第6話 「納品依頼」

店に着く少し手前で異能を使い自分の見た目を変えてから、わざとキャッチにつかまりやすくするために携帯を見ながらゆっくり目に歩く。

すると案の定、店のボーイが声をかけてきたので少し迷うふりをしてから中へ入る。

受付を済ませて席へ案内してもらい座ると、さっきと同じようにいろんな人が来るが一般の卓なので周りがよく見えた。

姫乃の担当は違う女の子の席にいるようで、あっちはシャンパンが出てるところを見ると結構通ってくれてる子なんだろう。


代わるがわる人が来てたところへ、ようやくターゲットが来た。


「初めまして、ハルトって言います」


名刺を貰うと隣に来て会話を開始。


ホスト来るのは初めて?結構飲み出るの?可愛くてドキドキしちゃうな。


どうでもいい内容だがハルトとのアフターを取るのが目的なので、如何いかにも気分が良いですって雰囲気を出して相槌を打っていると


「実は俺、他の席の子もいるからもう行かなきゃなんだけど指名くれたらもっと姫と居れるんだけど、どう?」


スルッと足に手を置いてくるこの男を殴らないように意識しながら会話を続けろと自分に言い聞かせる。


『お店じゃないところで二人になりたい』


足に置かれた手にそっと自分の手を重ねてそう言えば、男は何かを考えるしぐさをした後にスッと顔を寄せてきて言う。


「実は今日さ、結構な額を飛ばれちゃって、その金額を出してくれたらこれからすぐにでも好きなところに行ってあげられるんだよね」


その言葉を聞いて確信した。こいつチョロい。


金額を教えてもらい条件を呑むことを伝えれば、ハルトは上の人に話をしてくると言い席を離れた。

待ってる間は暇なので携帯を出して適当にいじりながら今後のことをまとめていく。



「待たせてごめんね。このままアフター行くのOK貰ったからすぐ行けるよ」


機嫌良さそうに隣に座ってくる男から伝票を貰って金額を支払う。


この分も後から回収するか…


ボーイが確認してOKが出たので二人で席を立ち店を出た。


「どこに行こうか?」

『…ここから10分くらいの所に私の家があるんだけど…』

「いいね、そうしよ」


あからさまにゲスい顔。楽しいのも今だけだぞ。


腰に回されてる手がキモくて鳥肌が大量に浮き出てくるが歯を食いしばり我慢。


………。

誰かに見られてる…?

こいつの被りとかかな?


特に危機感や敵意があるわけでもないので少し気になるけどひとまず放置することに。

そんな状況に一切気づいてないハルトの話に適当に相槌を打ちながら長いようで短い道のりをさっさと進む。


数人の気配と共に目的のマンションに到着。

ロビーに入ってからエレベーターに乗り込む前に姫乃にLAINを送りもう着くということを知らせる。

これで姫乃も準備をできるだろうと一息ついて、もう一つの問題が浮上した。

二人きりのエレベーター、中でこの男が何らかのアクションを起こす可能性大だということ。


ふざけた行動を起こしたらただじゃおかんぞ。


案の定、中に入った途端に抱きしめようとしてきたので防犯カメラの存在を理由に拒否。

しぶしぶだが諦めてくれたようだ。


目的の階に着き玄関のカギを開けて先に中へ入れると後ろ手で鍵を閉める。


「すごく綺麗な所に住んでるんだね」


キョロキョロと周りを見ながらリビングへ行くハルトの後ろからついていき、異能を解いて姿を戻し歩く。

リビングのドアを開けてハルトが中へ入ると


「ハルトさん、いらっしゃい」

「うわっ!なんでお前がここにいるんだよ!?」


ニコニコ笑顔で包丁を持つ姫乃とご対面。

慌てた様子で後ろを振り返って私と目が合うと腰を抜かして床に座り込んだ。


このヘタレめ。


「百鬼様、ありがとうございます」

『満足いただけてよかったけど、まだ完璧に終わったわけではないですよ』


その言葉を聞いて、姫乃はまたハルトに向き直り、包丁を向けて一言。


「まずは服を脱いでくださいます?」


真っ青になったハルト。

なんで…、それは…、などとブツブツ言ってると


「はやくっっっ!!!!」


君そんな大きい声出たんだ。


今まで聞いたことのない声量を披露した姫乃。

それによってガクブルのハルトは、おずおずと立ち上がりその場で衣服を脱ぐ。


これ…私もこいつの全裸見るパターンじゃね?


うわやだと思ったのは一瞬で、別に興味はかけらもないし開き直る。

全ての服を脱いだ男を姫乃はうっとりと見つめてから足首に長い鎖のついた枷を付けて話す。


「この鎖は部屋の中は自由に動き回れますが、玄関までは長さが足りなく一人で出ていくことができません。私を殺した場合は、足の鎖も外せないし外との連絡も取れないので最終的に死んでしまうことは目に見えてます」


なので、大人しくここで生活しましょ?と可愛らしく言う。


床にぺたりと座り込んでしまった男を無視して姫乃はボストンバックを差し出し、お礼を述べてきた。

中を確認すると大量の札束。今日一日での稼ぎは十二分だろう。

鞄を影に落として前を向く。


『では、今回の依頼はこれで完了とさせていただきます』


異論は無いようなので、またのご利用お待ちしてますと伝えて外へ出た。

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