第27話 区切り
葬儀の会場がお寺であるため、
両家の家族が集まり、みんなでお寺に向かった。
お寺には、消防の関係者が道の両脇に並んで待機していた。
そこを父さんを抱えた俺と、遺影を抱いている楓、位牌を持っている母さんが通ると、近藤さんの「一同…敬礼!!」の号令で一斉に敬礼していた。
凄い…正直、ビビった。
お寺には、俺の知る限りで、道場から師範と師範代、カモガワバイクの一家とスタッフ、アグスタのマスターとオーナー、長野校長、石井先生、神田先生、それに生徒会役員が来てくれていた。
モカも来てくれたんだ。
俺を見つけて小さく手を振ってくれている。
俺も黙礼で返した。だって父さん抱えてるから落としたら大変だ。別に照れていたわけではない。
学校関係は母から連絡をいれたのか?楓の学校関係の人もいるみたいだ。
他にも、近い親せきや、父・母の友人も参列していたようだ。中には号泣している人もいるが…どんな関係だったんだろ。
家族葬と聞いていたのだが…。
これだけ集まるとは、父さんが如何に慕われていたのかがわかった。
マスコミ関係者がいなかったのは救いだな。
7年経って、父さんの話題も風化してしまったのだろうな。
でも、それでいいと思った。
変に騒がれて父さんの名誉が穢されては敵わないからな。
*** ***
骨壺や位牌、遺影などをお寺の方に預け、葬儀の準備が終わるまで待っていた。
ここまでの人が集まっていることに両家の祖父母が驚いていた。
齋藤の爺ちゃんが、祖母ちゃんに
「いや、驚いたな。こんなに集まるとは思わなかったな。坊さんに悪いことしちまった。お堂の準備大変じゃないのか?」
その言葉に婆ちゃんは
「それだけ一郎が慕われていたということでしょう。良かったじゃないですか。別れを惜しんでくれる方が多い方があの子も喜びますよ。にぎやかなのが好きな子でしたからね。」
婆ちゃんの目からは涙が流れていた。
「まだ、これからだぞ雅子。俺の涙は向こうで流しすぎた。もう枯れたな。」
「源治さん、涙こぼれてますよ。一郎を連れて帰れてよかったですね。」
「あぁ、本当だな…。本当に良かった。う”ぅ”」
爺ちゃんと婆ちゃんが泣き出してしまったので、昔の呼称で二人を呼ぶ。
「ジジ・ババ、お堂に行こう。父さんも待っていると思うよ。」
楓もやってきて
「ジジ、私が連れて行ってあげるね。ババはお兄が一緒に行ってくれるって。」
「あらあら、泣いちゃったわね…。ありがとう、もう大丈夫よ。心配かけてしまったわね。」
「情けないところを見られたな。二人ともありがとう、心配するな!俺たちは大丈夫だ。」
俺なんて何度も情けないところを見られている、だからこそ言えることもある。
「ジジ、俺は情けない涙なんてないと思うよ。悲しい涙よりも、嬉しい涙の方がいいでしょ?父さんのためにこれだけの人が来てくれるとは正直思ってなかったから、俺もさ、さっきうれしくて涙が出ちまったよ。でも、涙こぼすなら父さんの前の方がいいのでは?」
「ふっ、ハハハハハ…。言うようになったじゃねぇか。萌、お前の言う通りかもな。俺も婆さんも単純に悲しいだけじゃなくてな、嬉しくてよ…。一郎のことを7年という長い時間が経っても忘れずにこれだけの人が待っていてくれたんだからよ。もちろんお前らの気持ちも嬉しいぞ。」
ババにも聞こえていたらしく
「そうですね。萌の言う通りですね。いつまでも幼子ではないのですね…。私の場合は爺様の言葉に加えて、貴方たちを大切に思ってくれている人たちがここにきていることも嬉しいですね。萌・楓、あなたたちも幸せですね。」
この言葉に楓は、
「そうだね、私は大好きな人に囲まれていて幸せだと思うよ。お兄とも仲直りできたし!父さんにも会えたしね…。」
ヤバっ!父さんの話は!
