第15話 地獄の合宿と更なる力

「すまなかった紗夜」


合宿初日の夜。夢の中で紗夜に頭を下げていたのは、シラヌイだった。


「紗夜を助けたくてやったことだが、裏目に出てしまったらしい」

「やっぱりシラヌイさんだったんだ」


あの後、春香から鎧武者と戦っていた時の自分の様子を聞いて、もしやと思った紗夜はシラヌイに会いに来ていたのだ。


「でもでも、そのお陰で私は助かったわけだしさ!」

「しかし……今回は、キラヌイとの繋がりを利用して無理矢理私がリンクを結んでしまった形になる。結果的に君の体を乗っ取ってしまい、結果的に今の紗夜には過ぎたる力を使ってしまった。許されないことだ」


シラヌイはなおも頭を下げていた。

紗夜はそんなシラヌイにパタパタと手と首を振る。


「違うって! あれは私が弱かったからだよ。私が強かったらあんなことにはならなかった」

「うーむ……」

「だからほら、今回のことはおあいこ、ね?」


紗夜がそう言うと、シラヌイは渋々といった感じに頷いた。

それを見て「よし」と紗夜は頷くと、シラヌイの頭をもふもふと撫でた。


「でも、シラヌイさんって強いんだねー。さすがキラヌイのお父さんだ」

「いや、それは少し違うな」


もふもふされながらシラヌイは首を振った。


「キラヌイにもあの程度の怪異に負けないくらいの力は備わっている。紗夜がまだその力を使いこなせていないだけだ」

「そうなの?」

「うむ」


シラヌイは頷くと、近くでコロコロしていたキラヌイを見る。


「我らは曲がりなりにも神。その力を十分に発揮できれば、大抵の相手には勝てる。我々の力を自分の物とするのだ紗夜。君はまだまだ強くなれる」

「うん、わかったよ」



***



次の日からは地獄の始まりだった。


「ほらほら、頑張れ頑張れ」


雷月は次々に強力な怪異を現世に解き放つ。

紗夜と春香は次々と現れる怪異と連続で戦い続けていた。


「く……紗夜さん! 同時に行きますわよ!」

「分かったよハルちゃん!」


二人は難しいことを考える間もなく、怪異たちをなぎ倒し続けていた。

雷月の方は、常に二人が全力でギリギリ苦戦する程度の敵を出し続けていた。

二日目は同時に3体。三日目は同時に5体。四日目になると少し色合いの違う鎧武者が混じりだした。


「よーし。今日はここまで。だいぶ戦えるようになったじゃないか。未知の敵に対する恐怖心も減ってきたようで何より。ようやく少しは戦う側の人間の顔つきになってきたな」


五日目。雷月は二人を始めて労った。

「ど、どーも……」

肩で息をしながら、春香は謝辞を述べた。しかし……


「ねぇ、紗夜さん」


その夜、お風呂に漬かりながら、春香は紗夜に尋ねた。

「私たちは確実に強くはなっていますわ。でも、このままでいいのかしら」

「確かに、このまま頑張っても先生くらい強くなれる気がしないよね」

「なにか、私たちはこの合宿でコツを掴まなくてはならないのだわ」

春香は顔を湯船に沈めてブクブクと泡を吐く。


「コツ……か」


紗夜はシラヌイに言われたことを思い出した。


『我々の力を自分のものとするのだ』


窓の外に光る月を眺めながらため息をつく。

してる、つもりなんだけどな。

でも、きっとまだ私には何か足りないものがある。世渡りの力はきっとまだまだこんなものではないはずなのだ。


「あと二日……頑張ろうね春香ちゃん」

そう言って春香の方を見てみると、まだ春香はブクブクと泡を吹いていた。

あれ? もう五分くらいは経っているような……

「春香ちゃん!? 死ぬよ!?」


紗夜の手によってお湯から引き揚げられた春香は、真っ赤になって更衣室の椅子に横になっていた。

「……うっかりしていましたわ」

「肺活量やばいね春香ちゃん。生きててよかったよ」

「少しのぼせてしまっただけですわ。すぐに回復します」

紗夜はそんな春香を団扇でパタパタ仰ぎながら、窓を開けて外の景色を眺めていた。


「空気がひんやりしていて気持ちいい……」


春香が言うように、夏にしてはずいぶんと空気が冷たかった。

いや、これはむしろ……


「寒い……?」


紗夜は不思議に思って窓に近づいた。

夜とはいえ、夏の夜がこんなに寒くなるわけがない。

なにか嫌な予感がして紗夜は世渡りを発動させた。


「キラヌイ。きて」

(はいなー!)


ポン、とキラヌイが紗夜の横に現れる。と同時にその身をブルっと震わせた。


(うわ、なにここーさっむいね!)

「キラヌイもそう思う?」

(うん。これは……妖力のバランスが崩れてるね)


キラヌイは窓の外の景色を見てその目を見開く。

(あの山のあたり、なんかやばそう)

キラヌイの視線の先にあるのは、紗夜たちが修行を行っていた神社だった。

目を凝らしてみると、確かに淡く不気味な光のモヤのようなものが見て取れた。


「怪異が漏れ出てしまってるのかも。ちょっと見に行こっか」

「わ、私も行きますわ」

「だめだよ春香ちゃん、まだフラフラでしょ。危なそうだったら帰ってくるからさ、春香ちゃんはここで待ってて」


紗夜は立ち上がろうとした春香を制して、再び椅子の上に寝かせた。

そして、キラヌイと世渡りを繋ぎ、窓から飛び降りた。


「じゃあ、いってきまーす」




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