第9話 弟子で師匠で、師弟関係な変人ども

 「すみません!ここにさいきょうのひといるってきいたんだけど!」

部室でのんびり過ごしているとがらっとドアが開く。

視線を向けると、そこには湊と同じくらいの身長の男の子が立っていた。

こ、高校生では、ないよね…?

「おう!なんのご用かな?借りたい本があるなら好きなだけ見ていくといいよ!」

湊が男の子を笑顔で迎え入れる。

すると男の子は無邪気な笑顔で湊を指さす。

そして悪気なく口を開く。

「おにいちゃん、ちびだね。さいきょうじゃなさそう!」

湊の口が開いたまま塞がらない。

湊の唯一のコンプレックスを笑顔でずばっと言った男の子はぱたぱたと私の方に駆けてくる。

ま、待って、君は可愛いけど私が1番最強からは程遠い人物のはずだよ?

「おねえちゃん、つかれてるね!いいこいいこしてあげる!!」

そう言って男の子は私の頭を小さな手で撫でる。

な、何この子!

天使ですか!?

「ちびっ子だからってずるい!ていうか、最強を見つけるんじゃなかったのか!?」

そんな癒しの時間に浸っていると、隣からそんな悠真くんの声が聞こえてくる。

ず、ずるい…?

悠真くんも撫でてもらいたかったのかな…?

「おにいちゃん、ちゃらお!おんなのこなかせるんでしょ?」

こんな純粋無垢な子から、チャラ男なんていう単語から出てくるとは…。

悠真くんも想定外だったのか男の子を指さしながら口をパクパクさせている。

どこからそんな情報知ったんだ…。

「なんだ、小僧かぁ?ほら、食うか?」

声に反応して台所もどきからやってきた神楽先輩が男の子にカップとスプーンを手渡す。

カップの中身は黄色がかったプリンだった。

これはまた子どもにぴったりのメニューだ。

「おいしい!!でも、さいきょうのひとおりょうりつくったりしないよ?」

プリンを頬張った男の子はその味の良さに目を輝かせたけれどすぐに自分の目的を思い出したのか、首を傾げた。

その最強の人って誰なんだろう…?

うちの部、全員特殊な最強な感じするけれど。

「最強?そりゃそうだ、俺は最強なんかじゃないぞ

?」

神楽先輩は男の子の問いに微笑みながら答える。

そして、男の子の頭にぽんと手を置くと立ち上がった。

そんな見た目で子供にも優しいんですね…。

今は金にも近い茶髪が爽やかな黒髪に見えたよ…。

「そこのひとは?」

今度は男の子は、蓮くんに駆け寄った。

すると、蓮くんは子供相手にも関わらず肩を波打たせて、体を小さくする。

明らかに最強な感じじゃないよね…。

「ぼ、ボクなんか最強なんてありえないです…!ボクなんか下の下の下ですし…」

蓮くんは男の子に向かって自虐を吐きながら、指をスマホに向けて動かす。

またツイートしてるよ…。

もう、勝手にしなさい…!

「おにいちゃん、なんかよわそう」

男の子はガッカリしたように蓮くんから離れた。

蓮くんはその背中を見つめながら指の動きを早くする。

ああ、こりゃ炎上モードだね…。

「どうせ子供にも言われるくらいの弱さですよ!無能さですよ!!だからって、みんな何かしら理由があるのに僕だけ理由もなく『なんか』…。」

相当男の子の言葉がショックだったらしい。

そういうところが弱そうに見える原因なんじゃないかな。

とは、さすがに今の状態の蓮くんに伝える勇気はなかった。

「メガネの人は?」

そう言って男の子は大和を指さす。

大和も動揺したようにメガネをクイッとあげる。

そして男の子から視線を外した。

「ご、ごごごごめんだけど、最強ではないかなっ」

おいおい、ちびっこ相手に陰キャ発動するなよ…。

情けない…。

とてもじゃないけど葵ちゃんには見せられないよ…。

「ふーん、どもってるね!」

どもる…!?

