第28話 真相
「ただいま!」
ユリが買い物から戻った。居間に入るとユリは来客のあとに気が付く。ユリは咄嗟に何かに気が付き、ソンホンのもとに行く。
「お父さん!」
自分の部屋で読書をしていたソンホンの前にユリは立ちはだかり、
「本木さんが・・・来たの?」
と、恐る恐る聞き出す。ソンホンはゆっくりユリを見つめ、うなずいた。
「嘘・・・まさか・・・本当のことを話したの?」
ソンホンはゆっくり立ち上がりユリの前に立ち、
「話したよ・・・彼には本当の理由を聞いたら、お前との関係が崩れるかも知れないことを承諾した上で聞いてもらった・・・聞かない限りお前を諦められない気持ちもわかったからな・・・」
「そんな・・・どうして言ったの・・・それじゃ、本木さん・・・私のことを考えて・・・」
ユリは慌てて出て行った。そして走りながら本木に電話をかけ、本木の宿泊しているホテルへと向かった。
「本木一哉さまですね・・・もうチェックアウトされましたが」
ホテルのフロントでユリは本木がいないことを確認した。ここへ来る途中、何度も本木の携帯電話に連絡したが、本木は出なかった。ユリは落胆しホテルを後にする。
「本木さん・・・どうして・・・」
ユリは泣きながら歩いて行った。
本木は一人帰国していた。本木はその足で実家を訪ねる。
「おお、一哉、休暇はどうだった!」
純一は笑顔で迎えた。本木はだまったまま純一の前に座る。そこへ悦子も現れた。本木は純一に
「お父さん、キム・ソンホンという方をご存知ですか?」
「えっ?ソンホン・・・」
純一は突然の質問に驚いたが、しばらく考え
「いや・・・知らないが・・・誰なんだ?」
本木は目を細め、表情を曇らせた。その様子を悦子が心配し
「何かあったの?」
と、尋ねる。本木は悦子の顔を一瞬見るが何も言わず、また純一の顔を見て
「その人は、ある日本人からひどい仕打ちを受けていたそうです。その人は今でもその日本人を恨んでおり、日本人全体を恨むまでにいたったそうです。そしてその恨みは三〇年たった今でも鮮明に覚えています。しかし、その日本人は、そのひどい仕打ちの事実やその人の名前さえ忘れていた・・・その韓国人は・・・ユリのお父さんです」
と、言って、本木は立ち上がり部屋を出て行く。悦子は本木の様子が尋常ではないことを心配し、慌てて後を追いかけた。
「一哉!待って」
本木は振り向かずそのまま歩いていたが、悦子が追いつき腕を掴む。
「一哉・・・話の内容はわからないけど・・・何かあったんでしょ?」
本木はしばらくじっと黙っていたが、悦子の顔を見て
「僕はどうしたら良いか・・・わからなくなった」
と、言って、出て行ってしまった。
「あなた!一哉の話、どういうことなんですか?」
すぐさま純一の所に戻った悦子は言った。純一は頭を抱え考え込んでいたが、立ち上がり部屋を出て行った。
本木が家に帰ると、ちょうど自宅の電話が鳴った。
「はい、本木です」
「本木さん!私、ユリです!」
ユリが慌てて話し出す。
「本木さん・・・どうしたの?突然帰ったりして・・・」
「ああ、勝手に帰ったりしてごめん・・・」
「何かあったの?」
「・・・いや・・・何もないよ・・・ちょっと日本で急用が出来たから・・・」
「本木さん・・・」
「うん?なんだい?」
「家の父から何か話を聞いた?」
「・・・いや、何も聞いていないよ、特に何かあったのかい?」
ユリは本木の胸中を察し、それ以上何も言えなかった。
「そう・・・私、父に結婚を許してもらえるよう説得するから、本木さんも待っててね!」
ユリは敢えて明るく言った。しかし本木からは何も返事がない。たまらずユリは
「・・・どうしたの?本木さん、黙って・・・」
「・・・ユリさん、結婚の話なんだが・・・」
「結婚がどうかした?」
「僕達の結婚、延期したいんだ・・・」
ユリは頭を殴られたような衝撃を受けた。
「本木さん、なんて言ったの・・・」
「とりあえず、結婚の話は延期させて欲しい。お願いだ・・・悪いけどまた電話する」
と、言って、本木は電話を切ってしまった。ユリは電話を持ったまま電話の切れた発信音をいつまでも聞いていた。ユリが恐れていたことが現実となった。本木は自分と父親の関係を悪化させるのを防ぐべく、また自分の父親の過去の過ちにも責任を感じて結婚を延期したいと言ったのだ。ユリは我に返ると急いで電話をかけた。
「すいません。日本へのチケット一枚お願いします」
「母さん・・・」
帰国した翌日、突然の母親の訪問に本木は驚く。
「何?せっかくの休みなのに、家でぼっとしているの?」
そう言って悦子は本木の部屋へ入っていった。悦子は本木の様子が気になり本木の部屋にやって来た。
「どうしたの?急に?」
本木は母親へお茶を出すと聞いた。
「なあに、用がなきゃ息子の家に来ちゃいけないの?」
本木は苦笑しながら悦子の前に座った。すると電話が鳴った。
「はい、本木です」
「本木さん、ユリです」
「ユリさん・・・どうしたの?」
悦子は『ユリ』と言う言葉に敏感に反応し、本木の電話に聞き耳を立てる。
「ごめんね、急に電話して・・・今、日本に来ているの・・・会えないかな?」
本木はしばらく考えるが
「わかった、すぐに出るから、会社の前で待ってて」
と、言って、電話を切った。すると悦子は
「ユリさんなの?」
「ああ、今、日本に来ているんだって、母さん、申し訳ないけど、ちょっと出掛けてくる」
「わかったわ、気にしないで、但し、ユリさんの携帯番号を教えてよ」
「えっ、なんで?」
「私だってユリさんと話したい時があるの!いいでしょ、迷惑掛けないから!」
本木は不思議そうに悦子を見るが、メモにユリの電話番号を書き、出掛けていった。悦子はユリの電話番号が書かれたメモを握り何かを考えていた。
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