EPILOGUE 2
「…………無粋」
「……あ、はは……」
露骨に不機嫌になるハウンド。わたしも今回ばっかりは流石に同じ事を思ってしまう。無視してしまおうかとすら考えたけれど……いかにもメッセージが来ている事を示すかのような白い便せんが、例によって視界の端に直接移り込み点滅しているものだから、まあ気が散ってしょうがない。
「……むぅ……」
むすぅっと頬を膨らませるハウンドの様子が子供っぽくて、顔立ちとのギャップで心臓がぎゃんッッ!!!ってなった。それを落ち着かせるという意味合いも兼ねて、顔を離し便せんへと意識を向ける。
「取り敢えず、確認――あ、できた」
言葉か意識のどちらかに反応してか、いかにもオンラインゲームのお知らせ項目みたいな半透明のテキストボックスが現れた。視界の大半を埋めるように広がったそれは、〈運営より〉と書かれたメッセージ。
〈犬飼 灯美様
この度は[DAY WALK SURVIVOR]をプレイ頂きありがとうございます。第03サーバーの記念すべき初『SURVIVOR』として、犬飼 灯美様、ハウンド・ドッグ様の今後益々のご活躍を楽しみにしております。つきましては、次回のマッチング時にもぜひ奮ってご参加下さいますよう、よろしくお願い申し上げます。
[DAY WALK SURVIVOR]運営より〉
「デイウォーク……」
「サバイバー……」
[DAY WALK]のマイナーチェンジverみたいなタイトルを当然のように使ってくる運営とやら。彼らの言い草はまるで、先の戦いもただのゲームであったかのようで。宛名以外は全く同じだったらしい自分宛てのものを呼んで、ハウンドも顔を顰めていた。
「……あ、待って。もう二通?届いてるっぽい」
広げられたメッセージの下に、2と書かれた未開封の便せんマークが残っている。運営からの追加情報かと思い意識を向けてみると、最初のメッセージが消え、変わって送り主二名の名前が並ぶ。
「――!加賀見 秀明と、長峰 俊一!」
忘れようもない字面に、思わず声が大きくなってしまう。
「私の所には何も。トウミ宛って事か」
どちらもわたしと
「開ける、ね。ハウンドも見えるようには……」
「――うん、今見えるようになった」
横から覗き込んできたハウンドに肩を寄せながら、先に届いていたらしい方から、メッセージを開く。
〈犬飼 灯美様
初めまして、突然の連絡失礼致します。加賀見 秀明と申します。この[DAY WALK SURVIVOR]なるゲームにおいて、三日目に犬飼様にキルされたプレイヤーでございます。
さて、犬飼様もご自身の身を以って体験しているかとは存じますが、私も私のキャラクターであるヒデ子も、敗北後は無事マイルームへと送還されております。ゲーム内でのキルが本当の死ではない事を知らなかったとはいえ、マッチ中はあのような言動をしてしまい大変申し訳ございません。ヒデ子が殺されたと思い、我を失ってしまっておりました。文面という形になってしまい申し訳ありませんが、女性を組み敷くなどという蛮行に及んでしまった事を、どうか謝罪させて頂きたく思います。
今一度、本当に申し訳ございませんでした。
加賀見 秀明より〉
「……めっちゃ丁寧だね」
「うん」
流石、人柄の良さで知られる人気実況者。こっちまで申し訳なくなってきちゃうくらい丁寧、かつ反省の意思が伝わってくる。いや正直、反省する必要ないと思うんだけども。先に
「ちょっと、返事書くね」
どうせ言えばできるんだろうと口にしてみたら、案の定返信メッセージの作成フォームが出てきた。合わせて、立体映像みたいなキーボードも空中に出現。
「えーっと……」
なんて返そうかとキーボードに手を当てるのと同時に、ハウンドが静かに立ち上がったのを感じた。横目で見るに、どうやら部屋の中を探ろうとしているらしい。まあそりゃ、気になるよね。
一旦そっちはそっちで任せるとして、わたしは加賀見さんへの返事を考えなきゃ。押し込み感の無い不思議なキーボードを、音もなく叩いていく。
「…………」
〈加賀見 秀明様
ご丁寧にありがとうございます。マッチ内での出来事について、こちらは全く気にしておりませんので、どうか気に病まないで下さい。もしも逆の立場なら、私も同じ事をしていたと思います。どちらも生きてマッチを終える事ができた、それだけで十分ではないでしょうか。
何が何やら分からないこんな状況ですが、先の出来事はお互い水に流し、今後も情報共有等していけたらと考えております。
余談になりますが、『H²ちゃんねる』のファンです。いつも動画の方楽しく拝見させて頂いておりました。
犬飼 灯美より〉
「……こんなもんかなぁ」
気にしてませんよって意味で硬くなり過ぎず、でもあちらの大事な人を殺すつもりで撃ったのも事実だから、いきなりフランクに行くのも違うだろうし。とはいえ凄く良い人っぽいから、今後どうなるか分からない現状、繋がりは維持しておきたい。
……という打算混じりな文面を、取り敢えず送っておいた。
で、いつの間にやら収納箱の中を物色し始めたハウンドを横目に、もう一通を開く。さっきよりも恐々と。
〈次は殺す〉
あ、これブロック機能あるじゃん。良かった良かった。
「途中脱落者も皆、生きてるみたいだね」
「ね。本当にゲームのよう」
あれだけ死に怯えていたのが馬鹿らしくなってしまう。勿論その恐怖があったからこそ、今回『SURVIVOR』になれた訳なんだけど。そもそも、なれたから何だって話でもある。運営とやらがゲームの意図も意味も語らないものだから、勝つ事に何の意味があるのかすら定かではない。
現状分かっているのは、また次のマッチがあって、わたし達はこのゲームに囚われ続けているという事だけ。文面からして、強制参加ではない可能性もありそうだけど……
「……殺す覚悟を決めたつもりでも、いざ生きてると知ると安心しちゃった」
「楽しんで殺しているのでもない限り、そういうモノだと思う」
纏まらないなりに浮かんだ率直な気持ちを、ハウンドは肯定してくれる。そんな彼女が隣に居続けてくれる事が、目下最大の幸運なのかもしれない。そう思いながらメッセージを閉じ、彼女の方へと顔を向けて。
「トウミ」
「ぬ゛っ」
心臓がぎゅろろろろろぉッッッ!!!!みたいな音を立てた。
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