いや、意味的にはバッチリ合ってるけど…。

なんか君の口から聞きたくなかったのは私だけかな…。

「おにいちゃんは?」

男の子がテーブルに頬杖をつく一見優しそうな男子に近づく。

あ、その人はやめておいた方が…!

止めようとしたけれど1歩間に合わず、男の子は皇会長を見上げる。

「俺は確かに最強だけどお前みたいなちびに教えてやれることはねえよ」

思ったより言葉遣い優しくて安心した…。

うん、皇会長からは何も学ばない方がいいよ…。

君のその純粋さを保つためにも。

「そっかぁ、ほんとはなんにもできないんだねぇ」

男の子の言葉に全員がぎょっとする。

その発言はその幼さと可愛さがなかったら一瞬で殺されるやつ…。

ていうか、今も皇会長の顔がひきつっているのがわかる…。

「え、えーと、僕はお名前なんていうのかな?」

私は皇会長がキレてしまう前にと、男の子に声をかける。

すると男の子はなんの悪気もない様子で笑顔を咲かせた。

そして、大きく口を開く。

「くじょう はやて!」

うん、元気いっぱい。

私にとっては天使みたいだけど…。

他の部員は結構ダメージ受けてるなぁ。

「はやてくん、今日はどうしてここに来たの?」

早く帰したほうが良さそうだなぁと思いながら、はやてくんから目的を聞き出す。

はやてくんは、首をかしげながら私の目を見つめる。

その目線に私の心は射抜かれる。

「さいきょうのひとをさがしにきたの!ぼく、それで…」

本当の目的はその言いよどんだ言葉の先にあるような気がしたけど、はやてくんはそれきり口をつぐんでしまった。

言いづらいことなのかな…?

無理やり聞き出すのも良くないよね。

「最強の人って誰からか聞いてきたの?」

私の問いにうつむいてしまっていたはやてくんが目線をあげる。

そして静かに頷いた。

そして小さな声で呟いた。

「くらすのじょしがいってたんだ。このがっこうにつよいひとがいるって!ぼく、つよくなりたいの」

小学校まで広がってるのか…。

今どきの小学生のネットワークってすごいのね…。

でも誰についての噂なんだろう…?

「その強い人ってどんな人だかわかる?」

私が問いかけると、はやてくんは考え込む。

これで特徴が出てこなかったら困るなぁ。

と思っているとはやてくんは何かを思いついたらしくぱちんと手を叩いた。

「ちいさいひとっていってた!!」

はやてくんの一言に部員がみんな目を見合わせる。

この特徴に当てはまる人は…。

一人しかいない!!

「湊だね」

「湊だよね」

「湊だな」

「湊でしかないだろ」

「湊センパイっすね」

「西園寺先輩(兄)ですね…」

みんなの意見が一致する。

そして1人だけ声を発していない張本人にみんなの視線が集まった。

けれど、湊自身はなんだか不満そう。

「みんなしてチビチビって…。泣きそう…!」

そう、なんにも考えていなさそうな能天気馬鹿な湊だけど身長はコンプレックスらしい。

不満そうな顔で、みんなを見返す。

あちゃあ、癇に障っちゃったかな…?

「だめ、ですか?ぼく、つよくなれない?」

はやてくんが泣きそうな顔で湊を見上げる。

普段なかなか見上げられることの無い湊は上目遣いに息を詰まらせる。

そして諦めたように息を吐いた。

「わかった、でも一緒にいるだけだよ?」

湊の言葉にはやてくんは嬉しそうに頷く。

えと、これは湊が師匠で、はやてくんが弟子…?

湊に師匠って似合わないなー…。


「では、はやて!文芸部の仕事をレクチャーしてあげる!」

そう言って、湊が腕を振り上げる。

あんなに渋ってたのに案外ノリノリだなぁ。

まあ、こんだけ頼られたらやる気出ちゃうよね。

「はい!」

湊に続いてひょこひょことはやてくんが歩く。

ファイルが置かれている机に2人で座って、何やら仕事内容を教えているみたいだ。

湊に教えられるのか…?

「ここには本を借りに来る人がいっぱい来るんだよ!で、俺たちはその貸し出しをする。ここに借りた人の名前と本の名前と、日付を書くの!」

あ、ちゃんと教えてる…。

はやてくんもキラキラした表情で聞いている。

どうやらいい感じ…?

「あとはなにするの?」

はやてくんが首を傾げて湊を見つめる。

そうだよね、はやてくんは強くなりたいんだもんね。

文芸部の仕事が知りたかったわけじゃないだろうし。

「あとは待つ!」

湊は椅子にどかっと座り、次の説明にワクワクした表情をしていたはやてくんに言い放つ。

はやてくんの表情が曇っていく。

あ、やばいかも…。

「…」

さっきまであんなに笑顔だったはやてくんが俯いてしまった。

大きな声で返事もしていたのに一言も発しない。

やっぱり期待してたのと全然違ったんだね…。

「ぼく、つよくなりたいんだ!おにいちゃん、つよくなるほうほうおしえてよ!」

はやてくんが湊の腕を掴んで揺り動かす。

本当に強くなりたいんだな。

なんでだかは教えて貰えなかったけど…。

「それは、ボクシングってこと…?もしそうなら無理だよ」

湊はゆっくりと首を振った。

はやてくんの顔が絶望に染まる。

部室の雰囲気もしんと静まってしまった。

「なんで!?どうして!?つよく、なりたいのに…!」

はやてくんの目に涙が浮かぶ。

今にも溢れだしそうだけれど悔しいのか必死に堪えている。

それを思うとなんとも可哀想に見えた。

「俺もプロなわけじゃないし、はやてもやったことないでしょ?そんな危険なことできないよ」

湊も本意ではないらしく眉をハの字に曲げている。

はやてくんのことを思って言ってるんだよね…。

それでもはやてくんの気持ちは変わらないらしく小さな手で拳を握りしめている。

「ほ、ほーら、オレのキラキラフォトコレクションをはやてに特別に…」

「チョコ食べるか?ビターからホワイトまでいろいろあるぞ?」

「ほ、本を読むと心が落ち着くよ…?」

「ぼ、ボクの炎上したツイート…よ、読みますか…?」

「オレの世渡り術、特別にレクチャーしてやろうか?」

みんなの必死の慰めも効果はないらしく、はやてくんは無言のままだった。

せめてどうして強くなりたいのかだけでも知りたいな…。

そうすれば、解決策も一緒に見つけられるかもしれないのに。

「もういいよ!ぼくは、つよくなりたいだけなんだ!」

そう言ってはやてくんは部室を走り去ってしまった。

小学生がわざわざ高校にまで入って叶えたかった強くなりたいという夢。

私たちは叶えてあげることができなかった。

「はやて…」

そして、部員の誰よりも湊が切なそうな顔をしている。

実際に湊に逢いに来たんだもんね。

願いを叶えてあげられなかったのは湊も辛いみたいだ。

「やる気はあるっすか?湊センパイ」

落ち込んだ部室の空気を変えるように悠真くんが声を発した。

その口角は不敵に上がっている。

な、なんのやる気…?

「うん!あるよ!はやてのためなら!」

湊はやる気を示すように拳を握ってみせる。

湊の場合は、拳を作ると殴りそうで怖いな…。

なんてことは置いておいて、何をするつもり…?

「じゃあ、決まりだな。となったら、準備だ!」

準備…?

みんな何を決行しようとしてるの?

全くなんの計画もないから…!

「な、何が始まるんですか?」

台所もどきに行こうとする神楽先輩を引き止める。

すると、神楽先輩はエプロンをつけながら答えてくれた。

相変わらず、手馴れてるなぁ。

「俺は作戦を遂行するみんなのためにサンドイッチでも作ろうと思ってる」

いや、何作るのか聞いてる訳ではなく!

みんなの計画の内容を聞いてるんですけど!

すると大和が湊をどこかへ連れていこうとする。

「どこ行くの?」

私が尋ねると、決意の面持ちの湊と、若干得意げな大和が振り返った。

何かしらやるにしても、部室じゃ出来ないのかな…?

わざわざ別室に行く意味とは?

「さすがに小学校は高校の制服じゃ入れないでしょ」

大和はそう言い残して、湊を連れて出ていってしまった。

小学校は入れない…?

