第18話 いいこと思いついた
そしてもう一つあった弁当箱を開けてみると、唐揚げや卵焼き、ミニトマトとなど色とりどりの物が詰め込まれている。
「おー!」
「ふふっ。美味しそうでしょ?」
「めっちゃ美味そうだよ! これ全部手作りなのか?」
「うん。だって私からの愛妻弁当だからね♡」
「……まだそれ言うのかよ」
「いずれ夫婦になるんだし、練習は必要だって思ったんだよ」
どうして俺と胡桃沢が夫婦になること決定なんだ……。
「練習、か。普通にお腹空いてるし、食べていいか?」
「いいよ」
「じゃあ、いただきます」
胡桃沢の承諾を得て、俺は早速サンドウィッチに手を伸ばす。
しかしサンドウィッチに手が届きそうになると、胡桃沢は何かを思い出したかのように「あ」と呟いた。
「ん? どうした?」
「いいこと思いついたんだけど」
そう言った胡桃沢はニヤリと笑っている。
ものすごく嫌な予感しかしない。
「拒否権は?」
「まだ何も言ってないよ? いいこと思いついたって言っただけなのに、どうして拒否しようとするの?」
「自分の顔を鏡で見てみろ。俺の言いたいことがわかるはずだから」
「えー? いいじゃん。聞くだけ聞いてみてよ」
鍵が外側から掛けられており、その鍵は今胡桃沢が持っている。つまり、今から屋上に来た人たちは絶対に屋上に入ることができない。
完全に二人きりの状態。誰にも邪魔をされることはなく、何か変なことをしても誰かにバレる心配はないだろう。
そんな時に胡桃沢にニヤニヤしながらいいことを思いついたと言われれば、嫌な予感がしないわけがない。
「……わかった。とりあえず聞いてはみるけど、俺は何もやらないからな」
「つまらないなー。まあ、いっか」
胡桃沢なら簡単に引き下がらないだろうと思っていたが、意外とあっさり引き下がった。
そして俺から視線を外し、お弁当に入っているサンドウィッチを掴む。
「はい、あーん」
「……なんだよ急に」
「いいから口開けて。あーん」
口を開けずにしばらく待つが、胡桃沢は引き下がらずにずっとサンドウィッチを手に持っている。
さすがに胡桃沢が可哀想に思えてきたため、俺は一口だけと心に言い聞かせてサンドウィッチを頬張った。
今食べたのは卵サンド。中には卵の他に輪切りされているきゅうりが入っていて、俺好みの濃すぎず薄すぎずの味付けで絶品になっている。
「美味しい?」
「ああ、めっちゃ美味しいよ。てかいいこと思いついたって、もしかしてあーんのことかよ」
「ちょっと違うかな。せっかく愛妻弁当作ってきたんだし、夫婦ごっこしない?」
「ふうふ、ごっこ……?」
「そう、夫婦ごっこ」
なんだそれ、と思いつつも胡桃沢の提案を聞くことにした。聞くだけ聞くって言っちゃったし、仕方がなく。
――夫婦ごっこ。
それは言葉通り、俺が夫役をし胡桃沢が妻役をして夫婦がやりそうなことを片っ端からやっていくらしい。
もちろん俺はするつもりなど毛頭ないが。
「しないぞ?」
「なんでよ!」
「一応聞くと言っただけで、俺は何もしないって言ったはずだ」
「ふ〜ん? そんなこと言っていいんだ?」
「…………え?」
胡桃沢はニヤニヤしながらスマホを取り出し、フリックやタップなどの操作を始める。
なぜか、すごく嫌な予感しかしない。
「この動画みんなにばらすけど、いいの?」
そう言って、こちらに何らかの動画が一時停止されている画面が表示されたスマホを差し出してくる。
俺は恐る恐るスマホを受け取り、再生ボタンをタップした。
すると教室で机に突っ伏し、眠っている状態の俺がドアップで映し出される。
『んん……胡桃沢……』
……は? 俺、寝言言ってる?
『どうしたの?
『……どこにも……行くな……』
『え?』
『……胡桃沢は……俺の……』
『俺の?』
「…………の、だから……誰にも……渡さない……」
ここで動画は終了した。
…………俺、寝言でなんてこと言ってんの!?
どんな夢見てたんだよぉぉぉおおお!!!
「おい、これって……」
「飛鳥馬くんが一日中寝てた日あったでしょ? その日の移動教室の授業前、みんなが行った後に撮ったの」
「合成、じゃないよな?」
「うん。本当に飛鳥馬くんが言ってたことだよ」
「そんな馬鹿な……」
俺が四つん這いになって項垂れていると、胡桃沢はムカつくくらいニヤニヤしながら近づいてきた。
「どうする? この動画をみんなにバラされるか。それともここで誰にもバレることなく、私と夫婦ごっこをするか」
悪魔だ……。
そんなの、ここで胡桃沢と夫婦ごっこをする以外選択の余地はない。
「……わかった。するよ、夫婦ごっこ」
「決まりね」
「その代わり、さっきの動画は消してくれ」
「えー、やだ」
「なんでだよ!? 胡桃沢が消さないなら夫婦ごっこはしないぞ」
「じゃあみんなにバラすよ?」
あ、これって俺どうやっても勝てないやつじゃん。
この動画を他の誰かに見られるわけにはいかない。特に
つまり、俺は黙って胡桃沢の言うことを聞くしかない。
「それだけはご勘弁を……。夫婦ごっこするので、みんなにバラすのだけは許してください」
「よろしい」
斯くして、俺たちの夫婦ごっこは始まったのだった。
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