「楓、父さんの話は…」
「なんだ?二人の所にもあいつは化けて出たのか?」
「そうなんですね?不思議なこともあるものです。」
父さん、教えておいてよ…。
「え?二人の所にも来たの?」
楓も、ジジババに、
「私たちだけじゃなかったんだね?父さん何も言ってなかったから…。」
「あいつを見つける切っ掛けだったからな。あいつ、自分で大凡の居場所を教えやがったんだ。いつまで待たせるんだって、文句言ってやがったからな!でも、礼も言っていたよ。ありがとうってよ。」
「そうですね。あの子らしいといえばそれまでですが、もう少し再会の感動がほしったですね。
でも嬉しかったですよ。別れのあいさつではなく、再会の喜びとお礼でしたからね。文句も言っていましたが…。
やっぱりあなたたちの所にも行っていたんですね、本当に良かった…。私たちの所だけだったら申し訳なくて…。」
あぁ、そういうことだったのか。なんとなく察した。
「大丈夫だよ、俺たちも父さんにはしっかり説教されて、やっと前向きになれたんだ。バラバラだった家族も元に戻り始めてるんだから。」
「うん。お兄の言う通り!父さんは偉大だぁ!」
え?偉大かといわれると…
「いや、そこまでは言ってないからな…。まぁ、すごいヒトだとは思うけど。」
ジジも
「そうだな、偉大は言い過ぎだな。立派だったとは思うが…。」
ババも
「そうですね。偉大であればこんなドジは踏まないでしょうから。立派だったとは思いますが。」
楓も
「それもそっか…。ドジっ子父さんだね。でも、最高にかっこいい父さんだよ!」
それについては、俺も
「カッコいいというところは、俺も賛成だ!何しろ、俺の目標だからな。」
(ドジな部分は真似たくないけど)
傍にいた、鈴木の祖父母は俺たちの話を黙って聞いていてくれた。
なんだか嬉しそうだった。
準備ができたらしく、母さんが迎えに来た。
「来賓も方たちも中に入って貰うから、みんなもそろそろお堂に向かってね。」
「ありがとう。母さん、みんなを待たせたら悪いから、ジジ・ババ行こうか?爺ちゃん・婆ちゃんも行こう!楓もだぞ。」
家族みんなが揃ってお堂に向かった。
※ ※ ※
結局、会場であるお堂には入りきらず、消防の方はほとんどの人が外で待機していた。もはや家族葬ではないな。
喪主は母さんが務めた。
お坊さんがお経を読み始めてしばらく経ち、お焼香をみんなにお願いした。
涙を流しながら、お焼香する人もいた。
生徒会のみんなも、先生方も俺の方を見て目礼してくれた。
久美とモカも泣いてくれていたな。
ありがたいな、父さん…。
葬儀は7回忌法要まで、恙なく行われた。
(普通はここまで一気にはやらないそうだ。今回は特例と言っていた。お坊さん談。)
儀も終わり、消防の面々は父さんの写真に向かって話しかけたり、泣いたり、ヤバいことになっていた。父さんも苦笑いしてそうだな…。
急遽、別会場で通夜振舞い(食事会)の席を設けることになったのだが、急すぎて場所がなかったので、アグスタのマスターに相談し、貸し切りにしてもらい行うことになった。
今日来てくれていてよかった。お店は葬儀参列のために臨時休みにしてあったそうだ。
参列してくれた方々にアグスタの場所を教えて、参加できる方は各々で来てもらうことになった。
ほぼ全員が参加ということになったが
俺、モカと久美、怜雄も含め会場設営に向かった。
母さんと楓も手伝ってくれると言っていた。今日になってようやくオーナーとマスターが高校時代の友人だと思いだしたそうだ。
線の細いイケメンツインズとして、認識していたので今の姿では分からなかったと。
閑話休題
会場入りした俺とオーナーと嫁の勇子さんの3人は、大急ぎでオードブルメニューを作っていく。材料は、とりあえず店の物を使い、足りないものは近くの業務スーパーで購入することにした。怜雄もカトラリーやら食器やらを用意したり、買い出しに行ったりと大忙しだ。
ホールもマスターと嫁の美和さん、萌香と久美、そして母さんと楓が大急ぎで立食形式の会場を作っていった。
時間までに何とか間に合った…。
献杯の音頭を齋藤のジジが執る。
「みんな一郎の為に集まってくれてありがとう。もちろんこの中には、孫や嫁の辰美の為に集まってくれた者も居るだろう。その方々もありがとう、心から感謝申し上げます。今日は、一郎のことを思い出して大いに語り合ってほしい。一郎を知らないも方も、どういう男だったか知って帰ってくれたら嬉しい、では献杯!!」
「「「「「「「「「「献杯!!!!!!!」」」」」」」」」」
みんな、話しながらも結構食べるし、飲んでいたので、足りなくなったら作り、萌香たちに出してもらうを繰り返していた。
暇ができれば俺たちも会場に出て会話に加わった。
それの繰り返しだったが、いい時間となりお開きとなった。
さすがに酔いつぶれたりする人はいなかったが、沖田さんをはじめ当時の隊の方と思われる人たちは、語りありながら抱き合って泣いていた。……少し怖かった。
片付けもほぼ終わった頃、大人たちは料金の相談をしていた。友人価格ということになるらしい。なんなんだそれ?
