昼 バイズガインの街 14


 三日振りに見た長峰は、あの日わたしに銃を突きつけた時と変わらず、粗野な印象を受ける立ち振る舞いだった。

 銃を構え、スコープ越しに他チームを探しているみたいだけど……どうやらまだこちらには気付いていないようなので、その間に少し観察させてもらう。

 正直撃とうかとも思ったけど、向こうも「遮蔽に使ってください!」と言わんばかりの太い木のそばにいるし、流石に倒し切るのは難しいと思う。で、だったら私が戦端を開くのはあまり望ましくない。


「うーん……」


 構えているアレは……M16A2かな?全身真っ黒なアサルトライフルで、一度のトリガーで三発撃ち出す三点バーストの銃。

 100%偏見で言わせて貰うけど、バースト銃使う奴は変態って呼ばれて喜ぶタイプの気取りか、正真正銘本物のド変態のどっちかだと思ってる。だって使い辛過ぎない、アレ?確かに瞬間火力は高いけどさ……


「珍しく辛辣」


 情報共有がてらちょっと愚痴ってみたら、ハウンドが思わずといった様子でくすりと笑った。まあ、相手が長峰だから強く言ってるっていうのはあるけど。


 で、えーっと……背負ってるもう一丁は……ショットガンっぽいシルエットだとは思うんだけど。何だろう?少なくともサイガではないはず。まあ武器構成としては、中距離スコープを付けたアサルトで牽制や中距離戦、ショットガンで近距離戦っていう分かりやすい形。アレで案外安定感のあるチョイスなのは、[DAY WALK]の時と変わってないらしい。


 そして何ともご丁寧な事に、S1の方も全く同じ武器構成だ。


 S1は……SNS上で度々見かけたし、数回だけど直接マッチングした事もあるから、見た目で言えば長峰本人よりも断然覚えがある。アイツ、暴言とかバッドマナーでちょいちょい炎上してたし。良くも悪くも有名人、多分知名度だけなら、SNS活動とか一切してなかったわたしなんかより全然上。まあわたしは、そんな暇あったらハウンドの妄想に時間を費やすタイプだから。


「――おっと」


 S1の銃口がこちらに向きつつあったので、一旦顔を引っ込める。そのうちバレるとは思うけど、できればそれまでに他のチームも見つけておきたい。

 ……しかしこうしてみると、あの二人は見た目が結構似ているというか。髪色の他には、長峰が痩せぎす、S1が細マッチョっていう違いくらいで、並んでいると兄弟のようにも見える。S1が兄の方で。

 まあそういう、キャラクターの外見がプレイヤーに準じてるパターンは何度か見てきたし、今更珍しくもない。


「長峰の銃の構え方とかも、初日よりは断然良くなってる……ように見えた」


 自分と比較してどうか、とかは言い辛いけど。体は適応してきてるとはいえ、わたし自身はまだまだぺーぺーなわけだし。


「まあ最終日ともなれば流石に、それなりにはなるか……」


 ハウンドとS1が拮抗している以上、万が一真正面からの直接対決なんて事になれば、わたしと長峰の実力の程度が勝敗を分かつ可能性も出てきてしまう。しかも武器構成の都合上、近距離戦はわたしの方が圧倒的に不利。

 となればなおの事、今の距離感を維持したい気持ちもある。でもそれだとハウンドの強みが全部死んじゃうし……


「……まあ、別チームの場所も特定してから、かなぁ」


 全体を把握しない事には何ともならない。改めて自分にそう言い聞かせ、再び顔を出すタイミングを見計らう。ハウンドも一つ頷きながら、周囲に誰か近寄ってきていないか、目耳を研ぎ澄ませて警戒している。これで万が一にも家に忍び込まれてたりしたら洒落にならないからね。昨日の二の鉄は踏むまいとしてか、彼女も気合が入っているようだった。


「ちょっと左の、麦畑の方見てみるね」


「了解、気を付けて」


 しゃがんで窓の下を通り、窓枠の左側から右側へと移動する。ここからなら顔を出さずとも、ある程度は左側の様子を窺う事ができるはず。ちょっと見辛いけども、小屋やその周囲の柵――人が居そうなところを見るには十分だ。


 ……ちなみに、この辺の風土や気候で麦が育つのかは分からない。どうせ「アンブッシュ向けのエリアも作っとくかー」とか、そんな理由で生えてるんだと思う。[DAY WALK]内の自然なんて大体全部そんなもので、その辺の岩から植物の一つ一つまでもが、戦場を形作る為に用意されてるんだから。


「外には……」


 小屋ごと麦畑を囲う木の柵は、多分わたしの腰くらいまでしかない。しかも木の板を横三列で支柱に張っ付けてるだけだから、割と隙間も多い。背景の麦の群れと相まって視覚的には身を隠せるだろうけど、バレたらスナで抜かれそうな心許なさ。

 目を皿にして都市迷彩服の灰色っぽい柄を探してみるけど……少なくとも私には、視界の内に人影は見つけられなかった。他のコスチュームだったらモノによっては背景と同化して見逃しちゃう可能性もあったから、今更ながら謎の初期衣装縛りで良かったのかもしれない。


「いると思うんだけどなぁ……」


 外には誰もいなそうだけど、でもどうも私には、あの辺りに一チーム潜んでると思えてならない。だってあそこ以外だとセーフティスポットはもう、丘の向こうの風車の群れにしかないわけで。恐らく長峰達はそっちから来てるだろうし、その一スポットに三チーム全員が集まっていたとは考えにくい。わたし達が街から追っ払った人達の生き残りが流れ着いている可能性は高いと思う。


「……うーん……」


「確かに私も、向こうに誰かしらいるんじゃないかとは思うけど……」


 ハウンドも同意してくれているその予想を確信に変えたくて、小屋の小さな窓と睨めっこしてみたり、ドアノブが回らないか見張ってみたり。だけど、しばらくスコープを覗き込んでいても何の情報も得る事はできず。んあぁ気になる。疑いは晴れない。だけどあっちに気を取られ過ぎて、長峰達の動向をチェックし損ねるのも良くない。

 なので後ろ髪を引かれながらも、再び丘の上が見える位置に移動する。いや、普通に交互に監視すればいいじゃんって話なんだけど……こういうのって、自分が目を離した隙に相手が何かしてるんじゃないかって疑心暗鬼に駆られちゃうんだよねぇ……


 ゲームと同じ思考だけど、その重みはゲームよりもずっと上。だからこそ、一つ一つの決断が難しい。

 なんて思えるようになってきたのも、ある種の慣れなのかもしれないけど。

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