3 追懐

 蛇の毒にやられた冬木はしばらく自宅で療養することになった。

 冬木が欠席してから二日。

 その間は何も起きなかったが、小奈津は魂が抜けたかの如く、自分の席で紙パックのバナナミルクをストローで啜っていた。

 放課後になり、クラスメイト達が帰る中、亜季が小奈津の席にやってきた。


「小奈津、大丈夫?」


 小奈津は何となく頷く。亜季は首を傾げると言う。


「小奈津って……」


 亜季は小さな声で、だがはっきりと言い放った。


「冬木のこと、好きなの?」

 

 その言葉に小奈津はバナナミルクを吹き出す。


「ちょ、どうしたの!」

「どうしたもなにも……」


 小奈津が咳き込んでいると、亜季が言う。


「皆勘づいているよ、小奈津が冬木のこと好きだって。だって、あんなに必死に冬木のことをかばっていれば誰だってそう思うよ」

「……」

「確か冬木、元々ここにいてたけど、一時別の所にいてここに戻って来たんだよね」

「……」

「小奈津?」

 

 その時、小奈津の胸がちくりと痛んだ。


    *


 あれは、三年前。

 冬木と仲が良かった友達から冬木の現在地を聞いた小奈津は会いに行くことにした。

 小奈津が浮足立つ気持ちで冬木の通っている学校に行くと、門の前で冬木が複数の学生にいじめられているところを目撃してしまった。

 当時の小奈津は、図体が大きく強そうな学生達が怖くて仕方なかった。

 だから、いじめられている冬木と目が合った時、逃げ出してしまったのだ。

 ごめんなさい、そう心の中で謝りながら、小奈津は逃げた。


    *


「そっか……」


 亜季が神妙な顔で頷いている。

 どうやら小奈津は、無意識に過去の出来事を亜季に話していたみたいだ。

 すると亜季は前のめりになり、小奈津の頭を抱きかかえる。


「亜季?」

「小奈津は、今でも傷ついているんだね」

「そんなこと……」

 

 ない、と続けようとしたら亜季が小奈津を強く抱きしめた。


「もういいよ、もういい。あの時の小奈津とは違うよ。だから自分を、許してあげて」


 その亜季の言葉に、小奈津は涙が出そうになった。


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