第8話 「再会」
自分の手から鉄パイプがはじけ飛んで、受け止めた相手の廃材も同じように吹っ飛んだのを見て焦る。
これはマズいって…っっ!!
ビイィィィ…ンっと痺れる自分の両手。
視界の端にはこっちに突っ込んでくる大男。
「隙ありよっ!!」
強烈な回し蹴りが自分に向けられたと理解し、咄嗟に左腕でガードする。
ミシミシッ ピキッ…
とてつもなく嫌な音が体中に響き吹っ飛ばされた。
受け身を取るために体を丸めようにも間に合わず盛大に床に転がり壁に頭を強打。
『…ぐっ…ぅ…』
囲まれた気配は感じるが、脳震盪を起こしたようで目が回りうまく体を起こせない。
「意識があってもまともに動けはしないでしょうから、このまま運んじゃいましょう」
その言葉と同時に腹に手を回され持ち上げられる。
『うぐっ……』
「あぁー、疲れたわぁ。行きましょう」
肩に担がれスタスタと歩いていく。
内臓潰れそう…。
起きていなければ何されるかわからないので目を開けてなければいけないのに、現実はとても厳しい。
グルグル回って目を開けられなくなってきた…
ビルの外へ連れ出されると車の座席にストンと置かれ、隣に私を運んできたオカマが座る。
脳震盪のせいでまともに動けはしないが、手足を拘束されるどころか意外と丁寧に座らせられたのにも驚きだ。
投げ入れられるもんだと思ってたんだけどな…
そんなことを考えてたら一瞬で視界は暗転した。
きっと失神したんだろう。
◇
どこからか話し声が聞こえる。そんで腕がなんかじくじく痛む。
ペド野郎の依頼を受けて…姫乃と依頼のホスト…それは覚えてる…
意識がはっきりしてくると光が見えゆっくり目を開けると
『うぅ……んぅ?』どこだ?
なんか腕痛いし、知らない天井だし、眩しい…
マジでここ何処だと思考をぐるぐるさせていたとき
「おっ、目覚ましたか?」
『っっっ!?』
「ぶっ…!!!」
仰向けで寝てる自分の目の前に知らん男の顔がひょっこり出てきたので、思わず反射的に殴り飛ばしてしまった。
すかさず飛び起きたのはいいが、左腕の痛みが倍増して蹲る。
くそ痛い。
「過激ねぇ」
第三者の声が聞こえハッとして周りを見ると他に三人いた。しかも一人は私を吹っ飛ばした大男本人がいた。
痛いとか言ってる暇なし。表情筋の動きを押さえて前を見据えて考えがめぐる。
この人数相手には逃げ切れなさそうだななんて思考が浮かんでた時、以前も会ったことがあるあの子から声がかかる。
お互い混乱してるから話し合いをしようということ。
こんな状況じゃなければ再会できたことを手放しで喜ぶんだけどね…
でも、今のところは死にそうな場面でもなさそうなので同意のためにコクっと頷いとく。
全ての元凶はきっとあのくそホストのせいだ。
今すぐこの場で殺されるということもなさそうなので肩の力を少し抜く。
「本題に入る前に一つ聞きたいんだけどさ、君ちょっと前に私と会ってるよね?」
『……神社の階段下でのことだったら会ってる』
「そっか、ここにいる人は全員知ってけど自己紹介しとくね。
『
タイミングがあれば私のこと覚えてるかって聞きたかったけど、向こうから聞いてくれたし覚えてたんだ。
お互いが知り合いだということもあり、全員で自己紹介。
教えてもらった情報を頭の中で整理しながらそれぞれの顔を見ながら覚えようと見まわす。
オカマで大男がウタ、もう一人の男が
んで、「お互い敵じゃないってわかったんだもん、私が左手見てあげるよっ。ほら!」と紹介された瞬間詰め寄り怪我した左腕の服を捲ろうとしてくるこの人は鈴蘭。
押し売りの治療を静かに拒否ると小鳥遊さんが助け舟を出してくれて、治療の代わりに薬を渡される。
受け取ると鈴蘭はあっさり下がっていったが、これは飲んでも大丈夫なのか分からずチラリと小鳥遊さんを見ればこくりと頷かれたのでパクっと薬を口に入れ飲み込む。
その後、来栖から聞いた話によると元の目的は姫乃の担当ホストだったハルトらしい。
その後の流れはご存じの通りで今に至ると…。あのくそ野郎め。
全ての元凶はあのくそホストから始まっていたのかとイラついていたところで
「俺らの流れはこんな感じなんだけど、秋月の方も聞いていいか?」
大まかの流れは理解できた。
次は私の方の説明となるのだが…
『私の方は…』
そこまで口にしてふと思う。
どっから説明すればいいんだ?
ことりと首を傾け考える。
一日の始まりはペド野郎から始まったけど、そこまで遡るのは長すぎ?
どこから話せばいいのか迷いに迷って少しずつ言葉を口にしていく。
えっと、今日はまず一発目の『ペド野郎』が娘の『姫乃に(いろいろ)と教えて』ほしいって言うから奴のところまで行って、『お気に入り』の『ホスト』がいるって『姫乃と行く』ことになったの。
店に行って『納品依頼』って形でハルトを連れていくことになって『マンション』に『異能』で姿変えて『連れてった』んだけど…。
今日のことを脳内で思い起こしながら話し終えると、4人は何とも言えないような表情でこちらを見てる。
しっかり全部話したと思っていたが、そう思ってるのは本人のみだ。
実際は単語がぽつぽつ声に出ただけでほとんど声になどなっていない。
結局はダブルブッキングのせいで自分は無駄に痛い思いをしたが、紅と再会できたしまぁ良しとしよう。
過去の仕事内容の話になったら今度はみんな吃驚したような表情になった。
仕事先に行くとき毎度お面をつけるけど、おかめ、ひょっとこ、能面とか飽きないように愉快な面を選んでるのがダメだったかな?
そんなこと考えてたのに、なんか知らないところで私の呼び名は【災害】。
″災害に目をつけられたら去るまで待て″
という自然災害に見舞われた時の対処法みたいな暗黙のルールみたいなものができてて吃驚。
自分的には楽しく悪戯してる感覚だったんだけどな…
悲しかな、世界と自分の認識は激しくずれているようだ。
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