萌香と怜雄はお小遣いという形でバイト代を払うジジ、ババが出してくれると言っていた。
ちなみに俺は辞退した。父さんのことだしな。
俺は、萌香と一緒に帰ることにした。家まで母さんが車で送ってくれることになり、家からはバイクでマンションまで送ることにしたのだ。
ババたちは二人ともお酒を呑んでいないので車の運転も問題ないと言っていた。
今夜も鈴木の家に帰るらしい。本当に仲がいいな。
楓は、「私もお兄の後ろに乗ってみたいなぁ。」とずっと言っていたので近いうちにツーリングに連れて行く約束をした。
さすがに疲れていた俺とモカは家についてから、俺の自室で少し休んでいた。
彼女は俺の部屋に入るのは初めてだったので緊張していたようだ。
今日はアグスタの制服のパンツを借りてきていたので、着替えは問題なかった。
母さんは気を利かせてくれたのか、楓を連れて実家に着替えに戻った。
二人してベッドに座っていると、萌香が俺にもたれかかってきた。
不意な行動にドキリとする。俺が萌香を見つめると、萌香も目線を合わせてきた。
「萌君、今日は大変でしたね。私も少し疲れましたけど、萌君はもっと疲れたと思います。気疲れというやつですかね。」
「そうだな、でもいいこともあったよ。みんなには内緒なんだけどな・・・。モカは幽霊とか信じるか?」
「怖い話は苦手ですよ?だからお化けは信じないようにしています。」
「そっか、でも良い幽霊もいるかもな。不思議な話だけどな、実は今日父さんが俺たちの前に現れたんだ。それで、いろんな話ができたよ。」
モカは呆気にとられたようにしながらも、
「そうですか、それは良かったです。私もいつかお会いできますかね?」
「信じてくれるの?会えるかどうかは俺にもわからないよ。今日成仏したかもしれないしな。」
「それは寂しいですね。私は自己紹介をしておきたかったです。それに、貴方がお父さんのことで嘘を言うとは思えませんから、信じますよ。」
「モカ…。ありがとう。」
「何度も言いますけど、私にとって貴方は特別なんです。だからそんなに気を使わなくても大丈夫ですよ。」
「いや、気を使ってるわけではなくてな、嬉しくて…。それに、モカに特別とか言われると勘違いしそうになるというか、そういういい方は気を付けた方が…」
「何を勘違いしてるんですか?何度も言いますけど、貴方のことが好きなのも特別な存在であることも何一つ変わっていませんよ、私は!」
「え?子供の頃のあれは、本気だったのか??」
「当たり前じゃないですか!怒りますよ?冗談でファーストキスを捧げるわけないでしょ!」
モカは 顔を真っ赤にしながら、頬を膨らませていった。いや、言わせてしまった。
しまった!まずい!どんな顔をして返せばいいんだ??
「萌君、貴方が何を考えているのは大体わかります。でも、今すぐ回答をしなくても構いませんよ。でも私の好きは決して親愛の好きだけではありませんから…。
これ以上は…出来ればあなたの口から聞きたいです。同じ想いを持ってい居ればですが…。」
そっか、そうだよな。どうやら俺の片思いではないようだ。
はっきりさせなきゃな。
「近いうちに俺から告白させてもらうよ。さすがに父さんの葬儀の後に告白もないからな…。」
モカが目を見開いて驚いている。
「ニブチンだと思っていたのに…。」
「いやここまで言われて気が付かないやつはさすがにいない。」
「そうですね。何度も言っていたと思いますけど。」
モカはジト目をしている。
「ゴメン。」
「萌君。今日で色々一区切りですね、ご苦労様でした。それと、お誕生日おめでとうございます!」
そういって、モカは俺の頬にキスをしてくれた。軽くではあったけど、しっかりと感触は残っていた。子供頃とは違う感覚だった。
これ以降、会話はなくなったが色々な思いが溢れ、俺はモカのことを抱きしめていた。
モカを送って帰る時間まで…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます