第8話  グッドバイ・ハロー・神隠し


 俺は結局、商店のお婆さんに商店の品物を買ってプレゼントした。

 カップラーメンと小豆缶とビール。

 喜んでたよ。


 最近この村では、行方不明事件が立て続けに起きている。

 捜査はもちろんされているようだが、高齢の方が主なので誘拐や傷害事件というよりは行方不明扱いにされて山の捜索をしたりで……単独の事故だと思われているようだった。


「徘徊なんかじゃあないよぉ、神隠しさ」


「神隠し……そう思われた理由は?」


「あそこで畑やってる爺さんがさ、悲鳴聞いたんだってよ。暗くなってから~おがねぇな」


「目撃者が? どこの畑の方です?」


「誰とは言わねぇよ。ここで犯人扱いにでもされたら生きていがれないからね……酒飲んで酔っ払って愚痴ったの聞いたのさ」


 あぁそういうの村でよく聞くもんね。

 村八分とか。


「何を見たんです?」


「行方不明になったやつが、真っ暗ななかに吸い込まれるように消えたんだって」


「消えた……」


「顔を体もどんどん真っ黒になっていくよ~~っで」


「……車に拉致された、とかではないんですね」


「いくらなんでも、そんなんだったら警察に話す」


「そ、そうですよね……」


 言っても信じてもらえないから、伝えなかったという事か。

 

「カサカサ、カサカサ……カサカサ、カサカサ」


 おどけたような不気味な声で、お婆さんは揺れる。


「なんですか? それ」


「そんな音が聴こえてきたんだってよ」


 情けないけど、嬉しそうな顔をしたお婆さんを見てゾクリとしてしまった。


 誰にも話すな、と念を押されてから俺は御礼を言って、カップラーメンやコッペパン、ビールなんかも買って商店を出た。

 教授にそんな生活させるわけにはいかないと、レトルトや米などの食品や、メスティンなんかも持ってきていたけど一人ならカップラーメンでいいや。


 奈津美に怒られるかな。

 さすがにこの村ほど田舎じゃないけど、都会から離れると地元を思い出す。

 次の連休には帰ろうかな、いや、今回は一人捜査する事にしたから無理か?


 そんな事を考えながら、俺は『民宿太陽』に向かうために車に乗り込む。

 車はオンボロの黒の軽自動車。

 それでも、めちゃくちゃバイトを頑張って買った可愛い愛車なんだ。


 なんとなく……ウィンと呼んでいる。


 もう夕方だ、冬が近づいて日も短くなった。

 この村に着いた時に、とりあえず前を通ったので民宿太陽が、どれだけ古めかしいかは見ていた。


 「やっぱり、すげー……ボロい……」


 失礼ながら、夕陽に照らされカラスがギャンギャン鳴いてる声を聞きながら見る民宿太陽は廃墟のようだった。

 民宿っていうか昔はアパートだったんだろうな……って感じ。


 古めかしい玄関を開けて、歪む木の廊下を歩く。

 入ってすぐ、受付……と書いてはいるが普通の部屋だったんだろう部屋のチャイムを押すと、老人の男がサンダル姿にヨレヨレのスウェットで出てきた。

 煙草が煙たいし、数日風呂に入ってないような体臭。

 枯れた植木やらチラシなどが置かれっぱなしの乱雑な靴棚の上で、手続きの書類を書いて三日分の宿泊料を払う。


 一万円。


「はい、これ鍵ね。二階のトイレは共同。汚くしたら掃除してよ。ガスは通してないから流しの電子ポットでお湯は沸かせるから……電子レンジは一人三回まで」


「はい、ありがとうございます」


 上から下までまじまじと見られる。


「先客は知り合い?」


「え……? いえ、僕の他にも誰かいらっしゃるんですか」


 さっき店のお婆さんが言ってた人か?

 でも一応とぼけてみる。


「中年のおっさんがもう一人いるから、騒音とか気をつけてよ。あと煙草の火も」


「あぁ。煙草は吸いませんので……」


 お客さんをおっさん呼ばわり。


「じゃ」


 そう言うと、バタンと扉を閉められた。

 中階段を上がって二階へ上がる。

 やばいくらいのギシギシ音だ。

 崩落しないよな……。

 ギシギシ上がると二階には六つ部屋があるようだった。


「あ…… 」


 何故か玄関のドアが、開けっぱなしの部屋がある。

 そこから煙草の臭いが流れてきた。

 つい、前を通り過ぎながら中を覗いてしまう。


 そこには……和室部屋の木枠の窓に斜めに座って煙草を吸っている、ボロボロのトレンチコートの男がいた。

 

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