第17話 萌と萌香の…。

バイクWR250を走らせ自宅についたが、まだ背中にモカの感触が残っていた。

自分でも、何でこんなに彼女のことを考えてしまうのかがわからなかった。


風呂に入り、自室のベッドの上で横になりながら、今日のことを振り返る。

チャラ男とモカの間に入った際、俺はモカの事に気が付かなかった。

それどころか、モカから名前を教えてもらうまで、名前も出てこない始末の悪さだった。

確かに彼女は小さいころに遠い異国に引っ越した。

その後、連絡が取れていたわけではないが、引っ越し直前に告白され、その上向こうから且つ強引にではあったがキスまでしてくれた相手のことを忘れていた自分が、薄情に思えてしかたなかった。

そういえばと、小学校の卒業アルバムを開く。そこには当然彼女の写真は載っていないが、久美とモカと3人で撮った写真が封筒に入れたまま挟まれていた。

写真をくれたのはモカだ。写真はモカのお父さんが撮ってくれたものであった。

そこに映るモカは、とてもかわいらしい笑顔で写っていた。このから髪が長かったのかと改めて気が付く。

写真の裏には、”さいかいしたらこいびとになってください もか”と、ひらがなで書いてあった。当時はこれがが恥ずかしくて、でも嬉しかったから大切に保管してあった。

昔の写真とメッセージを交互に眺めながら、今のモカの顔を思い浮かべていた。



萌は、引っ越す前から萌香のことが好きだったのだ。

しかし、幼かったためにそれが恋人としての好きなのか、友達に対しての好きなのかは、わかっていなかった。

彼女がいじめられて、思わず助け、守ってしまうくらいには意識していたのだろうが、それがどのような感情からの行動だったのか、当の本人は今でもわかっていなかった。


萌香が海外へ引っ越してから、約一年と少し後、父親が仕事中に二次災害の被害に遭うなんて想定外のことが起こり、それどころじゃなくなっていったという事実はあった、その後の経験から特定の人を除き、のだから仕方がないことだったのかもしれない。

しかし、たった1日ではあるが、萌香の存在が萌の心を動かし、今まで無意識下スーパーエゴで封印してきた感情や表情を少しづつではあるが確実に動かし始めていた。


※  ※  ※


萌香は、初めてのバイクで冷えた体を風呂で温めてから、自室のベッドの上で奇跡のようだった今日の出来事を振り返っていた。



本当は、今日学校で彼を遠目に眺めているだけで良かった。

そのつもりだったのだが…。


最近の彼の変化が目覚ましく、爽やかメガネ男子なんて呼ばれているのを耳にして不安になり久美に相談(確認)をし何やら家族の間で良いことがあったらしいことが分かった。

それはよかったと思ってはいたが、それと髪型がどう繋がるのは不明のままであった。

まさか、また変な女が付いたとか?!とまたもや不安になり、久美に再度確認。

そんなに不安ならバイト先を教えるから自分で確認して来い!と怒られてしまう。

怒りながらも、心配だから行くときは一緒に行ってくれると言っていた。

久美は優しい。


でも、久美が怒るのも無理はない。

それもこれも支えてあげたいなんて大義名分を持って帰国したくせに、怖がって1年以上も彼に声を掛けられず、あげく彼女ができたと聞いては久美に八つ当たりしたり、ひどい振られ方をしたと聞いては報復を企てたり。結局何もしてあげられなかった。だから、自分が悪いこともわかっているので文句が言える状況ではなかった。


そして、ついに決心し萌ちゃんのいる喫茶店に行くことにした。

突然行くというと久美に怒られそうだったため、久美は誘わなかった。

本気で忘れられていたら立ち直れないかもしれないが、久美の話では、過去(お父さんがいなくなる前の事)のことは忘れたように話そうとしないらしい。だから、久美とも何度も距離を取ろうとしたが真司さんやおじさんたちが頑張って引き留めていたそうだ。

私に勝算があるわけではないが、引っ越す際にした告白とキスのことを覚えていてくれれば、私のことも思い出してくれるかもしれない。

周りも見ずに考え事をしながら歩いていたら、道に迷ってしまった。

少し寂しい感じのところに出てしまったので、引き返そうとしたけど、二人組の男子に絡まれてしまった。

とにかく怖かったので必死に振り切ろうとしたが、逆に強く腕をつかまれてしまい。

痛くて、大きな声で抵抗しようとしたけど、今度はうるさいと平手で叩かれてしまう。痛くて怖くて泣きそうだった。

そんな時に、私と男子の間にバイクが割って入ってきて、驚いた男子が私の手をほどいてくれた。

この隙に同じ学校の制服をミリタリージャンパーの下に覗かせる男性の後ろに隠れた。こんな時に萌ちゃんが助けてくれたらなとも思ってしまうが、そんな都合よくはいかないだろうと思っていたのだけれど。

