第12話 合宿初日とぽんぽこ丸

「これは……幻術か?」


雷月はあたりに現れた大量の紗夜を見まわした。

一見すると本物とそっくりだが、細かく見ると微妙に差異がある。


「いや、分身といった方が近いか」

「流石先生、良くお分かりで」


紗夜達は「ふふーん」と得意げな顔を見せる。

「さあ、それじゃあ煙草、いただきますよ!」

紗夜はそういうと、カンフーのような妙なポーズを取った。


「必殺! 妖怪乱舞ぽんぽこ!!」


紗夜の技名とともに、大量の分身が雷月に襲い掛かる。

しかし、手数は格段に増えているものの、一体一体の力はむしろキラヌイの時よりも下がっているので、雷月に楽々裁かれしまう。


「分身相手だ、攻撃もさせてもらうぞ」


雷月はそう言って次々に分身を破壊していく。


「大丈夫ですの!? 紗夜さん」


不安そうな声を上げる春香。

しかし、紗夜はそれを見てにやりと笑う。


「ふふーん、心配しないで! こうなることは予想していたよ。でも、これならどうかな!」

「さすが紗夜さん! さらに隠し玉があるのね!」

「妖怪乱舞ぽんぽこ2!」


紗夜が再び手を打つと分身の数が倍になる。そしてその紗夜たちが再びカンフーのようなポーズをとった。

それを見て春香の顔が思わずこわばる。


「ま、まさか数が増えただけじゃありませんよね……?」


恐る恐るそう聞く春香に紗夜は胸を張って答える。

「ううん、数が増えただけだよ!」

「……」

思わず絶句する春香。数が増えようが、雷月は全く苦戦しているようには見えない。

このままだと先に煙草が燃え尽きてしまうだろう。


「っ仕方ありません」

「ちょっと待って!」


諦めて自力で特攻しようとする春香を紗夜が止める。

「あともう少しできっと隙ができるからさ」

紗夜はそう言って春香にウインクをした。

多少いぶかしげな顔をする春香ではあったが、確かに紗夜の能力には意外性がある。


「分かりましたわ」


そう言って春香は引き下がった。

そして、目に見えるレベルで分身の数が減ったとき、雷月から少し離れた場所にいる紗夜の分身がガッツポーズを挙げた。


「盗ったどー!」


その手には確かに燃え尽きる寸前の煙草が握られていた。


「なんだと!?」


それを見て一番驚いたのは雷月だ。

なぜなら、その口元には確かに煙草の感触があったのだから。

そして、一瞬遅れて理解が追いつく。そうか、あの煙草は分身の……

しかし雷月は確かに、一瞬遅れてしまった、のだ。


「今だよ!」

「ええ!」


その隙を見逃す二人ではない。

一瞬動きのとまった雷月の死角を突き、春香は能力を発現させ素早く動いた。


「しまった!」

「もう間に合いませんわよ!」


雷月も素早く防御の構えを取りはしたが、さすがに間に合わない。

防御の姿勢に回った雷月の腕を弾き飛ばし、春香は雷月の口元の煙草を奪い取る。


「やった!」


それを見て紗夜と紗夜の分身たちが手を挙げる。

「ええ! やりましたわね」

春香も満足そうにそう言って、煙草を握りつぶし火を消した。

雷月は「やれやれ……」と頭を掻いてもう一本の煙草を取り出した。


「ふん。面白い能力だな。いいだろう、合格だ。お前たち二人の参加を認めよう」

「よし!」

「やりましたわ!」


雷月の評価に素直に喜ぶ二人。

戦っているときの迫力はどこへやら……と、雷月は煙を大きく吸い込み、空を見上げた。

朝日の娘は当然としても、宵闇の娘もなかなかのものだった。


「はは、楽しくなりそうじゃないか」


雷月はそう呟き、煙草を吸い終えると立ち上がった。

「さて……それじゃあ、改めてだが今日からお前らを鍛えるための強化合宿を始めていく」

紗夜と春香はその言葉を聞いて、雷月のほうに向きなおった。


「はい、よろしくお願いします」

「まぁ、私はあなたに思うところが無いわけではありませんが……」

「はは、まぁなんでもいいさ」


雷月はそういうと二人に向かって手を広げる。


「さ、それじゃあ今回の合宿の説明をさせてもらおうか。お前たちも気になっているだろう。他の参加者は居ないのか、とかな」

「確かに、聞きたい!」

「ええ、そうですわね」

「よろしい」


頷くと、雷月は説明を始めた。


「まずこの合宿だが、我々のようなチームが4つある。そして各々が1週間自分たちの生徒を育てる。最終日に、その成果を我々国防軍の幹部陣の前で見せてもらうための試験を行う。その様子を見て国家異能力者としての資格の配布、また有望だと思われた者には後日スカウトが来る……ってわけさ」


それを聞いて春香が感心したように唸る。


「意外にしっかりとしていますのね」

「はは、そりゃあ考えたのは国防軍のお偉い様。君たちの父上殿だからな」


やっぱりそうだったんだ。紗夜は妙に可愛らしいチラシを思い出す。

お父様はやっぱり結構可愛らしい方だったのね。


「説明はこんなところだ。早速修行に移ろうか。最後の試験でお前たちが良い成績を取ると私にもボーナスが出るんだ。せいぜい稼がせてくれよ」


雷月はそう言うとニッと笑った。

それに対して紗夜は真面目に頷き、春香は「全くこの人は」と呆れた表情を浮かべるのだった。

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