第二章

第17話

 冬の風が冷たく吹いている。吐く息は未だ白く、年を越してから余計に気温が下がった気がする。俺が住む地域は決して雪が多いわけではなく、降っても年一度あるかないかだ。

 この冬に関してはクリスマスに雪が降ったわけだが、あの日以降、雪は一度も降っていない。

 冬という季節があまり好きではなかった。一肌が恋しくなるから。格安アパートで独り冷たい夜を過ごしていると、ふとした時に寂静の念が俺を覆いつくす。こういう時に家族がいたら、そう思わないようにしているのに、そう思わせてくる冬が、俺は好きではなかった。

 でも、冬はいつかは終わりが来る。三寒四温を感じながら段々と春になっていくのを待たずしても、心の春はきっとやってくる。それが彼女との出会いによるものだとしても。


 一月も中旬に入った。お正月気分はとっくに抜けて、ノエルもだいぶこの学園の生活に慣れてきている。友達も増えて家ではノエルの自慢話を聞かされる毎日。家での生活も一か月くらいになり、お互いの勝手も分かってきた。

 まずノエルは基本的に家事が出来ない。

 時たま気まぐれで料理や洗濯を手伝いにくるものの基本的には失敗して俺に泣きついてくる。まぁ何もしようとしないよりかはマシだが、結局俺がやる羽目になるのであまり変わらない。

 他にもノエルが左右両利きであることや、目玉焼きは塩コショウ派であること、寝つきがめちゃくちゃ良いことなども分かった。…どうでもいい情報過ぎるが。 

 そして今現在は、サンタクロース研究会の部室でただ無為に時間を過ごしている。


「あの、部長。結局ここって何をするところなんですか?」


 入部してから一週間弱経過して、未だ活動らしい活動はしていない。ただ部室に集まってみんなでゲームをしたり、おしゃべりをしたり。一言でいえばダラダラしているだけなのだ。


「それはサンタクロースを研究会して見つけ出すことだよ。…と言っても主だって活動することなんて今は無いけどね。」


 スナック菓子を頬張りながらそう答える部長。この人もなまじ顔がいい分、こんなところでダラダラしているのは勿体ない気がする。もっとリア充っぽいことをしていれば青々とした青春が待っているだろう。


「私は楽しいですよ!部長さんやユキユキ、界人と放課後遊べて。」


 ノエルは案外この同好会にコミットしているようで、毎日楽しそうにしている。


「この前も部長さんとユキユキと三人で遊びに行って楽しかったです!」

「いつの間にそんなことしてたの!?」

「まぁ女子会みたいなものだよ。主に男子の愚痴とかで盛り上がったなぁ。」

「怖い、女子怖い。」


 でも三人でここまで仲良くなったのは意外と言えば意外だ。


「名執、お前も何かやりたいことがあったら提案してくれていいんだぞ?」

「部長、ダメですよ。その男はどうせこういう機会にかこつけて王様ゲームとかやりだす輩です。」

「俺は飲みサーの大学生か。」


 幸はノエルとは案外馴染んでいて、どちらかというと俺に敵意を持っている口がある。


「部長、その男はきっと部長のことを狙っているんですよ!気をつけてください!」


 幸はどうやら俺が部長目当てでサンタクロース研究会に入ったと思っているらしく、度々こうやって防衛線を貼ってくる。


「ユキユキ、私なんかを狙う男がいてたまるか。こんななりで魅力的に見えるわけがないだろ。」

「そんなことないですよ!部長さんはとてもかわいいと思いますっ!」

「まぁそれには俺も同感だな。顔だけはホントにいい。」


 ノエルに便乗してそう言うと、再び幸がこちらを睨んでくる。


「聞きました?今部長を可愛いって言ったんですよこの男!やっぱりそうだ、部長を狙らってるんだわ…。顔だけは良い部長を。」

「いや狙ってない。部長は顔だけだし。」

「ねぇ、さっきからナチュラルに人のこと顔だけ顔だけって連呼するの止めてくれない…。」


 部長が本気で落ち込んでいる。仕方ない、顔だけなんだから。


「私は部長さんの顔以外のところも大好きですよ!」

「ま、真白ぉ…。」


 ノエルが笑顔で手を差し伸べる。それに対して感極まった部長もノエルの手をがっちりと取った。


「私は部長さんの可愛いおっぱいも大好きです!」

「貧乳って言いたいんかぁぁぁ!」


 ノエルの手を払いのける部長。その表情は悲壮感に満ち溢れている。


「あーもう巨乳の人は羨ましいわあ!さぞかし肩が重いんでしょうな!」


 ノエルの部分をガン見して叫んでいる。見るからにみじめなので諦めてほしい。


「ユキユキもそれなりにあるしっ!真白なんて巨乳の部類に入るしっ!そこにもおっぱいあるしっ!」


 暴走気味の部長が自分で言って困惑している。部長以外におっぱいが三つ?よく見ると、というかよく見なくてもそこにはツインテールの少女が腕を組んで佇んでいた。

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