え、小学校に入るの…?

「ボクには役目なんてありません。そうですよね、こうしていつも通り陰キャらしく炎上してろってことですよね。陰キャの肩身狭くないですか………」

蓮くんは何もやることがないんだね…。

だからってすぐにツイートしない!

これはまた大きめの炎上の予感…。

「ここの近くの小学校は城波小学校だな。そこしかない」

皇会長がスマホを見つめながら言う。

さっきから何してるんだろう、とは思っていたけれどそれを調べてたんだ…。

って、やっぱり入るの!?

「お待たせしました!」

私がうっすらとわかってきた計画の内容に驚いていると、部室のドアが開く。

そこには湊を手伝いに行った悠真くんと大和の姿がある。

あれ、湊は…?

「こ、このカッコじゃなきゃダメなの?」

湊の声が聞こえてきたけれどどこにいるのか分からない。

私はキョロキョロと周りを見渡した。

すると、湊と同じくらいの身長の女の子がいた。

「ぼくは、そこまでする必要ないって言ったんだけどね」

大和が苦笑いでその女の子を見つめる。

え、えっと…どなた様…?

私がぽかんと首を傾げると女の子が1歩前に出た。

「杏?俺だよ?」

女の子が聞き馴染みのある声で問いかけてくる。

え、今の聞き間違い…?

聞き間違いだって言ってほしいんだけど…?

「み、湊…?」

私の恐る恐るの問いに、できれば否定してほしい問いに彼女、いや彼はあっけなく頷いた。

うわぁ、ついに変人が女装してしまった。

変人に拍車かかった…。

「俺以外、いないでしょ」

湊は私の衝撃の顔にあっけらかんとした顔で言う。

いやだぁ、!!

私は頭を抱えたくなるような衝動に駆られる。

「で、なんで?」

私が問うと、湊は首を傾げる。

自分がどんな格好してるのかわかっててその冷静な反応してます!?

私には、人生で一番、目を覆いたい瞬間に遭遇していると思ってるんだけど…!?

「僕は、湊が小学生に見えるようにしたかっただけなんだけど、天王寺くんがエスカレートしていって…」

説明してくれている大和も隣の兄を見て苦笑いしている。

犯人は、悠真くんか…。

うん、やりかねない。

「可愛いっすよね〜」

悠真くんがからかうように湊を見る。

まぁ、この身長とこの顔立ちは女子に見えなくはないけど…。

ていうか、最初、ほんとに女子だと思ってたけど…。

少し巻き気味の柔らかい茶髪と赤いワンピースが似合ってる…。

正直、女子でいるのが不安になってくるクオリティだ。

「まぁ、とりあえず!!いざ、小学校!!!」

湊はやる気をみなぎらせて、腕を突き上げる。

うん、いつもだったら頼りにしてるんだけどね…?

その格好で言われてもね…?


翌日、不安になりながらもみんなで湊のあとをついて行く。

その姿は昨日と同じく女装姿。

どこから持ってきたのか悠真くんが背負わせたランドセルのおかげで後ろ姿はもう小学生女子そのもの。

って、私たち傍から見たら小学生女子の背中を追いかける不審者なんじゃ…。

そう思ったけれど、この人たちといる限り細かいことを気にしている暇はないのだと自分に言い聞かせる。

道なりに歩いて、角を曲がるとそこには小学校があった。

今、3時くらいだから小学生はちょうど放課かな…?

私たちは角の手前で止まって湊の動向を覗き見することにした。

すると歩いてくる見覚えのある小さい姿。

あれは―。

「はや…」

湊が声をかけようとして止まる。

はやてくんの隣を歩いていたのはお下げ髪が可愛い女の子がいた。

2人はとても楽しそうに会話に花を咲かせている。

「やーい!のどかとはやて、きょうもふたりであるいてやがるー!」

「ひゅーひゅー、アツいね〜」

「ラブラブだねぇ」

そんな微笑ましい2人を眺めていると通りかかった3人の男子がからかうように2人に声をかけて行った。

のどか、と呼ばれたはやてくんの隣にいる女の子は顔を真っ赤にして俯いてしまった。

そんなのどかちゃんの様子に気づいたはやてくんは怒り顔。

「やめろよ!ぼくとのどかはそんなんじゃないっていってるだろ!?」

そして男の子たちの怒鳴りつけた。

もしかして、はやてくんが強くなりたいのってのどかちゃんを守るため…?