聞き覚えのある声で、名乗ってくれた私の大好きな人の名前。

私のことを守ってくれると宣言してくれた。

安心した私は、思わず腰が抜けてしまいその場にへたり込んでしまった。

でも、その後ろ姿が、あまりに懐かしく、格好良くてまた泣きそうになってしまう。

あっという間に、チャラい男子を倒してしまい。驚いた。

お礼を言うために、改めて声を掛ける。

そして立ち上がらせてもらうが、私のことは覚えていないみたい。

ヘルメットを外して見せてくれた彼の顔は至近距離で見るのは危険なほどかっこよかった。

そして問答を繰り返し、私が名乗って、ようやく出てくる私の名前。思い出してくれた。泣きたくなるくらいうれしかった。

というか、幼少のころの自分の呼称で呼ばれてしまった。

少し恥ずかしいけれど、今やそれを覚えているのは久美と家族を除けは彼だけであろう。だから余計にうれしかった。彼だけの特別な呼ばれ方みたいで。

彼のアルバイト先に到着してまた驚かされた。

昔、家族で何度も着たお店だったのだ。

お父さんの友人の二人が経営されていたはず。

イタリアにいたときにも父が頻繁に商品を送っていた。

ユニフォームに着替えた彼もかっこよかった。見惚れてしまった。


しばらくお話をした後、彼が奥の部屋に呼ばれて行った。

なぜか、義仁さんがやってきた。

義仁さんは、私にここでアルバイトアルバイトをしないかと提案してくれた。

お父さんがOKしてくれたら問題ないと喜んでその話を受けた。

義仁さんはすぐにお父さんに電話して確認してくれた。

電話を替わった時、萌ちゃんのことを伝えると再会をすごく喜んでくれた。

お父さんが今度は君が支える番だよと言ってくれた。

もちろんアルバイトの件も承諾してくれた。

兄さんにも後で伝えておくことにする。

ゲストルームに移動し待つことになったが、アルバイトすることになったと伝えたときの萌ちゃんの顔は面白かった。


萌ちゃんの料理している姿はやばいくらい素敵だ。

でも、お仕事の邪魔をしてしまったので謝ってゲストルームに帰ろうとしたら、萌ちゃんが作っていたオムレツを盛り付けて私にくれたんだ。

私は、元々卵料理が好きだったけれど今日のは特別美味しかった。

スマホで写真に撮って一生の思い出にしようと思う。

届け!この重い想い…。ムフフ。


課題をやっていたら萌ちゃんがやってきた。なぜか私を見つめている。照れる!でも顔に出さないように、気づいてないふりを続け、彼が声を掛けてくれるのを待つ。


萌ちゃんが声をかけてくれた後キッチンの方へ移動し、萌ちゃんが料理をするところを特等席で見ることができた。

気が付いたら萌ちゃんと目が合っていて照れて下を向いてしまった。変に思われてなければいいな…。

萌ちゃんのお父さんが作っていた特別な2品を食べさせてもらえた。本当に幸せだ。

久美にお礼を言いたいくらいだった。痛いことも怖いこともあったけどすべてを帳消しにできるほど今は幸せだ。萌ちゃんとお話しできるようになっただけじゃなく、昔のように呼び合い。特別な料理まで戴けた。最高だ。ありがとう久美。あなたのおかげです。

また、萌ちゃんが私のことを見ていたみたいで義仁さんと義徳さんに揶揄われていた。

義仁さんの奥さんからヘルメットやジャケット、パンツ、グローブまで借りてしまった。サイズぴったりだったのが嬉しかった。

奥さんはこれからも使うだろうから返却はいつでもいいよと耳元で囁かれ照れてしまった。

義仁さんは苦笑いしていた。


そして、夕飯の後、先生やみんなと合流した。

私は、テンションが上がってしまい、支離滅裂な説明をしてしまった。

私を制して冷静に挨拶をする萌ちゃんが大人びていて、かっこよかった。

萌ちゃんは、みんなから心配されていた。そして、それだけにお説教も受けていた。

私は、先生方から萌ちゃんのお目付け役とストッパーという役割を与えられた。石井先生からは生徒会にも誘われた。

芹沢先輩とは初めましてだったけどとてもやさしい方だった。真司さんの婚約者だそうだ。先輩が卒業したら同棲するといって久美を驚かせていた。真司さんは兄さんの友達だったので少し面識もあった。真司さんと萌ちゃんがバイクの話をしている姿も良かった。

それから久美ともお話をした。

私がというと彼女は引きつっていた。

幼児帰りしていると思われたらしい。ムフフ、たぶん正解です。


そして最後に特大の爆弾を聞いて、私と萌ちゃんは帰ることになった。

私はゲストルームで久美や先生に手伝ってもらって着替える。

そこで、二人からあんなにいい表情をする萌ちゃんを久しぶりに見たと伝えられ驚いてしまう。最近は良くなってきたけどそれでもあれだけ無警戒にあんなに優しい表情をすることはなかったそうだ。

私もそれを聞いてうれしくなってしまう。

私が、彼の力になれたならばこんなにうれしいことはないからだ。

二人にとって彼は弟のような存在だと言っていた。すぐに無理をする彼は心配が尽きないと。これからはよろしくと頼まれてしまう。

こちらこそよろしくですと言って笑っていた。


萌ちゃんのバイクの後ろに乗せてもらう。

ここにいる間は二人だけの世界だとか考えてしまい、恥締めちゃんの説明をちゃんと聞いていなかったからか、みんなから注意されてしまった。

バイクが走り出しても怖さも不安な気持ちもなく、彼の背中にピトッとくっついていられるこの時間は最高過ぎだった。何度も「好き」と言ってしまったが、彼には聞こえていないだろう。


マンションにつき、バイクから降りたときに私は彼にわがままを言ってしまった。萌ちゃんの後ろの席は私専用にさせてほしいと。

私の想いは伝わっているか怪しいけれど、最後には頷いてくれた。


… ・ … ・ …


本当に濃密で最高の一日だった。


贅沢かもしれないが、いつか彼の恋人になれたらとベットの上で悶々とする私であった。









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