第13話 合宿二日目と対怪異戦

「本来なら能力の使い方、そして本人にあった戦い方などを順に教えていくべきなんだろうがな」


雷月と紗夜、春香の2人は二日目の朝から山奥に向かっていた。


「私はそういうのはあまり得意ではないし、そもそも君達はそんなレベルではない」


雷月はタバコをふかし、修行方針の話をしながらどんどん山奥に入っていく。

紗夜と春香も特に遅れることなく後に続く。


「というわけで、君達には実践訓練から始めてもらおうと思うわけだ。今日から君たちには怪異との戦いを学んでもらおう」


雷月達がたどり着いたのは山奥の神社だった。そこはまだ朝早いというのに妙に薄暗く、冷たい風が吹き抜けていた。


「なんかいかにもって感じのところに来たね?」

「ええ、なんだか不気味ですわ」


しかし雷月はそんな空気にも一切臆する事なくズンズンと中に入っていく。

そして、境内が見えたあたりで振り返った。


「さて、君らはもう裏の世界のことを知っているはずだな」

「は、はい」

「勿論ですわ」

「よろしい。なら知っての通りだが、この世界は日々裏の世界からの侵攻の危機にさらされている。それを具体的にどうやって留めているか知っているかい?」


雷月の質問で紗夜は裏の世界での光景を思い出す。確かあっちの世界では、国防軍の人達が侵攻を食い止めるために日々戦っていた。そんな紗夜の心を見透かすように雷月は首を振った。

「それは月に一度起こる裏の世界でのイベントに過ぎない。昔の陰陽師はもっと広範囲の結界にて裏と表を分けた。それが、これだよ」

雷月は、そう言って神社の隅に並ぶお地蔵様を指さした。


「お地蔵様……なるほど」


春香は納得したように頷いた。

「このお地蔵様自体が結界術として働いていますのね。これなら全国のどこにあっても不自然ではない……」

「その通り。各地の神社を起点として、全国の地蔵によって強力な結界陣を張っているのさ。しかしだ、そんな神社や地蔵が局所的に大量に破損してしまったら……」

「裏の世界から怪異が飛び出してくる、と」

「ああ」


雷月は頷き、本堂の中に入っていく。


「そんな神社の修繕や怪異の退治が表の世界での我々の役目というわけさ。そしてここは……」


本堂の奥にはバチバチと稲妻がほとばしっている場所があった。

そしてその奥には……


「あれは!」


紗夜が裏の世界で見た怪異たちが、ひしめき合っていた。

怪異たちは怨嗟の声をまき散らしており、裏の世界で見た時よりも苦しそうに見えたる。


「この神社は私の担当区域なんだが、私は仕事が嫌いでね。こうして閉じ込めて放置していたんだよ。だがそれが役に立つ時が来るとは、人生分からないものだな。それでは君たち。よろしく頼むよ」


そう言って雷月がパチンと指を鳴らすと同時に稲妻が消える。そして怪異たちが一斉に飛び出してきた。


「来ましたわ!」

「キ、キラヌイ!」

(はーいっ!)


紗夜と春香は各々戦闘態勢をとる。

春香は瞬時に異能力を高め、怪異を次々となぎ倒していく。

紗夜はキラヌイを呼び出し、格闘と炎で迎え撃つ。


「紗夜さん! あなたは突っ込んでくる小型怪異をお願いします。私は奥の大きいのを倒してきます!」

「分かった!」


春香はそういうと奥の巨大な怪異に向かって飛ぶ。そしてその勢いのまま一体を破壊した。

……薄々気づいてはいたけど春香ちゃんってもしかしてめちゃくちゃ強い?

紗夜は一瞬春香に半ば呆れたような目を向けながらも、目の前の怪異たちを炎で薙ぎ払う。

春香がいなくなったから巻き添えを気にする必要もない。


「よーし、私も頑張るよー!」


紗夜はポポポ……と火の玉を作り出し、一斉に蹴り飛ばす。

「狐火散花!」

その様子を遠巻きに眺めていた雷月は、目を細めて煙草を取り出した。


「はは、やはりなかなか強いな。二人とも。しかし、怪異と戦うのなら、本番は寧ろここからだろう」


そう呟き、指を再びパチンと鳴らした。同時に地響きがあたりに鳴り響く。

紗夜と春香は同時に真後ろに振り向いた。

「オオオオオオン!!!」

雄たけびとともに二人の前に現れたのは3メートルほどもありそうな巨大な鎧武者だった。雷月は伸びをすると煙を大きく吸い込む。

「恐怖の前で、君らはどれだけやれるか。見せてもらおうか」


「これは……」


春香は目を剥いて鎧武者を見た。

「紗夜さん!」

春香が叫ぶが間に合わない。鎧武者は紗夜を掴み、投げつけた。

「きゃあぁぁ!?」

紗夜は背中を強打し地面に転がる。そしてそのまま動かなくなった。


「紗夜さん!!」


春香はキッと鎧武者を睨み、離れた場所にいる雷月に目をやる。しかし雷月は煙草を燻らせながらその様子を眺めているだけだ。

これも修行の一環だとでもいうのか。自分が何とかするしかない。


「貴様!!」


春香は覚悟を決めて鎧武者へと飛び掛かった。鎧武者は巨体のわりに素早い。

春香の蹴りを素早く腕でガードする。そして春香のことも掴もうと手を伸ばしてきた。

しかし。


「紗夜さんから離れなさい! この、木偶の坊!!」


春香の強烈な一撃が右の膝に入る。

そして体勢を崩したところでさらにもう一発、強烈な掌底を加えた。


「蒼天剛掌!!!」


鎧武者は春香の一撃を喰らい、大きく体にヒビを入れ、そのまま光粒となり消えていく。

「朝日家相伝の格闘術か。まぁまぁだな。しかし、まだだぞ」

雷月の言葉通り、まだあたりには多くの怪異がいる。

そして最悪なことはそれだけではなかった。


「オオオオオオン!」

「はぁ……はぁ……二体目……!」


肩で息をしながら春香は鎧武者を見上げる。鎧武者だけなら何とかなるだろう、周りの雑魚だけでも。

しかしそれらを同時に相手にするのはさすがに厳しい。


「ちょっと」


そんな時だ。

ボボボボボボボボ……!とあたりに巨大な炎がいくつも浮かび上がる。

そして、その炎が次々と雑魚怪異を焼き払っていく。

「ほぉ……そうなるのか」

観戦していた雷月は物珍しそうに目を細めた。


「この炎は……」

「手を貸そう、朝日春香」

「紗夜……さん?」


春香の横に現れたのは確かに紗夜だった。しかし、何かが違う。

顔つきも、彼女から感じる妖力も。そして何より服装が変わっていた。

さっきまでの紗夜はスカートだったのに。いつの間にか彼女は和装に変わっていたのだ。


「は、早着替えもできるのね、紗夜さん」


緊迫したこの状況で、何より先に出たのはその一言だった。












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