いつもからかわれているのどかちゃんがこれ以上いやな思いをしないように…。

「うわー、はやてがおこったー!」

「こっわーい!!」

「どなるなよ〜」

でも3人は気にも止めていないという様子で肩をわざとらしくすくめている。

はやてくんの隣にいるのどかちゃんの肩が小刻みに震える。

そしてのどかちゃんが口を開いた。

「わたし、かえる!だから、はやてくんももうおこらなくていいよ」

最後にはやてくんに微笑みながらのどかちゃんは走り去ってしまった。

好きな子にあんな顔されたら確かに辛いかも。

だからあんなに必死に強くなろうとしてたんだ…。

のどかちゃんにあんな顔させたくなかったから。

のどかちゃんのあんな顔を見たくなかったから。

「はやて!来て!!」

未だに3人組の男の子に囲まれているはやてくんを湊が呼ぶ。

声をかけられたはやてくんは不思議そうに顔をあげた。

声の主である湊の姿を見ても首を傾げている。

「誰…?」

そうですよね…。

今は小学生の女の子にしか見えないもんね。

ランドセル背負ってるし。

「はやてくん、私!」

私ははやてくんに気づいて貰うために角から出て声をあげた。

するとはやてくんは驚きに目を丸くする。

やっぱり可愛いなぁ。

「お姉ちゃん!?…てことは…」

先程の声の主の正体に気づいたらしいはやてくんの腕を湊が掴む。

そして3人組から引き剥がす。

私たちのいた角にはやてくんを連れてきた。

「はやてがうわきしてるー!」

「のどかにいってやろー」

「つうほうだつうほうだー!」

う、浮気って…。

今どきの小学生ってほんとにませてるのね…。

はやてくんの言動を見て思ってたけどはやてくんが特別な訳では無いみたいだ。

「はやて、気にしないで!」

3人組の声に気を取られているはやてくんの肩をつかみながら湊が諭すように言う。

はやてくんは湊に真っ直ぐな視線を送った。

そして地面に視線を向ける。

「また…、のどかちゃんをまもれなかった…」

やっぱりのどかちゃんを守りたいんだね。

この小さい体にどれほど強い思いが詰まっているのか私たちは知らないのかもしれない。

落ち込んでいるはやてくんの背中を叩く大きな手。

「そののどかちゃんって子はよ、本当にお前に守って欲しいのか?」

神楽先輩がはやてくんに問いかける。

はやてくんは不安に瞳を揺らしながら首を傾げる。

すると蓮くんが後ろから顔を出す。

「ぼ、ボクには、はやてくんと一緒にいたいってただそう思ってるように見えました…」

おどおどしながらもちゃんと発言する蓮くん。

たまにはいいこと言うね!

そういうことをツイートした方が好感度上がるよ?

「はやて、本当にのどかちゃんを好きなら、守りたいなら今すぐ追いかけなきゃ!まだ、間に合うよ」

湊がはやてくんの背中を押す。

するとはやてくんは力強く頷いた。

そしてのどかちゃんが去っていった方向へ走り出す。

私達も目を見合わせて確かめ合うとはやてくんを追いかけることにした。

すると100mほど進んだところにのどかちゃんとはやてくんの姿が見えた。

「のどかちゃん、さっきはごめんね」

はやてくんがのどかちゃんに謝る。

その瞳は真剣で、真剣だからこそ不安そうに揺れている。

はやてくん、本気だ…。

「ううん、はやてくんがあやまることじゃないよ」

のどかちゃんが首を振る。

その顔は優しく微笑まれていた。

のどかちゃんだってはやてくんに負けないくらいはやてくんが大切なんだね。

「そのぼく、よわくてきょうみたいにのどかちゃんのことまもれないこともあるかもしれない。でも、ぼく、のどかちゃんといっしょにいたいんだ。その、あの…のどかちゃんのこと、好きだから…」

全て言い終えたはやてくんは恥ずかしそうに顔を赤らめた。

よし、言えた!!

