第7話 グッドバイ・ハロー・それから

 

 あの悪夢から数年が経った――。

 

 その後あの百鬼夜行は、学園校庭の地盤沈下からの有毒ガスによる中毒死と、ガス爆発による校舎崩壊ではないかと無理やりに結論づけられた。


斗有無とうむ学園及び近隣一帯の集団ガス爆発事故・中毒死事件』


 学園は閉鎖され、俺と奈津美は入院後に近くの高校へ転校した。

 それから被害者家族が学園を訴えたり騒がれたけど、詳しいその後は俺にはわからない。


 俺達は高校を卒業し今は大学生だ。


 俺と奈津美は、もちろん交際を続けている。

 奈津美は百鬼夜行の事は何も覚えておらず、俺の半分千切れた耳は事故だと思い込んでいる。


 奈津美は地元の大学。

 俺はそこから都会にある大学へ……。

 初めての遠距離恋愛。

 少し不安もあるけど、お互いの夢を叶える為に頑張っている。


 まぁ俺は『夢』なんて綺麗なものじゃないんだけど……。


「え? 教授は今日は来られないんですか?」


 此処はとある山奥の村だ。

 俺はこの村の研究に訪れる教授の足になるために、長距離運転して車でやってきた。

 それなのに新幹線と電車で来る予定だった教授が、突然来る事ができなくなったって……はぁ。


『いやぁ~朝からおかしいんだよ……どうも私がそこへ行く事を拒まれているような感覚がしてね』

 

 高齢だけど優しいトーンでゆっくり喋る教授はいつもマイペースだ。

 

「拒まれて……?」


 普通なら『言い訳がましいな』で終わるところだけど、そういう事にはならない。

 俺達の間には、もよくある事なのだ。


『あぁ……なんせ部屋のドアノブが朝から壊れて出るのに一苦労、予定していた電車は遅延。やっと来て乗った電車は途中で故障』


「うわ……」


『極めつけは……周りには誰もいないホームで背中を押されてね』


「えっ」


『その時に聞こえたんだ……来るなという声が……』


「男ですか? 女ですか?」


『ううむ……声と言ったが念を感じたようでね。どちらかはわからない……そして胸元のジョン神父にもらったロザリオが真っ二つだ』


「そ、そんな」


 あのジョン神父のロザリオをくだなんて……。

 無意識に俺は息を飲んだ。


『君もすぐにそこを離れなさい。その隣の町で一泊して帰っておいで』


 一瞬、全身が粟立つ悪寒がして返事が遅れた。


「いえ……僕も少し調べたい事があるので残ります」


『危険かもしれないぞ?』


「宿もとってありますし、せっかくなので。三日後に帰ります」

 

『そうか……君なら大丈夫だろうか……だが気をつけたまえ』


「はい、また連絡いたします」


 俺は電話を切った。

 初っ端から嫌な始まりだ。


 でも、ここまで来て何の成果もなく帰るわけにはいかない。


 薄くだが、を感じるから……。


「さてと……」


 宿は村に一つだけある民宿だ。

 ネットにも載っていない、村役場に問い合わせて電話で予約できた。

 当然、飯がつくわけもない。

 さっき通った小さな商店でも覗いてみるか……。

 

  俺はヨロコビを倒し、ウィンキサンダを看取った後に聖剣が半分折れている事に気付いた。

 そして今までウィンキサンダに出してもらっていた聖剣は、俺の身体に吸収されて、自分の意思で出せる事がわかった。

 その後すぐ入院した病院で、百鬼夜行の残党悪魔に襲われたのだ。


 一心不乱で折れた聖剣で戦った。


 俺はその時に自分の闘う力が半分以下になっている事と、悪魔がこの世には無限にいることを知ったんだ。

 ヨロコビは強大だったけど、それでもただ一体の悪魔なだけだった。


 それから俺は、自分の使命のように感じて一人で悪魔を探して見つけては退治していた。

 そんな時に出逢ったのが教授だ。

 教授も悪魔学や妖怪、魔術なんかを研究しているので俺は助手として弟子入りしたのだった。

 それでもさすがに、俺が闇堕ち聖女なんて話はできない。

 本当の俺を知っているのは、いなくなっただ……。

 

 「ウィンキサンダの野郎、その後のケアも考えてから、いなくなれよ……」


 つい、思い出すウィンキサンダ。

 俺は古い商店の品物を見ながら、ついぼやいてしまった。


「あんた、どこの人」


 商店のお婆さんが明らかに怪しいやつ、という目で俺を見てるけどプラスで余所者への好奇心も見え隠れしている。


「ただの旅行客ですよ」


「こんなとこ、誰が旅行に来るってさ〜馬鹿言うじゃないっって~! あそこ泊まるのかぃ? 民宿太陽に?」


「あ、はい」


「ダニに食われないようになぁ〜あそこならうちに泊まった方がいいくらいだ」


「えぇ……ダニかー……まぁ大丈夫ですよ、あはは。あ、わかめラーメンにしよっかな」


「あぁ、それは美味い。人気だよ」


 店内は、肉は野菜は置いておらず惣菜パンやカップラーメンやレトルトなんかが多い。

 もうわざわざ料理支度をするより、ササっと済ますのが楽なんだそうだ。

 やっぱり老人が多いんだな……。


「あんた、記者?」


「えっ?」


「あの事で……調べに来たんだろう?」


 お婆さんは、急に悪いお婆さんみたいに片方の目を見開いて片方はグッと歪ませて俺を見る。


「あの事?」


「とぼけんじゃないよぉ〜あんたで二人目だぁ。客なんか来ないこの村に今日は二人! あり得ない……んで村であったのは~~あの事件だけだぁ」


「事件……」


 そう、俺もそれを調べにここに来たのだ。

 でも俺以外に今日はよそ者が来ている?


「ひょひょひょ、何が知りたい? 答える代わりに何をくれる?」


 悪魔みたいな事を言い出した。


 

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