第26話 安息の日
4月29日、葬儀当日。今日は俺の誕生日だ。
ここ数年、誕生日を意識したこともなかったな。
ま、せいぜいバイトに行っているか空手の稽古をしているかだったから気にもならなかったが。
自分の誕生日に父さんの葬儀をやるのは、運命めいたものを感じるが、正直言うと複雑だ。
母さんと楓からは、今朝、「おめでとう」とお祝いしてもらったがやはり複雑だ。うれしくないわけじゃないんだけどな…。
制服に着替えた俺は、今はリビングに設置されている仏壇の前に正座してボーとそれを眺めていた。
身体は既に火葬されているため、父さんの入っているツボの前に写真が飾られている。
現地で最後に撮ったであろう写真が父さんの遺影だ。
父さんは最期、どんな顔をしていたのか?満足だったのか?笑って逝けたのか?考えてしまうと止まらない。
すると、昨夜から泊まっていた楓と母さんがやってきた。
「萌、朝食出来てるから食べてきなさい。もう少ししたら、みんな来るわよ。お寺にも移動しなきゃいけないし。」
と言いながらダイニングへ戻って行ったいった。
「お兄、一緒に食べよ?自分のうちに泊まるっていうのも新鮮な感じだったよ?」
「ふーん?考えても仕方ないか…。早く朝飯を食べなきゃな。…よいしょ。って、あれ?」
珍しく足が痺れてうまく立てず、姿勢がくずれよろめいてしまった。
ヤバイ!仏壇にぶつかる………ん?
あれ?何かが俺の体を支えてくれている。
楓かと思ったら、違った・・・。
支えてくれたその正体を見ると。
「「父さん!!!」」
俺と楓の声がハモる。
【お?俺が視えるのか?萌?楓も?】
触れる幽霊っているのか??
「え?え?やっぱ幽霊とか魂的な?それとも、ゆ、夢か?」
じゃなけりゃ、立体CGとか?!
【夢じゃないぞ、幽霊?だけれども。萌!誕生日おめでとう!!直接伝えたかったからな伝えられてよかったよ。】
父さん・・・。
「ありがとう」
【おう!】
「父さん元気なの?ん?死んでるから元気ではないのかな??」
楓は、混乱してるのか?
俺も混乱してるけど…。
【いや、父さんは元気だぞ?死んだ…みたいだけど痛いところもないしな。】
ちょっと何言ってんの?
軽く言ってくれるなよ。
「ちょっと、萌も楓も何騒いでるの?…って、一郎さん?!?」
母さんも驚いてる…当たり前か。
【はいよ、辰美ちゃん。辰美ちゃんにも視えているようで良かった。久しぶりだな、あれからはうまくやってるようで安心したよ。】
俺たちの目の前には、うっすら光っているが、間違いなく父さんがいた。
【あ、いや、スマン、何でお前らに見えるのかわからんが、とりあえずただいま!
随分、遅くなっちまったけどな…。
萌の誕生日だから、閻魔様からの粋なプレゼントか?
何にしても、こうして再会できてよかったぜ。
前はほら個別に面接してたみたいな感じだろ?ハハハ。】
ハハハって、笑ってる場合じゃねぇって…。
「…お帰り、父さん。俺さ、あの時からずっと確認したかったんだ。俺は間違ってたのかな?家族に心配をかけ、挙句に壊そうとしてしまった。」
【ったく、堅いなお前は、猪突猛進にやり過ぎなんだよ。もう少し周りを見てみろ、肩の力も抜け。でもな、俺の誇りにかけて言うが萌は自慢の息子だ。少しばかりやり方が不器用だったけど、うれしかったぜ。でもな、心配かけてたのは俺も同じだろ?
ドライな考え方かもしれんが救助ってのは命懸けだ。いつも誰かに心配をかけている。
お前も目指すなら覚えておけよ。
死んだのだって自己責任さ……。
いいか?萌のことを心配しているのは俺だけじゃない。家族はな、みんなお前の味方だ!信じていいんだよ。迷惑も程々なら問題ない、友達もな大切にしろよ。あと、…かわいい恋人もな?】
そう言って頭をなでてくれた。ものすごく照れ臭いぞ。モカのことも知ってるのか??
「父さん、お帰りなさい?
ね、私には?私も甘えたい!でも、私、お兄ほど頑張れなかったしな。」
うつむきながら楓が言う。全力で甘えたらいいと思う。
【そんな事ないぞ、楓は父さんと一緒にいられた時間が一番短かったのに父さんのために毎日お祈りしてくれてたものな。とっても嬉しかったぞ。お前は自慢の娘だ!母さんに似て美人になったしな!
それに、楓は萌とはやり方は違うけど家族を護ってくれたからな。感謝しているよ。ありがとう。】
そういうと、父さんは楓の頭を撫でた。楓も気持ち良さそうに目を細めている。
父さんの目線が楓から母さんの方へ移る。
「…一郎さん…。ごめんなさい。私は…、あなたの大切なものを護れていなかったわ。」
母さんが泣いている…。
【あの時にも言ったけど、苦労を掛けたな。俺の方こそすまなかった。もう大丈夫だよ。この子たちは俺が考えていた以上に強く成長していたみたいだ。
これからも大変なことが多いと思うがよろしく頼むよ。俺は、辰美に出会えて本当に良かったと思っているよ。家族を大切にしていることも分かっているからな。
だから泣くな。お前の傍には俺がいるから。…愛してるよ…。
また一緒に頑張ろう。閻魔様もそのくらいは許してくれるはずさ。】
そう言い母さんを抱きしめ、キス…って、おい!
俺は慌てて楓の目を隠す。俺も目をつむる。
楓が抵抗するが、何とか抑える。
親のキスシーンなんて見せたくない。見たくない。洋物映画じゃないんだからな!!
こっちに気づいた二人が、照れていた…。
この後、少し話をしていたら何の前触れもなく消えてしまった。
でも、【またな…】って耳元で聞こえた気がした。
前言撤回、今日が誕生日でマジでよかった。
俺の努力は無駄じゃなかったみたいだ…!
少しづつ肩の力が抜けてきたかな?
o(`ω´ )o
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