第36話 永遠の愛

ユリが歩き出した後、悦子が本木の横に立ち、見つめながら話す。

「本当に行かせていいの?ユリちゃん、あなたの本当の気持ちを待ってるんじゃない?」

本木は空港の出発ゲートへと入っていくユリを見つめていた。悦子は本木の背中を押し、

「さあ、行っておいで!だめでも本当のことを言わなきゃ!勇気を出して!」

本木は悦子に言われるとゲートへと走り出した。


ユリはマネージャーと一緒に出発ゲートへと入っていく。ゲートを抜け出国手続きの列に並んだ。すると本木の声が聞こえた。

「ユリさーん!まだいるなら聞いてくれ!」

ユリは驚いた表情で聞いていた。

「行かないでくれ!僕は君がいないとだめなんだ。本当は離れたくない・・・もう、離れるのは嫌なんだ!」

ユリの目には知らず知らず涙が溢れてきた。本木は回りも気にせずに叫んでいる。自分への気持ちを正直に・・・。

「ユリ、あそこまでされて黙っているのか?」

マネージャーが近寄って聞く。

「そうだよ!ユリ、さあ、どうするんだ?」

ジヘもユリに笑顔で聞いた。ふとユリは真弓から言われた言葉を思い出す。

―「私とした約束を忘れないでね」―

ユリは自問した。

―「私は本木さんのためなら何でもするんじゃなかったの?今、自分の愛する人が私を必要としているのに・・・」―

ユリは今まで会いたくても会えなかった過去のことを思い出す。そして、自分がどれほど本木を必要としていたかを思い出し、本木がユリを必要としている今、本木を無視して出発していいのか自問を繰り返す。

ユリは二人の顔を見つめ、

「マネージャー、ごめんなさい、私には私を必要としてくれている人がいるの。その人の側にいたい・・・」

マネージャーは黙ってうなずきユリの肩を優しく叩いた。ユリは来た道を走って戻りだした。

「マネージャー、これでいいんですよね?」

ジヘがマネージャーに問い掛ける。マネージャーは笑顔で

「予測していましたよ。二人とも気が付くのが遅いんです。お互いがお互いをどれだけ今、必要としているかに気が付くのがね」

「そうですね。でも、ユリの代役はどうするんです?」

「それならあちらに居ますよ」

マネージャーが指差す方向に一人の女性が立っていた。帽子を深く被り、サングラスで顔がわからなかった。ジヘが近づき挨拶をすると、その女性が話し出す。

「ユリ姉さんじゃなくて残念?」

「えっ?まさか・・・」

「私に気が付かないなんて、どういうつもり?」

その女性はテヒであった。テヒはジヘの足を踏みつける。ジヘは大げさに痛がったが笑顔になり、テヒを抱き寄せた。その様子をマネージャーは微笑みながら見ていた。


本木はロビーをとぼとぼ歩いていた。

―「何故あんなわがままを言ったんだろう・・・」―と、心の中で呟いていた。しかし、本木にはその答えがわかっていた。少しでも一緒にいたい、ユリから離れたくない、と、いった気持ちは勿論、その気持ちとは別に、ユリと離れることで、再び二人の間に何か問題が起こらないか心配でもあった。まして、違う国へと行ってしまう彼女が心配でならなかった。簡単に見送れない自分の気持ちは、自分が大切に思う家族に、ユリがなったことも意味していた。だから、いつでもそばにいたい、と、いった本音を本木は抑えられなかった。今までこんな気持ちになったことはなかった。自分がどれほどユリを大切に想い、必要としているかを痛切に感じた。


すると、遠くの方で自分の名前を呼ぶユリの声が聞こえた。本木は立ち止まり振り向くが、あたりにはユリの姿はなかった。

「幻聴かな・・・」

本木は笑いながら呟き、再び歩き出す。

「本木さん!」

今度ははっきり自分の名前を呼ぶユリの声が聞こえた。本木はすぐに振り向くと、ユリが周りの目を気にせず、自分の名前を呼びながら走ってくる姿が見えた。

「ユリさん・・・」

本木が呟いていると、ユリはまっすぐ本木に向かって来て、抱きついた。本木もユリを受け入れた。するとユリが

「私はあなたのためなら何でもするわ・・・だから、私を必要だと思ったらいつでも言って・・・私、あなたのそばにいる。そう決めたの!」

「ユリさん・・・」

「もう偶然には頼らない・・・あなたとは運命で結ばれているけど、その運命を大切に守っていくことにしたわ。だからあなたから離れない、女優であってもこれからは、あなただけの主人公になるわ」

と、興奮しながら言った。本木はユリの言葉に驚きながらも、周りが気になり

「ユリさん・・・こんなことしたら周りに気が付かれちゃうよ・・・」

と、言って、周りを見る。するとユリは

「構わないわ!だって、私たち結婚するんだもの!」

そう言うと、ユリは本木にきつく抱きついた。本木も笑顔になり、ユリを抱きあげた。すれ違う周りの人は皆、、微笑みながら見つめ、徐々に拍手の輪が広がっていった。


一年後、二人の結婚式が開催された。二人の門出に両親をはじめ、マネージャー、ジヘ、テヒ、真弓など大勢の人が祝福に訪れた。式が始まりバージンロードをソンホンと一緒にユリが入ってくる。本木のもとに近づくユリの美しいウェディングドレス姿を見た参列者は一同に感嘆のどよめきを起こした。ユリが本木の前に来ると、本木はユリの手を取り、口付けをする。そして

「君しか目に入らないよ」

と、耳元で呟いた。すると二匹の猫が突然バージンロードに現れ二人の下に近づく。二人が出会った時にいた猫にそっくりな二匹の猫は祝福するように二人を見つめ、鳴いた。本木とユリはお互い見つめ合い、

「これも偶然かな?」

と、本木が言うと、ユリが首を振り

「違うわ・・・運命よ」

と、言って、本木の腕に手を通した。大勢の参列者と二匹の猫に見送られながら二人は神父の前に歩み出た。

式も順調に進み、指輪を交換する。お互い相手の指輪にキスをしてからお互いの指にはめた。

結婚式が終わり、二人はバージンロードを歩きながら退場する。二人にはたくさんのライスシャワーが掛けられた。幸せそうに歩く二人、その姿を微笑みながら見つめる純一と悦子の腕には、先ほどの二匹の猫もいた。ユリは立ち止まりブーケを投げる準備をする。

「私たちの運命的な出会いを受け取って!」

そう言うと、ユリはブーケを空高く投げた。

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「あなただけの主人公」~あなたは三度目の偶然を運命だと知っていますか?~ @WARITOSHI

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