第9話 「友の家」


『??さ、さい…がい…?』


グルグルと頭の中でいろんな情報がめぐり数人に囲まれて、どうしていいか分からず咄嗟に紅を見ると苦笑しながら手招きされたのでおずおずと隣に行き服を掴む。


「雷夢さえよければ私とチーム組んでみない?」


突然何の前触れもなくそう言われ思考が急停止した。


えっ…チーム?紅と?一緒に居れるようになるってこと??


今までに感じたことがないくらいの幸福感でいっぱいになって固まってしまう。


「やっぱ突然だし嫌だっt『そんなことない!!!』…おぉう…」


何も言わないで固まってしまっていたら拒絶されたのかと勘違いされてしまい、慌てて返事をする。

興奮してたせいで多分顔は真っ赤だし自分でもわかるくらいデカい声が出た。


無事チームを組むことができ、その場にいる全員と改めて挨拶をしてその場は解散。



4人でウタの店を出てボーっとしていると不思議そうな表情で近寄ってくる。

どうしたんだろうか?


「雷夢は家近いの?」

『……電車に乗って○○駅で降りる』

「あら、私たちと同じ処だね」


どうやら帰りの方法を迷ってるらしく、私が帰る手段に無関心だったのが不思議だったんだろう。


紅達はタクシーか始発を待つかで迷ってるらしく、これは自分の異能が役立つ時では?

でも、突然異能で送るといって引かれたりしない…よね?

しかも一人での移動も少し疲れるのに自分含めて四人を抱えての移動だ。

最悪誰かをどこかへ落としてしまったとしても紅だけしっかり運べばOKか?

まぁ、なんとかなるよね?


チラッと三人の様子をうかがって自分の案を出してみる。


『んー(引かれたらやだなぁ)…うー(でも言わないと)……あのね、紅達が良ければ私が送ろうか?』


そう提案すればみんな嬉しそうにしてくれて、是非とのことで安心した。

OKをもらったので怪我をしていない右手を差し出せばすぐに手を重ねてもらえて頬が緩む。

二人には右腕に掴まるように言い、はぐれたらどこに置いていくかわからないと一言言って準備に入る。


目を閉じ深呼吸をしてから異能を発動させる。

まずは一つ目のポイントへ飛ぶ。



目的地へ着くといったん目を開けて三人を観察して様子をうかがう。

紅はあたりを観察してて、樹と鈴蘭はポケッとして理解が追い付いていないみたい。

体調に問題はなさそうなのでもう一度自分に掴まってもらい、その後二回飛んで駅付近の路地裏に着いた。


完全に足場が安定したのを確認して紅の手を放す。

自分を含めて四人を一気に長距離運んだのでドッと疲れが来てボーっとしてきた。

このままぶっ倒れるのはさすがにヤバイ。

このまま別れるのは名残惜しいけど倒れて面倒をかけるよりはマシだろう。


『体調は問題なさそうだし、ここならすぐ車にも行けるね』

「そうだね、ありがと。…雷夢?」


もう一回ぐらいなら異能で飛べるだろうか…

早く家に帰らないとそろそろヤバい…

誰かに何か言われたように思ったけどもう頭が回らなくなってきた。

迷惑かけてしまう前に行ってしまおうと異能を発動させようとしたとき


「雷夢っっ!」

『っっっ!?!?』


ガシッと右腕を掴まれて驚き異能の発動が止まる。


『え(っ?何?私何かした??)』

「雷夢、顔が真っ白だよ」


顔を上げて前を見れば紅が眉を寄せてこちらを見てるし、樹と鈴蘭は目を丸くしてた。

中途半端に発動してしまった力と家に帰れると気が緩んだせいで目の前が白くなり視界の端で光がちらつく。


『あれ…白い…』


思わずそんな一言が出たと思えば視界がぐるっと回った。


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ーーー

あぁ、これは夢だ。

目の前に広がる光景がそう思わせる。

小学生の自分が過ごした教室に自分が立ってるところ。

部屋の真ん中で私が座り込み、周りをクラスメイトが取り囲み何かを口にしてた。


これは私の記憶。

実際に起きた出来事で、今まで何度も見てきた夢。

そして、一生見たくも思い出したくもないと思ってるが叶ったことはない。


『やめて!来ないで!!』

『あっち行って!!』


何もない空間に向かって私が怯えながら叫び散らしてる。

周りは戸惑い、怯えて遠巻きに様子をうかがう。

そのうち先生が来て私をなだめて別室へ抱えて連れていく。


この一連の流れはいつも変わらず起きて、時が流れた今はほぼ毎日夢に見てる。


これは昔の出来事で現実ではなく、夢だということも理解できているのにうまくいかなくていつも取り乱す。

目が覚めたらまたきっとすごく息切れして大量に汗をかき動悸が激しい状態で目を覚ますんだ。


目が覚めたらいつも通りゆっくり体を起こして顔を洗いに行こう。

こんな夢のために気を削がれるのは癪だし、過去のことだ。

目を開けていつも通りの1日を始めよう。大丈夫。自分の部屋だよ。安全な場所。

目の前の光景が歪んでなくなり、視界が暗転した。

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視界が明るくなり、私を呼ぶ声が聞こえてくる。


………声?

どうして自分の部屋で声が聞こえるの?


パッと目を開けたら誰かが目の前にいた。

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秋月雷夢という人間 イヴ @takanashi916

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