第15話 水族館デート①
「ここは……」
「水族館!」
放課後、
時間的にはもう夜に近いが、どうやらここの水族館は夜も開館しているらしい。
二十時に閉館で、俺たちがやって来たのは十八時半。部活が早く終わったおかげで、なんとかここまで早く来れたのが幸いだ。
「閉館まで一時間半しかないから、結構速いペースで回ることになるけど大丈夫?」
「俺は構わないよ。その一時間半、全力で楽しもう」
「うんっ!」
俺たちは急いでチケットを二枚買い、まずは二階に向かう。
夜だからか水族館に入館するのにあまり時間はかからず、二人で並んですんなり進んでいくことができた。
「意外と人少ないね」
「夜だからなんじゃないか? 俺は夜に水族館なんて来たの初めてだけど、胡桃沢は?」
「私も初めて。夜の水族館ってロマンチックだよね」
「胡桃沢でもロマンチックに感じるんだな」
「なにそれ酷い! ……あっ! すごくきれい!」
「おー、めっちゃきれいだな」
水族館に入ったところですぐに見えてきたのはきれいな濃い緑の水草が生えている水槽で、魚やエビがなどの小さな生き物が共存しているらしい。
胡桃沢なんかは水槽に両手をついて、子供のように目を輝かせている。
「胡桃沢、魚好きなのか?」
「うん! すごく可愛いから!」
俺は水槽に両手をついている胡桃沢の隣に立ち、中腰になって胡桃沢と同じ高さで水槽を覗き込む。
「確かに可愛いな」
「でしょ! 今も飼いたいんだけど、両親が飼わせてくれないんだ。だから将来は水槽買って飼おうね」
「……何言ってんだよ。まるで俺とお前が将来結婚するのが決まってるみたいじゃないか」
「えー? しないの?」
「するわけないだろ」
「
ぷくっと頬を膨らませ、怒るように言う胡桃沢。
いや、そもそも俺たち付き合ってないんだが? と突っ込みたい。
「……時間ないし、早く次行くぞ」
「あ、逃げちゃうの? ちょっと待ってよー」
俺は早歩きでその場から逃げ出そうと次の水槽に向かおうとした瞬間、突然胡桃沢に後ろから手を掴まれた。
「手、繋ごうよ」
「……なんで?」
「暗くて怖いし、はぐれちゃうかもしれないでしょ?」
こいつの言っていることは恐らく……いや、絶対嘘だ。
水槽はライトアップされているため比較的明るい上に、館内は人が少ないためはぐれる心配もない。
しかし手を強引に離そうとしても、絶対また繋いでくるだろう。それなら黙って付き合うしかない。
「はぁ、わかったよ。水族館にいる時だけな」
「やった!」
可愛らしく喜ぶ胡桃沢の顔を見て、小さくて柔らかい手を優しく握りしめる。
すると小さくて柔らかい手は反応し、離さないようにと強く手を握り返してきた。
「ふふふっ」
「なんだよ」
「いや、なんかいつもより素直な飛鳥馬くんが可愛くって」
「なっ……!? 可愛いとかやめろ。恥ずかしいだろ」
「照れてる飛鳥馬くんも可愛い♡」
「……いい加減にしないと手離すぞ?」
「ごめんごめん。許して?」
「はぁ」
密着度が高まり、いつもより心臓の音が大きくなっていく。
どうか胡桃沢にはバレませんようにと願いながら、歩を進めて水族館を回っていった。
さまざまな色のLED照明できれいにライトアップされた中でクラゲが泳いでいる水槽。そしてカラフルな魚たちときれいなサンゴ礁が並ぶ水槽のある二階から降り、俺たちは一階へ向かう。
「あっ! ペンギン!!」
階段を下りている途中で、隣を歩いている胡桃沢が突然大きな声を上げた。
視線の先には、たくさんのペンギンたちが遊んでいる様子が見える。
水の中で楽しそうに泳いでいるペンギンがいれば、岩の上で遊んでいるペンギンもいる。そんな可愛らしいペンギンたちに胡桃沢は釘付けになっていた。
「ペンギン好きなのか?」
「大好き!!!!」
「そ、そうか。じゃあ早く一階に行くか」
「うん!!」
本当にペンギンが大好きなようで、俺は引っ張られる形でペンギンが入っている開放型のプール水槽前まで走っていく。
あまり時間はかからずに到着したところで、胡桃沢はより一層目を輝かせて「可愛い可愛い可愛い可愛い――♡」と連呼し始めた。
軽く引くレベルだが、そう言ったら間違いなく殺られるため絶対に言わないようにしようと心に決めたのだった。
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