第13話 臆病者

ゴールデンウィークを2週間後に控えたある日、カズヨシ、関ぴょんとタカ、江口の4人は話していた。

「なぁ、ツーリング行かねぇか?」

「おぉ、いいねぇ」

「どこにする?」

「どこにすっかなぁ」

マサミもその場にはいたが輪に入れずにいた。

何故ならマサミは遠出が嫌いだった。

小さい頃から外食に行くだけで気持ち悪くなっていた。

極度の乗り物酔いなのだがそれは精神的な部分が大きく完全にトラウマになっていた。

幼少期のある体験が原因だったようだ。

そんな男がツーリング。しかも泊りの計画だった。

「マサミはどこがいい?」

「俺、予定あっかも」

「ん?バイト?」

マサミはもう少し時間が欲しかった。

心の準備だ。

旅行する奴の気が知れなかった。

世の中の人はみんな体調が悪なるはずなのだ。

勝手にそう思っていた。

「俺、中華食いてぇ」

「お!いいねぇ」

江口のこの一言で決まった。

行先は横浜、中華街だ。

「ゴールデンウィークの前半?後半?」

マサミの気持ちとは裏腹に話は進んでいく。

「俺、どノーマル嫌だよ、マフラー替えてから行きてぇ」

しょうもない引き延ばし作戦にかかる。

「マフラーいつくんだ?」

「5月半ば」

「待ってらんねーよ」

「マサミはツーリング初だからな、逆にノーマルの方がいいぜ」

関ぴょんは優しく気遣った。

「スティード、シートも柔らけぇし走ってて楽だぜ」

とタカが言う。

「んじゃあさ、シーシーバー取ろうぜ、これでどノーマルじゃねぇ」

カズヨシが言う。適当な発言だった。

シーシーバーとはタンデム用の背もたれの事だ。

「えっ?とんの?」

「おう!だって臆病者って意味だぜ」

「えっ?そうなの?」

どうやらsissy(女々しい、弱い者、臆病者)と発音が似ている事からそう言われるようだった。

マサミは純正はカッコ悪いがカスタムすればカッコいいと思っていた。

それに2ケツする時は安心で楽だった。

「おう、おめぇは臆病者じゃねぇよな」

カズヨシがいじり始めた。

コイツはいつもそうだ、マサミの気弱な部分をさっと見抜き楽しそうにいじってくる。

タカが言う。

「今外すか?簡単だぜ」

同じスティードに乗るタカが言う。

「タカつけてんじゃん」

「バカ、今日は女乗せんだよ。この方が女誘いやすいだろ?」

確かに誘いやすいし乗ってても怖くない。

さすが遊び人だ。考えている事が童貞野郎とは違っていた。

4人にガヤガヤ言われマサミはしぶしぶバイクを学校の前に移動する。

と、すぐにカズヨシとタカが作業に取り掛かる。

「おめぇらマサミのバイクだぜ」

関ぴょんと江口が笑いながらその光景を見ていた。

車載工具であっという間に外してしまった。

「おう!ケツ乗れ!」

カズヨシがエンジンをかけマサミに声を掛ける。

「おめぇが臆病者かどうか試してやる」

「2ケツなんか今更怖くねぇよ」

強がるマサミをニヤニヤと見つめるカズヨシ。

マサミが後ろに乗ったその時だった!

ドルルゥンン!!

カズヨシが急発進させた。

ギャッ!!

V型400の加速は大した事はない。

周りから見れば大した事のない揺れだがマサミは過剰に反応していた。

しっかりとカズヨシにしがみついていた。

「よしよし、怖くないよ」

カズヨシがおちょくるように言った。

マサミははっと我に返りカズヨシから離れシートのベルトを掴んだ。


しばらくして2人が戻った時、関ぴょんがニヤニヤしながら工具を持ちシーシーバーを取り付け始めた。

「マサミはスタイル的にこっちだな」

「だな」

江口も笑っている。


マサミは何が面白いのかわからなかった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る