昼 バイズガインの街 15
まあそんな感じでお互いに索敵し合っていたら、当然いつかは向こうに気取られる。それ自体は別にいいんだけど……気付いた瞬間に躊躇なく発砲してきた辺り、こっちとあっちの方向性の違いが如実に感じられた。
5.56mm弾三点バースト、恐らく一マガジン分全部撃ち込んできてたと思う。ほとんどは家の外壁に当たったけど、何発かは窓枠の内に収まって私の横を掠めて行った。バレたと思った瞬間にハウンドに警告しつつ身を引いていたから、二人共ダメージはなかったけど。
「こわぁ……」
恐怖というよりも(うわ引くわ……)みたいな気持ちが思わず漏れる。
この距離でも撃ってこれるようになったという意味では、やっぱり向こうも成長してるし。撃つ事に全く躊躇いが無いという意味では最初から一貫してるとも言える。恐らく長峰自身も、有効打にはならないと分かっていただろうに……
牽制は大事だけど、そうと言うにも荒っぽ過ぎた。
「頭出し、気を付けなきゃ」
「うん。無理はしないで」
それからしばらくは、さらに気を引き締めながらの監視。
あまりにもこちらにフォーカスし過ぎているようなら、増長させないよう強めの反撃も必要だったかもしれないけど。流石に向こうも他チームを――特に背後の風車群を警戒してるみたいで、以降も執拗に攻撃を加えてくるなんて事はなかった。最初の派手な発砲は恐らく、気付いてるぞとこっちに釘を刺す為のものだったんだろう。他のチームにわたし達の居場所を悟らせるって狙いもあったかもしれない。
恐らく今、この最終安地の中心にいるのは長峰達。位置的な意味でも、ヘイト的な意味でも。
思い出した頃にするこちらへの牽制と同じく、背後へも銃を向けたり発砲したりしていたので、向こうに一チーム以上いるのは確定。わたし達も含めて3/4が居場所を明らかにし、けれども残りの一組は未だに見つかっていない。
そして困った事に。それ以降、状況は膠着してしまった。
◆ ◆ ◆
「――あまり、良くないね」
「だねぇ……」
なるべく明るい声音で返したけど、さて……
恐ろしいことに事態は一切進展しないまま、もう日が傾き始めるほどの時間が経ってしまった。ひたすらに睨み合い。
こちらは撹乱の為にこの家と隣の家を行ったり来たりしながら、時折牽制を入れるに留め(倒し切れそうな場面がなかったとも言う)。長峰達はとにかく丘の上に陣取って全方位を監視していた。傾斜の向こうに消えたと思えば銃声が断続的に聞こえ、かと思えばこちら側へも頭出しで睨みを利かせてくる。居場所の割れていない最後の一チームは、頑として姿を見せず。
みんな随分と慎重に立ち回っているようで、そりゃあ、最後まで生き残る為には当然の事なんだけど……お陰様で生存者数は7人のまま動く事なく。わたし達はポジションの優位性を活かせないまま、タイムリミットが迫りつつあった。
「そろそろ、移動も考えないといけない」
安地収縮の時間になれば、恐らく真っ先にわたし達がこの場を追われる事になる。
部屋の中へと斜めに差し込む西日は、まるでこちらに選択を迫っているかのようだった。
「うん――」
『暗闇』の拡大が始まってしまえば、最も有利になるのは長峰達……のように思える。中央付近かつ高所で、寄ってくる他チームを待ち構えれば良いのだから。だけどもそれは逆に言うと、全員から狙われるリスクも高いという事。タイミング次第では、同時に迫ってきた複数チームを捌き切れなくなる可能性も十分あるはず。
わたし達が狙うべきはそれ、つまり別チームの動きに合わせる事――
「――では、あるんだけど……」
「真っ先に『暗闇』に追われる」という条件がそれを阻む。先に動かざるを得ないから、むしろわたし達が他チームに囮として利用されてしまう事すらあり得るし。
「何にせよ、当初の予定地点まで進むとして。本当にギリギリまで待つか、今の段階で動いておくか」
安地収縮ギリギリまで待っていれば、ワンチャン他のチームが焦って先に動いてくれるかもしれない。でもそうならなかった場合、わたし達は『暗闇』を背後に背負って進む形になる。一瞬たりとも後退できない状況では、敵の攻撃から逃れるのは難しいだろう。はたして遮蔽の裏まで持つかどうか。
対して、今の段階で動いてしまえば、そういった安地との板挟み状態は避けられる。けれどもそうすれば、最優先でマークされてしまうのは想像に難くない。正直に言って、とても怖い。長峰は好かないし、勝ちたいと思ってはいるけれど。でも結局、最初の日に植え付けられたトラウマ自体はまだ残ってるんだから。
……だけど。
恐怖はわたしの足を止めるに至らない。
それを今一度、自分に言い聞かせる。ここまで来たのと同じように、その恐怖を原動力に。なにより、生き残る為の行動こそ、ハウンドを悲しませない道に繋がっていると信じてるから。
「……先に動こう」
「……『暗闇』に追われるリスクを回避する……だけじゃ、無いよね?」
「うん」
そして当然ながら、彼女はハウンド・ドッグとしてわたしの考えを分かっている。
「先に、他のチームにわたし達を利用させて。その後で、わたし達が利用し返す」
ようはわたし達が遮蔽物まで辿り着けさえすれば、今度は逆に、遅れて動いた他チームの方が狙われる形になるんだから。その隙を更に、わたし達が利用する。別に高度でも何でもない、[DAY WALK]でもよく見られる作戦ではあるけど。今まで以上に明確に命を張る分、覚悟が必要だっただけ。
「……うん、分かった」
こちらを射抜く瞳は、やっぱり少し揺れ動いていた。昨夜吐露した恐怖はきっと吐き出したそばからまた湧き上がってきていて。どうしたって危険と隣り合わせなこの状況そのものが、彼女の心に圧し掛かっているのかもしれないけど。
でも、彼女はわたしから生まれたから。
わたしが恐怖を力に変えられて、彼女にそれができない道理はない。これまでだって、きっとそうだったはずだから。
「――と、いうわけで。今回もお世話になりますよ?」
バックパックを軽く叩きながら。目の前の彼女と、それから、中に入ってる投擲物に声をかける。
わたしとハウンド合わせて、グレとモクが二つずつにスタグレが一つ。これらを効果的に使えば、ひとまずの遮蔽物――草原の只中に鎮座する大岩まで、辿り着く事ができるはずだ。
またモクかよ、なんて苦情は受け付けない。
だって結局のところ、投げ物が最強なのだ。
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