よくやったね、はやてくん!

「いっしょに、いてもいいの?」

のどかちゃんがはやてくんに問いかける。

のどかちゃんの瞳も切なそう色をしていた。

お互いに気遣いあってたんだね...。

「うん、一緒にいたい!」

はやてくんはのどかちゃんの問いに満面の笑みで答えた。

するとのどかちゃんの表情も緩んでいく。

そしてのどかちゃんは胸の内を話し始めた。

「あのね、ほんとは、はやてくんがからかわれるのいやなんじゃないかってしんぱいだったの。わたし、はやてくんにまもってほしいとかそういうんじゃなくてね、ずっといっしょにいたいなっておもってる...。わたしも、はやてくんのことだいすきだから!」

め、めっちゃいいこと言うやん...。

小学生侮れない...。

私が感動していると隣からも鼻をすする音が聞こえる。

「す、すごく...ぐすっ...いい...ずびっ...話ですね......うう...」

れ、蓮くん...。

意外と涙もろいのね...。

ずっと炎上してるからそういう人の心みたいなの持ってないのかと思ってた...。

「うん、ほんと良かったね」

私も心から笑ってそう言えた。

小学生でもちゃんと人を好きになるんだなぁ。

なんて、感動したりもしたしね。


「だからさ、おねえちゃん、のどかちゃんにあげようとおもってるんだけどかみヒコーキとハートどっちのおりがみがいいとおもう?」

のどかちゃんと、無事仲直りをしてからもはやてくんはよく文芸部に遊びに来る。

今は、私に2種類の折り紙を見せて、のどかちゃんへのプレゼントの作戦会議中だ。

ほんと、愛が伝わってくるよ...。

「んーと、たぶんのどかちゃんははやてくんから貰うものならなんでも嬉しいと思うよ?」

私が言うと、はやてくんは真剣に考え込む。

ふたつの折り紙を交互に見比べて、うんうん唸っている。

かと思えば元気に頷いた。

「うん!どっちもあげることにする!」

満面の笑みで宣言するはやてくんにこちらも笑顔になる。

うん、ほんと癒し...!

すると、部室のドアががらっと開いた。

「おつかれー!って、はやて!来てたんだね!」

やってきたのは湊だった。

湊の姿を見るや、はやてくんは嬉しそうに駆け寄っていく。

湊もすっかり懐かれたね。

「おにいちゃん!のどかちゃんはああいってくれたけどやっぱりぼく、のどかちゃんをまもりたいからけんどうはじめたんだ!いつか、おにいちゃんよりつよくなるよ!!」

はやてくんが湊に宣戦布告的なことを言った。

はやてくん、頼もしい!

すると湊は嬉しそうに頷いた。

「よし、いつか手合わせしようね!」

ボクシングと剣道の手合わせってどうやるのか分からないけど...。

強くなったはやてくんが湊を倒す姿は見たいかも。

将来が楽しみだ...!

「杏のことは俺が守るからね!」

今の会話の流れからなぜそれに繋がった...?

輝きながら言う湊に私は首を振った。

のどかちゃんの話を聞いてわかったことがある。

「私ものどかちゃんと同じ考えだよ。守って欲しいとかじゃなくてずっと一緒にいたいの」

私が言うと、湊が目をぱちくりさせる。

部室の端の椅子でスマホをいじりながらはやてくんを微笑ましく見つめていた悠真くんも顔をあげた。

ん?

「え、今のって...」

悠真くんが声をあげる。

私、何か変なこと言った!?

それならすごく嫌なんだけど!

「いや、なんでもないっす。気づいてないなら...」

そう言って悠真くんはスマホへと視線を戻した。

どうして教えてくれないのー!?

余計気になるよ!!

「杏センパイは、湊センパイとずっと一緒にいたいんすね...」

1人悶々としていた私には、悠真くんのつぶやきは聞こえなかった。






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