第18話

「え、誰?」

「ここ、サンタクロース研究会よね?」

「そうですけど…。」


 腕を組んだ少女は毅然とした態度でこちらを威圧的な視線で睨んでいる。


「プレゼントが欲しいわ。」

「この子何言って…。」

「プレゼントっ!貰えるんでしょ!」


 少女がそう言って見せてきたのはサンタクロース研究会の張り紙。少女が指さすところをよく見てみると、「今ならみんなの欲しいものをお届け!プレゼントしちゃうよ!」と書いてあった。


「なんだこれ…私はこんなこと書いてないぞ。」


 部長が張り紙を見て目を丸くしている。張り紙を作った部長に心当たりがないのなら何かのいたずらだろうか。

 ふと、心当たりが思い浮かんだので隣を見る。隣では口笛を吹きながら知らん顔している白銀のサンタクロースがいる。


「これ、お前だな?」

「…何のことです?」

「ノエル、お前って嘘つくときはいつも左手で右手を抑えてるの知ってたか?」

「げっ!」


 慌てて抑えている左手を戻すがもう遅い。


「はいダウト。」

「参りました…。」


 潔く認めたノエル。まぁ実際はノエルにそんな癖があるかなんて分からないが、カマをかけてみたのが上手くいった。


「あの…、今の話を聞くからに、これは手違いってこと?あたしの望むものはもらえないって訳?」


 少しがっかりした様子でツインテ少女は尋ねてくる。その言葉に反応するように一瞬で部長が少女に駆け寄った。


「いえいえ、そんなことはないよ?私たちでどうにかできるなら善処するし!」

「え…ホント?」


 再び少女の瞳に期待の光が灯る。すかさず俺は部長にだけ聞こえるように耳打ちした。


「ちょ、いいんですか?そんな無責任なこと言って。もし高級ブランドバッグとか言われたらどうするんですか?」

「もしなんて言ってる場合じゃない!ここで彼女の期待に応えて恩を売っておけば、彼女も部員になってくれるかもしれないじゃないか。」


 この期に及んで部員が欲しいのか。だが見た感じ目の前の少女はサンタクロース研究会に入りそうななりではない。

 派手な感じの髪色に時代に逆行している感の否めないツインテール。顔立ちは可愛いがそれ以上に目つきの悪さが目立っている。スカート丈も短く、いわゆる不良少女にカテゴライズされるだろう。


「あの子ってもしかして…。」


 そう呟いたのは幸。控えめな視線で少女を上から下まで見つめている。


「何、知り合い?」

「知り合いも何も、あの子、九条院くじょういん祥子しょうこじゃない?」

「そうだけど。何か?」


 俺たちの囁き声が聞こえてしまったのか、少女は幸を鋭い視線で睨みつける。幸はビビッて俺の背中に隠れてしまった。

 九条院祥子、基本的に情弱な俺ですら聞いたことのある名前だ。確かこの地域一帯をまとめ上げていた地主の家系で郊外にはそれは立派な豪邸が建っているらしい。生粋のお嬢様だ。

 でもそんなお嬢様がなぜサンタクロース研究会に。彼女ほどの金持ちならば欲しいものなどすぐに買えてしまうはずだ。


「それで、九条院さんで良いんだっけ?君は何が欲しくてこの部室に来たんだい?」


 部長が改めて尋ねると、九条院は話しづらそうに目を逸らす。しかし覚悟を決めたのか、拳をぎゅっと握った。


「……が欲しいの…。」

「あんだって?」


 よく聞き取れなかったので聞き返してしまう。すると再び鋭い目つきで今度は俺を睨みつけてくる。


「だからっ!友達が欲しいって、言ってるのおぉぉぉぉぉぉぉ!」


 その声は部室中、いや、部室棟中に響き渡った。

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