ざらつく心 その違和感の先に見えるもの

「バーボンは好き?」

静かな声が耳元に近づく。唐突過ぎて、俺は思わず体を仰け反らせる。

うん? バーボンって言ったよな。飲んだ事無いって言うか、バーボンは中年親爺のイメージがあって俺の周りは、バーボンのバの字も出てこない。

「いやぁバーボンは飲んだ事無いです。なんか癖があるんでしょ? 俺たちはもっぱらビールとか、焼酎、飲んでスコッチウイスキー、と言っても、ハイボールや、水割りですけど」

「じゃあ飲んでみてよ。なかなか美味いよ」

「はぁ~まあ」

俺の返事を聞いているのかいないのか、社長は内線を入れる。

「I.W.ハーパーゴールドメダルありますか? そう。ハイボールと後トワイスアップね。はい宜しく」

少しすると、ボーイがドアをノックする。

「どうぞ」二人同時に返事をした。

「失礼いたします。お待たせ致しました」

ボーイは扉を開け一礼し、おしゃれなカートと共に部屋に入ってきた。

テーブルに、スラッとした出で立ちのボトルと、ハイボールのグラス、ワイングラスよりやや口の狭い足長のグラス、氷、水、炭酸水、メジャーカップ。マドラー、旨そうなおつまみを丁寧に置き、

「お作り致しますか?」と声をかけてきたが、社長はそれを断わった。

 ボーイが出て行くと、まずハイボールを作り俺の前に置いた。

それからメジャーカップにウイスキーを入れ、グラスに注ぐ。つぎに同じ分量の水を入れる。

「氷入れないんですか?」

「うん。これはトワイスアップっていう飲み方なんだよ。これで香りも美味しく頂けるんだ。まあ好き好きだけとね。じゃあ改めて乾杯しようか」

何に乾杯するかはさて置き、俺たちはグラスを合わせた。

話すこともなく、気まずさの中でハイボールを飲む俺のピッチが、次第に上がり始める。

社長はやけに嬉しそうだ。そしてそんな社長を、どうしても意識してしまう俺。

「どう? 不味くないでしょ?」

「不味いなんて、美味しくて止まらなくなりそうです」

「良いねぇ。遠慮しないでどんどん飲んでよ。」

空くと作る。空くと作る。そりゃぁ、いい加減アルコールも回りはじめる。

俺は少しずつ 饒舌になる。

 社長がまた耳元で囁く。それゾワゾワしてくるんだけど。

「彼女とかいないの?」

「えっ? 彼女ですか? いませんよ。俺なんか全然モテません!」

そう言いながら、俺は何気なく顔の向きを変える。

「本当? 噓だぁ。恭介君みたいなイケメンが?」

「ハア? 俺がイケメンなら、世の中の男性みんなイケメンですよ。だいたい社長? 自分がどれだけ格好いいか判ってます?」

「えぇーまたまた。こんなおじさんが格好いいなんて……でも嬉しいなぁ。

恭介くんにそんな事を言われると」

俺は、なぜだか剝きになっていた。

「本当ですから。お世辞なんて言いません! 俺は……」

なんだよ。どうしたんだ? この訳の分からない違和感が俺の心を苛立せるのに。

それでも、ずっとここにいたいと思う矛盾した感情を、逃したく無い、とも思ってしまう自分がいるんだ。






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