ざらつく心 男ふたりで個室?

 ステーキを御馳走になった俺は

誘われるままに新宿の街を歩いていた。夜空から星を消し去り、色とりどりの光が絢爛と瞬く。そんな時代もあったとか……。

いや、今だってその光に絡みつかれ吸いこまれていく男が、女が、いる。なんて呑気に構えていていいのか? 俺は一体何処に連れて行かれるのか。

「あの……行きつけのお店ですか? いやぁ、でもさっきネット検索為てたような気がするし……」

「鋭いね。知り合いの店は面倒くさいだろう? いちいち挨拶だのなんだのって、それにあっちこっちに呼ばれたりしたらゆっくり出来ないし。だから今日は全く行った事のないバーにしてみたんだ。新宿から離れるけど良いかな?」

「勿論、俺は何処でも構いませんよ」

「じゃぁタクシーを止めてくれる?」

タクシーに乗り込と社長さんは、

「運転手さん……えっと恵比寿までお願い。ここなんだけど判るかな? 出来れば目の前に着けてくれると有難いんだけど」

社長が携帯を見せると、

「えっと……大丈夫です。いけますよ」

「助かった。宜しくね」

ふぅ~と息をはきシートに寄りかかる社長に打つからないよう、体を避けると目があった。

気まずい空気が一瞬流れた。

俺は慌てて、

「そっ、そ、そう言えば社長さん、お店に予約入れたんですか?」

「うん?……うん。一応入れたよ。入れないと困るからな」

そりゃそうだ。でもこ雰囲気はシラけてる? 避けたのが拙かったか。何か話せ俺。

「それとね、恭介君……社長さんはやめない?」

「はぁ、でも……いやぁ……社長さんだし。出来るだけ努力はしますけど……」

「うん。宜しくね」

話すこともく無言が続く車内。益々気まずい。話題を捜そうにも社長の匂いが、またもや気になり出した。

「あの~社長さん、ひとつ質問なんですが、香水とか付けています?」

「僕? いや付けてないよ。僕臭いかい?」

「いえっ! 違っ……あの……

いい匂いだなぁ…なんて思ったり……」

「へぇ、そうなの? ボディシャンプーかな。ふ~ん、でもなんか嬉しいなぁ」

「確かにお客様いい香りが為ますよ。乗られた時から私も気になりましたから。本当いい香りですね」 

流石運転手さんだっ。助け船有難うございます!

「さぁ到着しました。そのお店は目の前のビルの地下になります」

「お~色々ありがとう。お釣りはいらなから」

と言いながら一万円札を出した。

「いや~こんなに頂いては……」

「いいの、いいの、助かったし、香りまで褒めて貰って気分良いよ」 

「いや本当いい香りです。でもよろしいんですか? こんなに」

笑顔で手を振り降りていく社長に、

「では遠慮なく頂戴致します。あの……またご用命の際は宜しくお願い致します」 

と運転手は名刺を渡した。

「ありがとう! じゃあまた何かあったら連絡させて貰うね。鈴木さん」

タクシーを見送り、俺たちはその店に向かった。

『少し近くに』って変わった店の名前だな。

扉を開けると店内は薄暗く、お客の姿が見えない。

「いらっしゃっませ。失礼でごさいますが、ご予約頂いてはおりますこ山岸様でごさいましょうか?」

支配人風の男性が静に声をかけてきた。

頷く社長に

「では、個室にご案内させて頂きます」 

個室! こっ、個室!って何?

男ふたりで、バーの個室!

「どうぞ、ごゅっくりお過ごし下さいませ」

俺たちは三畳よりやや広めの部屋に通された。内装はブラン系で纏められていて居心地が良く、このまま眠れそうだ。

「あのぉ~社長さん、俺たち個室で無くてもよかったのでは?」

「そうかなぁ。僕はゆっくり為たかったんだ。ひと目とか気にしないでさ。拙かった?」

いや拙いとかは無いけど。

「拙くは無いいですよ。別に」

俺ひとりで何焦ってるんだ?

「なら良かったよ。今日はジャンジャン吞もうな」

「は……い」

どっちかがしっかりしてないと

ヤバイ事になるのは判っている。

俺が頑張る! いつもは八代たちに開放的為れる側だが、今日は潰れる事が出来ない。介抱が俺の使命だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る