第24話 家族

悦子の病室に純一が現れる。純一は本木とユリの姿を見て驚く。ユリも純一の姿を見て慌てて部屋を出て行こうとする。すると本木はユリの腕を掴み、出て行くのを止め、純一の前に歩み出る。本木はユリの手を掴んだまま

「僕はこの人と一生一緒にいます、例え誰がなんと言おうと・・・」

と、純一の顔を真剣に見つめ言った。純一は本木の言葉を黙って聞いた。すると本木には何も言わずにユリの前に立った。しばらくユリを見つめると突然、ユリの前でひざま付き、

「今まで失礼なことを言ってしまい申し訳ない・・・家族である私以上に悦子を心配してくれたのに・・・私が君を責める資格なんて無かったんだ・・・今まで悦子を勇気付けてくれてありがとう。そしてこれからは一哉を勇気付けてあげて欲しい・・・どうか一哉のことよろしく頼みます・・・」

と、言って、ユリに頭を上げる。突然の純一の言葉にユリも本木も驚く。ユリは慌てて純一の腕を取り、立ち上がらせ、

「こちらこそ、今まで黙って勝手な行動を取り、お父様を誤解させる真似ばかりして申し訳ありませんでした。私のほうこそこれからもよろしくお願いいたします」

と、純一の手を握ったまま頭を下げ言った。純一も笑顔になりユリと両手で握手をする。本木と悦子はその様子を笑顔で見つめた。新しい家族の誕生であった。


本木とユリは病院を後にし、約束通り食事へと向かった。夜景の見渡せるレストランで二人、席に着く。

「乾杯しようか?」

「ええ、何に対して乾杯します?」

ユリが笑顔で聞くと本木は

「勿論、新しい家族の誕生に!・・・ちょっと気が早いかな?」

本木の言葉にユリは微笑み、

「嬉しいわ、それじゃ」

と、言って、グラスを差し出す。

「新しい家族の誕生に、乾杯」

本木はそう言って、ユリのグラスに合わせた。その日、ユリは久々に心の底から笑った。今までの心配が一気になくなったような気がしたからであった。心から笑って話をするユリを本木は笑顔で見つめていた。


本木はその後、イベント成功に向け全力を注いだ。イベントに必要な会社の協力はほとんど得られたが、当日の発表とイベントモデルとなるタレントの手配が今だに調整出来ていなかった。各タレント事務所が候補としてあげてくるタレントは売り出したばかりの新人であり、クライアントのK社も納得いくはずもなかった。本木側が希望するタレントはスケジュール調整が難しく困難を極めていた。

「専務・・・困りましたね・・・」

秘書の本宮が本木に言った。本木もなすすべがなく

「本当だ・・・しかし何とかしなければ・・・もう一度こちらの要望をタレント事務所に伝えてお願いしよう!」

と、本木が言った時、携帯電話が鳴る。

「もしもし」

「本木さん、マネージャーのソクホです」

「どうも、お久しぶりです。お元気ですか?」

「ええ、本木さんこそ大変ですね、ところでイベントのタレントは見つかりましたか?」

「・・・それが、まだ決まらない状態で・・・」

「そうですか・・・本木さん、どうです?この件、私に任せてもらえませんか?」

「えっ?」

「私が何とかします。だから私に任せてください!」

本木はマネージャーの言葉が嬉しかったが、あまりにもマネージャーに頼りすぎてはいないかと思い悩んでいた。しかし、ここはマネージャーの好意に甘えることにした。

「ありがとうございます。是非お願いいたします」

「わかりました。それではキャスティングについて決まったら連絡します」

「お願いいたします」

本木は電話を切った。すると本宮が

「キャスティングの件ですか?」

「ああ、以前、お世話になった韓国のタレント事務所の方が協力してくれるって」

「韓国ですか!いや、逆にいいかも知れませんね。いやーさすが専務、いいところを抑えましたね、それで誰が受けてくれるんです?」

本木は本宮の言葉に苦笑いし

「まだ誰が来るかもわからない・・・ただ、信用出来る人だから一任することにした」

「それじゃ・・・K社には何と?」

本木はしばらく考え

「K社には正直に話すよ、この件はこちらに任せて欲しいと・・・」

本木は早速K社に向かった。


K社に対し本木はキャスティングについて正直に現状を話した。そしてモデルは韓国のタレントになるかも知れないと伝えると、K社担当者は一瞬驚いたが、逆に斬新かもしれないと言って了解してくれた。全てが順調に行き、あとは当日を迎える状態になった。本木はキャスティングの進行を確認するべくマネージャーに連絡を入れる。

「マネージャーですか?本木です」

「ああ、本木さん、順調ですか?」

「ええ、お陰様で、それよりキャスティングの件、いかがですか?」

「大丈夫、任せてください!」

マネージャーはそれ以上言わずに笑っていた。本木は少し不安になり

「あの・・・もしよろしければ事前にタレントの情報を送っていただけませんか?」

と、聞いた。するとマネージャーは

「本木さん、私が信用出来ませんか?」

「いいえ、そういうわけでは・・・ただ責任者としては全て知っておきたくて・・・」

本木の困った声を聞き、マネージャーは

「大丈夫です。本木さんの期待を裏切らないようにしますから。あと、当日のタレントの仕事については私に情報を送ってください。それでは当日楽しみにしていてください」

と、明るく言って、電話を切った。本木もこの件は一任すると言った以上、これ以上は心配しないことにした。そしてイベント当日を迎える。


K社新製品発表会のイベントが開催される。内容はK社の新製品をタレントが会場で使用し、その性能をアピールする段取りであった。本木はキャスティングの件だけが不安であった。しばらくするとマネージャーの姿が見え、本木は走ってマネージャーのもとに向かった。

「マネージャー!」

「いやー本木さん、お久しぶりです」

「こちらこそ、ところでキャスティングの件は?」

と、焦る本木にマネージャーは笑顔でウインクし

「会場で待っててください」

と、一言、言って、タレント控え室の方へ向かった。本木は呆気にとられるが、もうここまできてじたばたしてもしょうがないと思い、会場へと向かった。ついにイベントが始まった。K社社長がまずご挨拶を行い、担当者が新製品の発表を行った。ついにタレントが新製品を持って会場に現れる番が来る。本木は息を呑んで会場を見つめた。タレントが会場に現れ始めた。

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