二日後、いつも通りの六時間授業を終えて放課後になると、俺は屋上に向かった。もちろん京也と実莉を呼び出して。

 少し部活に遅れることにはなるが、まあいいだろう。

 ちなみに屋上の鍵は、野球で遊んでいたら屋上にボールが入ってしまったと先生に嘘をついてゲットした。


「ふぅ……」


 京也たちが来る前に深呼吸をする。

 すると、京也と実莉は二人で一緒に屋上にやってきた。


「なんだよ、話って。てか、屋上の鍵どうやってもらったんだ?」

「そんなのはどうでもいい」

「……明沙、陽?」


 京也は俺の様子が変なことに気づいたのか首を傾げる。

 実莉は屋上に来てから、ずっと険しい顔をしている。


「なぁ、二人とも。俺に何か隠し事してないか?」

「「……隠し事?」」

「ああ。特に京也、お前は俺にとても大事な事を隠している。関連で。違うか?」

「…………」


 核心をついてみると、図星だったようで京也は黙り込んだ。


「やっぱりそうだよな。ずっと変だなって思ってたんだ。急にお前たち二人は仲良くなって、いつの間にか実莉は京也のことばっか見るようになった」

「それは……」


 京也もとうとう険しい顔になった。

 ああ、もうダメだ。

 京也を親友だとは思えない。消えてしまえばいい。

 俺から幼馴染とずっと前から好きだった人を、同時に奪ったクソ野郎のことなんて大っ嫌いだ。

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