第7話 「追いかけっこ」


下に降りるためにエレベーターに乗り込み、携帯を見ればもう少しで日付が変わる。

今から駅に向かったとしても終電には間に合わないだろう。

異能を使って帰れないこともないが、距離が遠すぎて何度かに分けて移動しなければならないしとても疲れるのだ。

どうしたものかと悩みながらエレベーターを降りて外に出た瞬間


「すみません、少しよろしいですか」


めっちゃ厳つい強面こわもての黒服に声をかけられた。

よろしいですかと言う割には拒否はさせないとでもいう感じで、見えるところにはいないけどまだ何人かはいるな。


『何でしょうか』


とりあえず内容を聞かないと何用かも分からない。


「ここにお住いの方でしょうか?」

『いいえ』

「友人宅ですか」

『……今この瞬間が始めましてなのにそこまで言うはずないですよね』

「ハルトという男をご存じですか」

『誰だか知りませんがその様な友人はいません』


じりじりと少しずつ寄ってくる黒服。

なんであろうと、こいつに付き合ってやる理由はないので


『すいません、もう行きますね』


サッと横をすり抜けようとしたその時


「話の途中です」


ガシッと腕を掴まれ吊り上げられた。


『っんのやろっっっ』


これで分かった。コイツ裏の人間だ。

一瞬で頭がそう理解すると体は反射で黒服の横っ面に蹴りをお見舞いする。

ここからが勝負だと理解してるので、宙に投げ出された体が地面に触れた瞬間にダッシュでそこから距離を取る。


人が多いところでは異能を使うわけにはいかないので、人通りの少ない道を走り抜けていくと非常事態。

うまく異能が使えないのだ。

捕まらない距離まで行き異能で空間を渡ってしまおうと思っていたのだが、出入り口に使っている影に入れない。

この状態から予想はたやすくできる。

相手側にも異能者がいるのだろう。とても困った状態だ。

自分一人に対して相手は三人以上はいるようで、このままでは逃げ切れないのは確実。


『そんで行き止まりって詰んでるよ…』


目の前はコンクリートの壁で左右に道も無し、後ろからの追っても目視できるようになったので覚悟を決める。


『ビルの中に逃げるのは悪手だよなぁ…』


隣の廃ビルの二階。

割れた窓ガラスが目に入ったので室外機などのでっぱりに足をかけて器用に上る。

パルクールなど様々な技術を身に着けておいてよかったと現実逃避をするが、そんな呑気なことも言ってられないのだ。

足音をたてないように四階まで駆け上がり、適当な物陰に身を隠し息を潜める。



耳が痛くなるような静寂の中、迷いのない足取りで階段を上がってくる足音が三人分聞こえた。

自分のいる四階で足音は止まり、階段前と窓前を塞がれ残り一人がフロア中央で止まると


『バク』


そう一言。


するとフロア中の影という影が蠢きだし、私が隠れてるところも例外なく動き体に纏わりついてくる。


『うわっ!!』


取り込まれそうになり咄嗟に転がり出てしまった。

すぐに体制を立て直して前を見るとこちらに伸びてくる手を見てすぐ蹴りを出す。


「っっっ!!」


落ち着け、落ち着け。距離を取ることには成功した。

倒すことは目的としていない、隙をついて逃げることが最優先事項。

慌てるのも怖がるのも全部、後回しだ。


感情に蓋をして、先ほど転がり出たときに拾い上げたレンガと鉄パイプをさりげなく持ち直す。

離れたところにいる二人も隙を伺ってるようなので、慎重に相手の様子を窺う。

お互いが距離を測りかねたとき、正面の人の目線が一瞬逸れたのを見た。


その瞬間迷うことなくレンガを全力投球。

それと同時に相手の顔面に鉄パイプをフルスイング。

屈んで避けられたので渾身の力を込めて蹴りを繰り出すと飛びのいて距離を取ったようだ。

そのままの勢いで鉄パイプをくるりと回して次は窓際にいる男に殴りかかる。


「っ!!?」


当たるとは思ってないので躱されても驚きはしない。


「やぁだ!あんたなんてもんを振り回すのよ!!」

「そこ??!」


女口調のデカいのまで参戦してきた。

力では勝てなさそうなので、窓か階段のどちらから出られればそれでいい。

そう思いながら上段に構えてた物を振り下ろしたとき、廃材が鉄パイプを弾き飛ばした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る