第16話

「真白、それは君がサンタクロースにそっくりだからなんだよ。私の知っているサンタクロースにね。」


 その言葉にドキッとした。ノエルもきっとドキッとしているだろう。顔から動揺の色を隠せていない。


「もしかして部長さん、サンタクロースに会ったことがあるんですか?」


 恐る恐るノエルが尋ねると、部長は真剣な表情でノエルを見つめる。


「ええ、会ったことがある。この目でしっかりと見た。白銀の少女のサンタクロースをね。丁度、真白ぐらいの。」

「へ、へぇ、そうなんですか…。私、サンタさんにそっくりなんだぁ。」


 これはマズい。このままだとノエルの正体がバレてしまう。バレたら即、こんな怪しい女は退学になってしまうだろう。

 てかノエル目がキョロキョロ動いてるし、冷や汗掻きまくってるし。これじゃあバレてしまうのも時間の問題だ。


「あのー…」

「だからっ!」


 俺の声を遮るように再び部長が声をあげる。


「真白のようなサンタさん激似の美少女と一緒に研究すれば、きっともう一度サンタさんに会えるんじゃないか、と思ってね。」


 ただのゲン担ぎだったぁー。

 ほっと胸をなでおろす。どうやらノエルが本物のサンタクロースだということは疑ってもないらしい。


「だから真白と出来れば名執も、是非サンタクロース研究会に入って欲しいと思ってね。」

「部長、ただ銀髪美少女だからってここに勧誘するのは失礼って言ってるじゃないですか。」


 幸がため息をつきながら言う。こっちは割と常識人っぽいな。


「別にいいだろ?この研究会も私とユキユキしかいないんだから。もっと部員が欲しいじゃん。それともユキユキは私と二人っきりの方がいいのかな?」

「そっ、それは…。」


 この同好会二人しか部員がいないのか。こんな僻地でマニアックなことしてるんだから無理もないだろう。

 てかこのユキユキちゃんまんざらでもないぞ。部長の言葉に顔赤くしてるし。俺らのこと上手いこと追い出そうとしてるし。ワンチャンっていうかツーチャンくらいで部長のこと好きだろこれ。何それ尊い。


「どうかなお二人?一緒にサンタクロースを研究して楽しい青春を送ろうよ!今なら特注サンタコスチュームも無料でついてくるよ!」


 何その要らないコスチューム。部長は幸の気持ちなど恐らく知りもしないで、俺たちの勧誘を続ける。仕方がない、ここは俺が一肌脱ぎますか。


「あー、申し訳ないですけ…」

「いいですよ!」

「…ん?」


 やんわりと断ろうとしたところをノエルが遮る。こいつ今何て言った?


「私と界人はこの同好会に入ります!」


 ノエルはそう高らかに宣言した。


「ちょーっとこの子お借りしますねー。ほらっ!お前こっち来い!」


 慌ててノエルを部室の外に連れ出す。ノエルはあわあわ言いながらもしっかりと付いてきた。俺は廊下の端にノエルを追いやり、中に聞こえない程度の声で話す。


「え、入るの?」

「ダメでした?面白そうじゃないですか?」

「だってお前を研究して会いたいとか言ってる連中だぞ。お前からしたら絶対つまらないだろ。」


 ノエルは特に気にする様子もなく口を開く。


「それが面白いじゃないですか。私が無条件に崇められてていい気分です。」


 えへへへと不気味な笑い声をあげる。こいつただ自分の承認欲求を満たしただけなんじゃ…。


「じゃあ一人で入れよ。俺なんか巻き込まないでくれ。」

「ダメです、ダメなんですっ!」


 そう泣きついてくるノエル。あーもう制服が伸びるからやめろ。悪い気はしないけども。


「何がダメなんだよ。」

「ユキユキさんの部長に対する視線が熱すぎて、間に一人で入るとか無理なんですっ!百合に一人で挟まれるのは勘弁ですっ!」

「分かってるなら気を遣え。」


 思ったよりも周りを見えているなこいつ。確かにこのままノエルが一人でサンタクロース研究会に入るとなると、部長と幸の二人の世界にノエルがのうのうと入っていくことになる。部長は喜ぶかもしれないが、幸はおそらく良くは思わないだろう。


「二人の世界にずけずけ入っていくのも何だか気が引けるんですよねぇ。」

「じゃあいっそお前も入れて三人でよろしくやれば良いんじゃない?百合三角関係、なんちって。」

「界人それ本気で言ってます?」


 ノエルが既に魔法で何かを浮かしている。それこっちに飛ばすわけじゃないよね。違うと言ってくれ。


「ともかく俺は入らないぞ!そんな訳の分からないとこに入ってたまるか。」

「あれれ、そんなこと言っていいんですか?界人。」


 どうやらまだ諦めてはくれないようだ。にんまりとした表情のノエルはポケットから何やら取り出している。


「それは写真?」

「そうです。そしてそこに映っているのは…。」

「ふむふむ、これは俺だな、そしてその隣に…は…幼女っ!?」


 間違いない。これは俺が以前、児童養護施設を訪ねたときのものだ。屈んで気持ち悪い笑みを浮かべた男(俺)が幼女と楽しげに話している。


「それ、いつの間に撮ったんだよ…。」

「魔法の力は万能ですっ!」


 自慢げに写真をひらひら見せびらかしている。こいつ余計なことばかりに魔法を使いやがって、その力をもっと社会のために役立ててくれよ。


「この写真、どうしましょうかねぇー。お巡りさーん、こっちにロリコンがいまーす。」

「ばっ、そんな大声出すなっ!」

「界人?人にものを頼むときの大事な七文字を忘れてますよ?小学生でも出来ますよね?」

「あーもう、おねがいしますっ!!」

「じゃあ私のお願いも、聞いてくれますよね?」

「……。」


 部室のドアを再び開ける。部長が心配そうな表情で部屋中をうろうろしていた。どんだけ入って欲しいんだよ。


「それで、結局どうするんだい?」

「……。」

「ほら、界人。自分の口で言いなさいっ!」


 ノエルが俺の背中を叩く。お前は俺のお母さんか。友達を泣かせて怒られてる子供みたいになっている。

嫌で嫌で仕方ないが言うしかない。ロリコン呼ばわりされてたまるか。


「その、二人とも入部します…。」

「よしっっ!」


 その言葉を聞いて部長は今世紀最大のガッツポーズを決める。畜生ノエルの野郎、今度何かあったら倍返しだ!

 喜びをあらわにする部長に対して、幸は信じられないような顔をしている。


「噓でしょ…こんな良く分からない同好会に入るなんて…。信じられない。」


 自分だって入ってるくせによく言う。まぁ彼女の場合は目的が違うだろうが。

 一方で部長は、いきなり新入部員が入ったことからテンパり気味にうろうろしている。そして決心がついたのか、部員三人の前で高らかに宣言する。


「改めて二人とも我が同好会に来てくれてありがとう!よって明日は新入部員二人の歓迎会を執り行う!幸、お菓子の買い出しに行くよっ!」

「は、はい…。」


 こうして俺とノエルはサンタクロース研究会という入ることになってしまった。


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