第12話 雨具

料金未払いから2日後、マサミは新潟に行く準備をしていた。

心は折れていたがいよいよだ。春休みを終えバイクで向かう。

今日も天気は悪い。予報では雨だ。

心細くなりまるでホームシックの様な気持ちになっていた。

母親が心配そうに見送る。

「じゃぁ行ってくる」

何事もなかったように強がった。

家から新潟のアパートまで110Km。

時間にして2時間半掛かる。

ゆっくりとスタートした。

バイク購入後まだ30km程しか走っていない。まだ真新しいエンジンの匂いがする。

400㏄のVツインエンジンで時速40~60kmでの回転数はとても心地いい。

アメリカンタイプはこれがたまらない。

しかし家を出て1時間、長岡市に入る頃体がかなりつらくなってきた。

スティードはステップが前の方にある。

身長が170もあればかなり楽な体勢で乗り続けられる。

しかし160に満たないマサミにとって脚は伸びっぱなしでフットブレーキを掛ける時はつま先を思いっきり伸ばさなければならなかった。

この体勢がずっと続く。おまけに気温は低く今にも降ってきそうだ。

見附市に入りしばらくするととうとう雨が降ってきた。

しかもみぞれ交じり。

さすがに引き返すわけにも行かず路肩にバイクを止め雨具を着た。

再びバイクに跨り発進する。

三条市を超え白根市に入る。ここまでくるともう少しだ。

工業団地を通過しているせいか時折ナイロンが解けたような匂いがする。

『この辺の住民は臭くないのかな。慣れちゃってんのかな』

そんなこと思いながらバイクを走らせる。

新潟市に入り見慣れた光景になる。気持ちにも余裕ができてきた。

雨も上がり日が差している。

『少し流して帰ろうかな』

そんな事を思い信号待ちをしていた時、またナイロンの匂いがした。

『この辺に工場はないぞ』

ふと下を見ると湯気が出ている。熱くなったエンジンに雨が当たっているからだろうと気にも留めなかった。

いやいや、雨は上がっている。

よく見ると雨具の右足の膝あたりがドロドロに溶けていたのだ!

あっさりとパニックになり慌ててバイクを降りた。

スティードのマフラーにはカバーが付いていて足が触れても簡単にヤケドしないようになっている。しかし体の小さいマサミには通用していなかったようだ。

雨具のズボンを履き、めいいっぱい足を延ばしていると雨具のズボンはパツンと張り丁度よくマフラーにあたるのだ。

急いで雨具を脱ぐ。ジーンズに溶けた雨具が張り付いている。慌てて取ろうとするがバイクを降りた時点で溶けたナイロンはすぐに冷えて固まってしまった。

これは仕方ないとあきらめるが気になるのはバイクだ。

新車が汚れてしまう。

慌ててグローブで拭う。

びにょ~ん。

グローブに張り付く。

ヤベッ!グローブが・・・

また慌ててグローブを脱ぎ素手でマフラーのナイロンを拭う。

あちっ!あっちい!!

当たり前だ。熱いに決まっている。

『何だこれ?何なんだ?バイクってこんなに大変なのか?みんなこんなに大変な思いをして乗っているのか?』


またもや折れた心でようやくアパートに着いたのだった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る