第17話 突然の呼び出し
俺と
「今日はパンの気分なんだよなー。
「……ああ、そうだな」
「なぁ、本当にどうしたんだよ。今日のお前、様子変だぞ」
「ちょっと色々あってな……」
昨日明沙陽と話した時は普通に話せていたが、胡桃沢と水族館デートをしてからなぜか明沙陽とは話しづらくなっていた。
明沙陽は俺と胡桃沢の関係を何も知らないためいつも通り接してくれているが、全てを知っている俺からしたら本当に話しづらい。
誰かに相談したいところだが、もし明沙陽に相談したら「は?」ってなるだろうし、胡桃沢に相談なんて論外だ。
「大丈夫か? いつでも相談乗ってやるから、言いたくなったら言えよ」
「さんきゅ」
その後も歩き続け購買の前に並ぶ行列が見えてきたところで、突然制服のポケットに入っているスマホからバイブ音が聞こえてくる。
俺のスマホに電話がかかってくるなんて珍しいな、と思いつつもスマホを取り出した。
「……は?」
「ん? どうした?」
「あ、いや、なんでもない」
「? そうか」
スマホに表示されているのは胡桃沢の名前。
紛うことなく胡桃沢からの着信だった。
「明沙陽、電話来たから先行っててくれるか?」
「了解。誰からの電話?」
「……母親だ」
「そっか。すぐ戻ってこいよ」
「おう」
胡桃沢からの電話だと、答えることはできなかった。
明沙陽には内心悪いと思いつつも、俺は人気のない場所へ向かって応答ボタンをタップする。
「……もしもし?」
『
「ごめん。さっきまで明沙陽といたんだよ」
「それでもすぐ出てほしかったなー」
「だから悪かったって。……で、教室に戻れば会えるのにわざわざ電話なんてどうしたんだよ」
――ヒュー。
なぜかは分からないが、どこからか風の音が聞こえてきた。
今俺は二階の隅に立っており、周りの窓は全部閉まっているため風の音が聞こえてくるはずがない。
そのためこの風の音は、電話をしている胡桃沢のところから聞こえてきているのだろう。
教室かと思ったが、周りではしゃぐ人たちの声は聞こえてこない。なら、外にいるのだろうか。
「来てほしい場所があるんだけど、ちょっとこっち来れる?」
「別にいいけど、明沙陽が先に購買行ってるからその後でも大丈夫か?」
「だめ。すぐ来て」
「……いや、なんで?」
「購買に行かないで、すぐこっちに来てほしいの」
寂しそうに、少しトーンを下げて言う胡桃沢。
何か嫌なことでもあったのだろうかと心配になり、俺は走って胡桃沢のもとへ向かうことに決める。
「わかった。どこに行けばいいんだ?」
「屋上」
「了解。すぐ行くから待ってろ」
「うん」
電話を切り、すぐに向かおうとしたがまずは明沙陽に連絡することにし、明沙陽とのトークルームを開く。
そして『悪い。今日の昼用事できたから昼飯食わないわ』と手馴れたフリック入力で打ち込み送信した。
「昨日の水族館あんなに楽しそうだったのに、昨日の今日で一体何があったんだよ……」
電話越しの胡桃沢は、明らかにいつもより元気がなかった。
さすがに心配なため、俺は先生に「廊下は走るな!」と注意されても無視し急いで屋上へ向かったのだった。
屋上前に着くが、胡桃沢どころか誰の姿も見えない。
屋上は先生から許可を得て、鍵を貰わなければ出ることはできないはずだが……。
「やっぱり鍵かかってるよな」
胡桃沢が外にいるのは分かっているし、念の為屋上に出れるか確認してみるがやはり鍵がかかっていて入れなかった。
「胡桃沢が来るまで待つか」
急いで走ってきたから胡桃沢もまだ来てないのだろう。
そう結論づけ、屋上に繋がる扉にもたれかかって待つことに決めた。
しかし次の瞬間、急に後ろの扉が開き、もたれかかっていた場所がなくなった俺は後ろ向きに倒れてしまう。
「いって……」
後ろ向きに倒れることで当然頭を打ち、仰向けの状態で頭をさすっていると、突然現れた誰かの体が太陽の光を遮った。
恐る恐る目を開けると、真上から俺の顔を覗いている肩下まで伸びた綺麗な栗色の髪に翠眼の美少女が立っていた。
……胡桃沢だ。
「ふふっ……びっくりした?」
「びっくりした? じゃねぇよ。思いっきり頭打ったんだが?」
「ごめんごめん。まさかもたれかかってるとは思わなくて」
「全く……」
俺はまだ少し痛い頭をさすりながら立ち上がり、制服の砂などで汚れた場所をパッと手で払った。
「背中届かないでしょ? やってあげる」
「さんきゅ。てか、どうやって先生から屋上の鍵貰ったんだよ。普通貰えないだろ」
「んー、よく分からないけど普通に貸してくださいって言ったら貸してくれたよ」
なるほど、可愛い子には先生も甘いのか。
うん、意味がわからん。
「そうなのか……で? 電話越しだといつもより元気なさそうだったけど、どうかしたのか?」
「え? 私普通に元気だよ?」
「……は?」
こいつ、何かで悩んでるから俺を呼び出したんじゃないのか?
「電話の時は飛鳥馬くんが来てくれなさそうな雰囲気だったから、じゃないかな?」
「そんな理由だったのかよ……」
杞憂だった。
せっかく先生の注意も無視して全力で走ってきたのに、無駄足だったじゃないか。
「じゃあ教室戻っていいか? 俺、昼飯食べてないんだよ」
「ちょ、ちょっと待って!」
「ん?」
「私と食べようよ! お昼ご飯!」
「嫌だよ。明沙陽には用ができたから昼飯食わないって言っちゃったし、今から購買行ってももう何も無いと思うぞ?」
「大丈夫。もうあるから」
「……え?」
胡桃沢はニヤリと笑い、後ろに振り向いて何かを指差した。
その先には、ピンクの可愛らしいバッグが置いてある。
「作ってきたの。お弁当」
「お弁、当……?」
「うん、私の手作り弁当だよ。あ、間違えた。私からの愛妻弁当だよ♡」
「まだ結婚してないんだが」
「そうだね。まだ、ね」
「…………」
完全に口が滑っただけなんだ。言葉選びを間違えただけなんだ。信じてほしい。
しかしそんな俺の言い訳など知る由もなく、胡桃沢は「ふんふん︎︎♪」と鼻歌を歌いながら嬉しそうにお弁当が置いてある場所へ向かう。
「結構自信あるんだ! だから早くここで食べようよ」
「……わかったよ。胡桃沢の料理にはあまり期待してないけどな」
「酷い! 私、飛鳥馬くんに料理作ってあげたことあるよね?」
「あれはまぐれだと思ってる」
「最低……せっかく彼女が頑張ってきたのに」
「頑張ってきてくれたのは嬉しいけど、お前は俺の彼女じゃないんだが?」
「まだね」
「…………」
胡桃沢は再びニヤリと笑う。
本当に、もう勘弁してほしい。
そう思いながら、俺は胡桃沢と同時に腰を下ろしたのだった。
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