第17詩 【薄暮】


どれほど


彩(うるわ)しく 薄暮の空が


暮れかけていることか



わたしを


うつろわせたか……



  (こころよ 何処へ 彷徨(さまよ)おう?

    そうして それを 何処へ 置こう?)



今日ほどの……誘うほどの……


暮れ六つ時に



真っ赤な蓮をみるほどに


侘びしげな 真剣な 匂いを



人は 人知れず


人知られずに 嗅ぐばかりだ



  (静かに 暮れなずむ 我ら。己(おのれ)ら。

    それから 湿っ吹く 竹林へ さみしい梢のさやぎ)




わたしは薄暮に うっとりとする


うっとりする


現(うつつ)に すげなくして。



見る間に


帽子が 飛ばされた



いいように ひらひらと


筋斗(もんどり)打った



歩道橋の上から


金の火焔(ほむら)のように




街灯が 灯る


てんとう蟲の なな星だけが


冴え冴えるように



川面が ゆらめいて


街灯を 映しはじめる



  (人の知れない 愛が 人の知れない 愛だけが

    この川を 奔ってゆくのだけれど

      それは もう……見る間に 見えない)





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