EPILOGUE 3
「どう?似合う?」
「も゛っ」
ソレは、すごく見覚えのあるモノだった。
[DAY WALK]はキャラグラのクオリティの高さを売りにしている。そしてそれに合わせて、衣装のバリエーションにも力を入れていた。どれだけいい感じのキャラを作れても、恰好が初期の都市迷彩服だけじゃ意味がないからね。
まあFPS、TPSゲームなんてキャラや武器のスキンで課金を促すのがスタンダードではあるから、その点では特別変な事をしてるってわけじゃない。わたしも、良さげな新衣装が出たら結構ぽんぽん買っちゃうクチだし。理想の女性に貢いでるような感覚で。
ただ、この衣装は。
今、ハウンドが目の前で着ているモノだけは。
あんまりにも刺激が強すぎる。
「これ、トウミが買ってくれたものだよね?何となく分かる」
「み゛っ」
部屋の隅、収納箱の方から、ハウンドがゆっくりと近づいてくる。さっきまでの、顔以外の全身を覆い隠していた都市迷彩服と比べて、かなーり肌色成分が増してるソレは――
「ええっと…………そう、犬耳ビキニ&パーカー」
「み゛ょっ」
犬耳と、ビキニと、パーカー。
端的に言うと、えっちなやつだ。
「トウミ、こういうのが好きなんだ」
「……いや、あの、あのですね」
恥じらいなんて欠片も見せず、ただいつも以上に細められた色っぽい流し目でこちらを見やるハウンド。言外に変態扱いされているような気がして、弁明の言葉も上手く紡げない。
違うんですよ。
これがただのビキニだったら、スルーしてたんですよ。犬耳もこれ単体なら(いくら『ハウンド・ドッグ』とはいえ安直過ぎるでしょ)って、スルーしてたと思うんですよ。『ハウンド・ドッグ』は戦場でそんなおちゃらけた恰好しないので。パーカーは……まあ、普通に好き。
でもこの三つが、ワンセットになって売り出されてたんですよ。
気付いたら買ってたよね。灰色三角耳&黒ビキニ&灰色パーカー。買ってた。
で、まあ、買ったからには着せるじゃないですか。
「……えっち過ぎる……」
えっち過ぎましたよね。
「それ、口に出して良かったやつ?」
「あ゛っ」
指摘されて思わず口を押えるけど、もう遅い。
ちゃんと毛の生え具合にまで拘ったモフ度ちょい高くらいな三角耳に、それ自体はシンプルなデザインの黒ビキニ。ハウンドの白い肌とのコントラストがわたしの情緒をめちゃくちゃにして来る。というかハウンド、腰の位置が高い。ヒップラインがきゅっと上向いている。良い意味で並盛くらいの胸はこう、「丁度良い」を煮詰めて完璧な金型で成型したかのよう。あしながお姉さん。このパーフェクトボディを造ったのは一体どこのどいつだ。
とにかくわたしが有権者に訴えたいのは、そんなウルトラ超絶美人お姉さんが露出多めな水着を身に纏い、あまつさえその上からオーバーサイズなパーカーをだぼっと着こなしているという事。
これをえっちと言わずして何と言うのか。
露出が多ければいいってもんじゃない。それは誰もが思う事だろう。
とはいえ肌は見たい。デコルテも胸の谷間も、眩しい太腿も、妖しい色香を放つ足首も。それもまた、誰もが思う事だろう。
そこでこの、ビキニ&パーカーですよ。
羽織るだけで上半身の露出は一気に減り、だけども胸の下まで上げられたジッパーが、胸元の双丘をより一層強調させる。サイズが大きいからお尻まで隠れているけれど、逆に言うとお尻の丸みでちょっと膨らんだ裾そのものがもうえっち。そこから伸びる眩しいおみ足への視線誘導も驚異的。おへそが見えないのが逆にえろいよね。ジッパーを下ろす瞬間を想起しちゃうというか……あと、ちょっと萌え袖気味になってるところとかもね。手指の細長さを意識させられて、爪が短く切り揃えられてるのとか見えちゃうと、もう、想像しちゃうよね。
とにかくまあ、その全てが刺激的過ぎるという事で、買ったはいいけど戦場には着せていかなかったヤツ。こんな格好でマッチに参加したら、えっち過ぎてBANされてしまう。
「――トウミ。全部口に出てるけど」
「ほ゛ぉ゛っ」
いくらちゅーまでした仲とはいえ、知られたくない性癖だってあるわけで。それが自分の口から全部漏れていたらしいという事実を、脳が受け入れるのを拒否している。
というよりも、視覚情報を処理するので手一杯で、そこまでリソースを割いてる余裕がない。
「まあ、何にせよ。そこまで好きなら文句は無いよね」
