第11話 吹雪(2)

訳の分からない期待に胸を膨らませていたが現実は変わらない。

このままここで待っていても不審者でしかなかった。

『ダメだ、バイク屋を呼ぼう』

再びバイクにまたがり近くの公衆電話を探した。

当時、携帯電話など夢のまた夢であった。

『あの土産屋ならあるはずだ』

外の吹雪は止む気配がない。ゆっくりと路肩を走る。

追い越していく車は同情しているのか慎重に走って行ってくれる。

目的の土産屋にたどり着くとやはり公衆電話があった。

中に入りテレフォンカードを入れる。

備え付けの電話帳で店長の店に電話を掛けた。

「もしもし、店長、昨日納車した高橋です。実は・・・」

雪で立ち往生している事を話すと店長はトラックで迎えに来てくれると言ってくれた。

ぶるぶると震えながら店長を待った。約30分ほどで店長のトラックがやって来た。

驚くほど長く感じた。

『助かった、よかった』

店長にバイクを積んでもらい助手席に乗り一度バイク屋に向かう。

湯沢町を出たとたんに青空が広がり眩しいほどの日が差してきた。

「こんなもんだよねぇ、運が悪かった」

店長と話しながら自分の運の悪さを痛感していた。

バイク屋に着きストーブで温まる。店長の母親が温かい飲み物をくれた。

しばらくして体が温まる頃マサミは立ち上がった。

「引き取りりょ」「せめて高速代だけでも」

ほとんど同時にマサミと店長は声を発した。

慌ててマサミは言い直す。

「せめて高速代だけでも」

あまりにもはっきりと言われた為店長は自分の言葉を引っ込めた。

少し間をおいて店長が言う。

「昨日、納車だったんでサービスです」

マサミは店長の真意を理解する事なく1,000円を出し言い放った。

「おつりいりません。迷惑かけたので・・・」

マサミは世の中の仕組みというもの全く分かっていなかった。

店長はそっとカウンター脇のごみ箱に紙を入れた。


引き取り料4,000円

距離料金4,000円(20Km)

高速代540円

合計8,540円


店長の気持ちなど知る由もないマサミは頭を下げ帰っていった。

「店長じゃぁまた。」

頭を下げながら店長は客商売の厳しさを痛感していた。


そしてこれがマサミの二十歳の誕生日の出来事だった。


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