第29話 異世界になぜ転生したくなるんでしょう?

 異世界が持てはやされているのは、一つは創作者側の都合で、もう一つはそうなりたいという願望なんでしょう。


 創作者側の都合というのは、世界観や設定をあまり深く考えなくてすむということです。 物語を書くときには結構大きな枠組みを作るのが大変です。しかし、この苦労を吹き飛ばしてくれるのが異世界ものです。

 中世から近代以前くらいのヨーロッパという雰囲気、魔物、魔法、冒険者、スキル、アイテム、ギルドがある世界というのはもはや説明不用です。世界観はドラクエで設定はファイナルファンタジーなんでしょう。


 この作品作りが良いのが、知識の共通基盤を読者側ももっているので、ポーションってなに?スライムって何の化け物?獣人とかエルフってどういう人?といちいち説明しなくていいのが純粋に娯楽として楽しみたい時に、マッチするんでしょう。


 つまり苦労して取材しなくても、作品が書けるということです。異世界のバリエーションはすべてゲームの設定をいじくっているRPGツクールの小説版ということなんでしょう。


 現代劇では学校ものが多いのもこれが理由かもしれません。それぞれの進路に違いはあっても少なくとも9割以上の人が高校を出ている日本において、説明不用の共通基盤なんでしょうね。ただ、これもテンプレ化が進んで生徒会の役割とか、隣に美女が座っていきなり好きって言ってくれるような話が多くなり単純化し初めています。


 で、話を戻してなぜ転生かといえば、この世のしがらみからは完全に逃げ出したいということだと思います。今の自分の連続ではないと意味がない訳です。ある日突然この面倒臭い世の中におさらばできる。一部の作品を除いて、戻りたいと思う人はほとんどいません。


 女性が原作者の場合はあるかもしれません。「聖女の力は万能です」とか「本好きの下剋上」なんかは、現世に未練がありました。


 それは友達も恋人もいない現実とか、親のプレッシャーとか、就職の不安とか、毎日日本は駄目だと言い続ける知識人とか、そういう人がいない、緑の自然に囲まれた清潔な田舎に住めるのが最高なのでしょう。


で、パターンは大きく分けて3つ。勇者になって魔王を倒すパタン。今の自分がひょっとしたらヒーローになれたのかも、という突然覚醒する願望のバリエーションでしょう。ある日超能力を持つとか、最強のロボットが目の前に鍵とマニュアル付きでおいてあるとかの一種でしょう。


 もう1つはスローライフ。追放ものとかですね。農家、薬局、相続権の無い貴族の子などです。農家は牧歌的な雰囲気を望んでいるんでしょうからまだわかるんですけど、なんで薬局がそんなに多いんでしょうね?そんなに楽に見えるんでしょうか?人助けができるということが承認欲求を満たしてくれるのでしょうか?

 

 そして、婚約破棄、悪女ものですね。ゲームの中に入って悪い人生を回避する話がメインです。これは人生のやり直しが出来たらという願望なんでしょうね。「はめふら」が有名です。


 どれも共通しているのが魔法学校とかに入って「魔力値が上限を振り切れている」とか「テストで先生に勝ったのは初めてだ」とか、もう悲しいくらいに現実の劣等感の裏返し、つまりルサンチマンになっていることでしょうね。


 まあ、最終的にどれもヒロインと完全にくっつかない…というか、結末まで描けない作品が多いのでなんか、寂しいですね。成功体験がないから、どこにゴールを持ってゆけばいいのかわからないのかもしれません。


 これが作者の願望でもあり、作品を読んでいる人の気分なんでしょうね。ひょっとしたら、永遠に同じ日常が続くといいのにという「日常系」とマインドは同じなのかも。


 このマインドだと、異世界で子供は作らないでしょうね。ゴールまで描き切っている作品は逆に言えばしっかりテーマがある作品が多い気がします。


 異世界ものの性について。特に奴隷ヒロインについてはまた、別の話で描きたいですね。

「日常系」も異性との関連で少し論じたいところです。


 






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