何か知らないうちに目の前――ベッド脇にまで戻ってきていたハウンドが、意味深に笑みを深める。何を言ってるのかはよく分からないけど、ただでさえ流し目がえっちなんだから、そんなえっちな格好しながらえっちな表情をしないで欲しい。処女には耐えかねる。
「さっきもお預け食らったし、もうそろそろ本当に我慢出来ない」
あろう事かハウンドさん、ベッドの縁に膝を乗せて上がり込もうとしてきた。ぎしっと鳴った小さな音に、わたしの体が独りでに跳ねる。
「そもそも、こうして一緒に居られる事が分かって、ベッドも一つしかない部屋に閉じ込められて。我慢しろっていう方がおかしい」
「あ、あの……ハウンド、しゃん……?」
本能的に何かを恐れてか。わたしの意思とは関係なく、体は後退り彼女から逃げようとしていた……んだけど。狭いベッドの上、ちょっと下がればそこはもう壁で、背中が付いてむしろ逃げられなくなってしまった。
ぎしり、ぎしりともう二度ベッドが揺れて、わたしに覆い被さるように、ハウンドがすぐ傍に。こちらの両脚を挟み込むような膝立ちと、壁に付いた左手が、身動きすらも封じてくる。
「トウミ」
「ひぅっ」
今まで聞いた中で一番えろい「トウミ」って声で、体が逃げるのを諦めた。屈服するように力が抜けて、奥の方が、彼女を受け入れる準備をし始める。熱暴走を起こした頭の極々片隅で、そんな風に客観視してる自分の一部がいて。でもハウンドはその天邪鬼なわたしさえ絡め取るように、顔を寄せて視界の全てを埋め尽くす。細められたアーモンドアイには、はっきりと劣情と分かる光が灯っていた。
「ぁ、あの……」
「うん?」
せめてもと、まだ人の言語を喋れるうちに、これだけ伝えておかなくちゃ。
「……は、初めてなので……優しくお願いしましゅ……」
「……優しくして欲しいなら。そんな煽るような事、言っちゃダメ」
「え、や――んむっ」
もうこれ以上は何も言わせてもらえず、唇を塞がれる。ゆっくりとゆっくりと、ハウンドの舌先が、慣れないわたしを蕩かすように、閉じたままの唇をなぞってきた。
そうしながらも彼女は器用に、わたしの迷彩服の前を開けていく。
閉じ忘れてしまった視界はもう、ハウンドの瞳に囚われたまま。切れ長な目尻には、間違いなく、彼女の肉食性が表れていた。
「ん、んぅ……っ」
火照ったまま、思考がハウンド一色に染まっていく。
ハウンドの言う通り。一緒に居られるって分かって、我慢できる方がおかしいんだ。
上着ははだけ、インナーを捲られて。お腹の辺りをなぞられれば、また一段、脳みそがダメになる。
「――っはぁっ。トウミ、好きっ……」
「ぁぅ゛……っ」
思わず濁った喘ぎ声が出てしまったけれど、それですらハウンドにとっては、劣情を煽られるだけみたい。少しだけ乱暴にベッドへと引き倒されて、覆い被さってきた彼女の、だいぶ薄まった硝煙の匂いが香る。
「すき、トウミ、すきっ……!」
「わ、わたし、もぉっ……」
返事すらままならないくらい、愛情をぶつけられて。
それからわたし達は昼も夜もなく、無尽蔵の時間と体力に物を言わせて、ただひたすらに求め合った。
何度か来ていた気がする次のマッチへの招待も、ぜんぶぜんぶ無視して。
分からないままの事も、[DAY WALK SURVIVOR]の事も、これから自分達がどうなっていくのかも。これでも気にしていたつもりの諸々が、全部全部、溶けてなくなっていく。
でもまあ、今はそれで良いかなって。
わたしを貪るハウンドの姿に、そう思ってしまうのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
本文中に失礼します。
これにてひとまずの完結とさせて頂きます。
続きを書けるような形で終わらせており、また書きたいという気持ちもあるのですが、本作はカクヨムコン用に「10万字で区切りをつける」というのを目標に執筆しておりましたので、当初の予定通りここで一旦の区切りとさせて頂きます。
最後までお読み頂き本当にありがとうございました。
DAY WALK SURVIVOR ~バトロワゲーに参加させられたのでデュオで優勝していく事にする~ にゃー @nyannnyannnyann
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