断章 束の間の安息
閑話1 私の異能力値がおかしいって大きすぎてって意味よね?
国防軍配属が決まった後、紗夜と春香は国防軍管理の医療機関を訪れていた。
国防軍に正式配属になった人間はその異能力の強さ、身体能力などを計測する決まりなのだ。
「ふっふふーん」
「随分ご機嫌ね紗夜さん」
スキップをしながら進む紗夜に春香が尋ねる。
紗夜はスキップをしながら空中でターンを決め、春香の方を振り返る。
「そりゃね! 私最近本で読んだんだ。元落ちこぼれの能力値計測イベントは、俺つえーの定石だってね!」
「な、何を言っているのかわからないわよ……?」
戸惑う春香を尻目に紗夜は楽しそうに建物の中に入って行った。
「まぁ楽しそうなのはいいことだけれど」
春香も首を傾げながらも後に続く。
中に二人が入ると、ちょうど同じ年くらいの男女と目が合った。その二人は紗夜と春香を見ると大きく顔をしかめた。
「げぇ、まぁそりゃお前らもいるよな」
「……化け物コンビ」
紗夜はその顔に見覚えがあった。確か合宿所にいた……
「星野くんと憑神さんだ!」
「正解、よく覚えてんな」
春香は二人を見て不思議そうな顔をする。
「あなた達も国防軍に配属になりましたの?」
その言葉を聞いて二人は苦笑を浮かべた。
「お前らからしたら俺たちの印象ってそんなもんだよなぁ。一応合宿トーナメントの決勝戦を戦った二人なんだぜ」
「私は星野くんに負けてしまったけど、推薦を頂いたの」
「そうだったんだ、じゃあ今日から仲間だね、宜しくね!」
「ええ、宜しく」
紗夜とブンブン、と握手をしながらも憑神は怪訝な顔で紗夜を見ていた。
「あの、宵闇さん」
そんな憑神が何かを言いかけた時だ、館内にアナウンスが響いた。
「星野大地さん、宵闇紗夜さん、一番計測室へお越しください」
「おっ、呼ばれたみたいだな」
「じゃあ、行ってくるね春香ちゃん!」
星野と紗夜は言われた通り計測したら入る。中にはガラスでできたような球体とコンピュータのような装置が置いてあった。
再びアナウンスが流れる。
「球体に触れながら異能力を軽く使用してください。数値が出ましたら解除していただいて構いません」
星野はその声を聞いて前に進み出た。
「先にやらせてもらうぜ、構わないだろ?」
紗夜も頷く。
「基準が分かってからじゃないと盛り上がらないもんね、良いよ!」
「はは、面白いやつだな」
星野は球体に触れると、異能力を解放した。
「異能力・重力操作」
同時に紗夜の体がズン……と重たくなり、コンピュータが計測値を表示した。
「わお、すごいねこれ」
「おっと、範囲を絞ったつもりだったが巻き込んじまったか、悪い」
星野は慌てて能力を解除して、数値を確認する。
「320か。まぁ、普通だな」
「普通なんだ?」
「まぁ学生の平均が200だから少し高いかもしれないけどな」
「じゃあ、良い方じゃん!」
そう言う紗夜にハハッと笑って星野が計測器を指し示す。
「お前に言われても嬉しかねーな。絶対俺より高いだろ。ほら、前座はしまいだ。俺も気になってるんだ、見せてくれよお前の力」
紗夜はふっふっふーと笑みを溢すと計測器に近づいた。
「壊しちゃったらごめんね、偉い人!」
そう言って紗夜は世渡りの能力を解放した。
同時にコンピュータがピピピと計測を始める。
「ちなみに歴代で最高数値を出したのはお前の親父さんだそうだぜ。確か8700とか聞いたな。雷月攻撃隊長も7000超えの大台に乗ったって聞くしもしかすると宵闇も四桁くらいは……」
楽しそうにそう話す星野。その目に数値を見て唖然とした表情を浮かべる紗夜が映る。
「ん? なんだもう出たのか」
星野も紗夜の目線の先にある数値を見る。そして同じく唖然とした表情を浮かべた。
「おいおい、なんだこりゃ、故障してるんじゃねぇのか……?」
そこには慎ましい、実に慎ましい数字が記録されていた。
『10』
「そ、そんなバカな……私の、私の力がこの程度なはずが……あわ、あわわわわ」
それなりに自分の成長に期待していた紗夜はアワアワし始める。なんと声をかけたものか。星野は首を傾げて考えた。
その時だ、突然隣の部屋から爆発音が聞こえた。
同時にバタバタとスタッフ達が駆けつける音がする。
そしてスタッフ達の慌てたような声が漏れ出してきた。
「なんだこれは計器が爆発しただと!」
「内部数値には53000が記録されているぞ!そんなバカな!」
「何かの間違いだ、君、もう一度こちらの装置で計測を……」
バンッッ!
「なんだと! 理論上10万まで計測できる最新機器だぞ!?」
「な、内部数値は530000を記録している!!! どうなっているんだ!」
「おーっほっほ、私の力をこんな機械で測れるわけがありませんわ!」
「勘弁してよ全く……500で喜んでた自分が恥ずかしいじゃない……」
隣から聞こえてくるのは春香と憑神の声と慌ただしい職員たちの喧騒だった。
「……」
「……」
星野は恐る恐る紗夜の方を見る。感じたことのない怒気を感じたのだ。
そこにはプクーッと頬を膨らませた紗夜の姿があった。よく見るとうっすら青いオーラがキツネの姿を模っている。
『それ! 私の役のはずでしょ!』
やれやれ、と星野は頭をかいた。
推定10万以上を記録した朝日も大概おかしいが、たった10の異能力値でそれと戦えてるお前の方が俺にとっちゃファンタジーなんだぜ?
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「はははっ!!! あはははははははっ!!!」
国防軍本部で大笑いしているのは雷月だ。
彼女の大笑いなどなかなか見られるものではない。
周りにいた同僚たちは目を見張って彼女を眺めた。
「そんなに楽しいか? その紙の内容は」
そう問いかけるのは宵闇明雅その人だ。
それに対して雷月は自分の見ていた記録を明雅へ手渡した。
「いやぁ、最高に楽しいですね。全くつくづく私の期待を超えてきてくれる。こんな数値、私でも見たことがないよ。くくく」
それを見て明雅もまた頬を緩めた。
「なるほど。これはなかなか将来が楽しみな二人だな」
そんな明雅の様子を見て雷月は再び笑みを浮かべた。
「楽しくなりそうだな、ひよっこども」
世渡り上手の式神使い みゅーまる @night_myu
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