第25話 成功

イベントの製品を持ったタレントが舞台に現れる。なんとそこにはユリを先頭にジヘとテヒまでが一緒に製品を持って現れた。

「ユリさん・・・」

本木はしばらく呆然としていたが、我に返りマネージャーを目で探す。するとマネージャーは本木を見て笑顔でうなずいていた。本木は再び舞台に目を戻すと、そこには綺麗な衣装をまとったユリの眩しい姿があった。周りの状況が一切目に入らないほど、ユリを美しく感じた。ユリも本木の熱い視線を感じ本木を見つける。ユリは本木にウインクをし、とびきりの笑顔を本木に見せた。ユリの魅力は本木だけが感じたわけではなかった。会場ではどよめきが起こっていた。ユリをはじめテヒも美しく可憐な姿を見せ、ジヘは男らしい姿で製品の魅力をアピールしていた。三人が楽しげに製品を使い、製品の魅力を最大限引き出すと同時に、三人の美しい世界に会場の全員が吸い込まれていた。最後に三人が舞台中央に集まり、ユリが製品を胸元において

「美しいでしょ・・・」

と、官能的に言った。イベントはそこで終了した。会場全体から大拍手が起こり、本木も我を忘れて拍手をしていた。


本木はK社担当者から絶賛の祝辞をいただきイベントは大成功に終わった。イベントが終わってからのことを本木はあまり覚えていなかった。会場から人が去り、本木は誰もいない舞台の中央に立っていた。全てをやり遂げた心地よい疲労感が本木を襲っていた。本木はしばらく呆然と考えていた。それはユリの強烈な美しさを思い返していたためであった。


しばらく本木が舞台の中央でたたずんでいると、急にスポットライトが本木を照らす。本木は驚きあたりを見渡すと、舞台袖から女性が本木に近づいてきた。本木はスポットライトのせいでなかなか誰だか確認出来ずにいた。やがて目の前にその女性が立ち、本木が目を凝らして女性をよく見るとそこにいたのは舞台で着ていた美しい衣装を身にまとったユリであった。

「・・・ユリさん・・・」

本木は驚きの表情で言った。するとユリは本木の首に両手を回し、本木を誘うように見つめ

「美しいでしょ・・・」

と、舞台で言ったセリフと同じ言葉を本木に官能的に言った。本木はしばらくユリに見とれるがようやく我に返り

「美しいよ」

と、笑顔で言った。

「なぜ出演してくれたの?」

本木はユリを見つめたまま聞いた。その言葉を聞き、ユリは本木を軽く睨み、いたずらっぽく怒った顔を見せ

「私以外、誰を起用するつもりだったの?あなたの大事なイベントには私以外いないでしょ?」

と、言って、微笑む。本木もその言葉を聞いて笑顔になる。そして何かを決心した本木はユリの首へ両手を回し、笑顔で言った。

「僕と人生をともに歩むのは君しかいない。これからもずっと一緒にいて欲しい」

ユリは一瞬驚くが、すぐに笑顔に戻り

「私以外いないでしょ」

と、微笑みながら返事をした。二人は硬く抱きしめ合い、初めての口付けを交わす。二人の様子を照明室からマネージャーとテヒ、ジヘは眩しそうに見つめていた。


イベントも無事終了し、本木はマネージャー一行を成田空港まで見送る。

「マネージャー、本当にお世話になりました」

「いやいや、成功してこちらもやったかいがありましたよ」

マネージャーは笑顔で本木と握手する。本木はジヘ、テヒにも同様に感謝の言葉を述べる。最後にユリの前に立つと、マネージャーたちは気を使い先に飛行機へと向かう。

「ユリさん、ありがとう」

「ううん、成功は本木さんの努力の成果よ。私も成功して嬉しかった」

本木はユリを抱き寄せ

「ひと段落したら必ず韓国に行くから、待ってて」

「わかった、待ってる」

二人は笑顔で見つめ合い、口付けをして別れた。


皆を見送った後、本木は会社へと戻る。すると本宮が社長が呼んでいると伝えてきた。本木は純一の部屋へと向かう。

「おお、一哉、今回はご苦労だったな」

「お陰さまで無事に終了しました」

「なんとも、ユリさんたちのお陰で大成功だったそうじゃないか」

「本当に彼女達には感謝しています」

「ところで、ユリさんはもう帰ったのか?」

「ええ、先ほど成田まで送っていきました」

本木の言葉を聞き、純一は何かを思いつき、ひとつ堰をすると、

「一哉、しばらく休暇を取りなさい」

「えっ?」

「お前、最近イベントの準備でほとんど休んでいなかっただろ。しばらく休むといい」

本木は純一の意外な言葉に不思議そうな顔をした。すると純一は

「お前、休暇を取って行くべきところがあるだろ」

「・・・と言うと・・・」

「韓国へ行って来い」

本木は驚き、純一を見つめる。純一は目配せをして何を意味しているかわかるか?と、言った表情を見せ、本木に近づき

「韓国へ行ってむこうのご両親に挨拶して来い」

と、耳元でささやいて去って行った。本木は純一の言葉に驚きを感じたが、すぐに笑顔になり

「父さん・・・ありがとう」

と、純一の背中に向かって言った。本木はすぐに仕事の整理に取り掛かった。


その日、本木は家に帰るとユリに電話をする。

「ユリさん、この前はありがとう」

「ううん、本木さん、元気?」

「ああ、ものすごく元気だよ!」

本木の明るい声を聞いてユリは

「なあに?ものすごく明るい声を出して・・・何か良い事でもあった?」

「あったよ!僕、近いうちに長期休暇をもらえることになったんだ。休暇を利用して韓国へ行くよ!」

ユリは驚き、

「本当?いつ来られるの?」

「来週には行けるよ、行ったら君から離れないからね!」

「本当に?じゃあ、シャワーまで一緒に入るの?」

「えっ・・・いや・・・そういうつもりじゃ・・・」

ユリは困った本木の様子に笑った。

「冗談よ、来週ね、私も出来るだけスケジュールを調整して会えるようにするわ」

「楽しみにしてる、あっ・・・でもあまり無理しないでね」

「わかった。私も楽しみに待ってるわ」

ユリは電話を切った。正直言ってユリのスケジュールは命一杯うまっていた。最近、悦子の看病と本木のイベントへ急遽参加したことで、今まで溜めていた仕事のしわ寄せが今きていた。しかし、せっかくの本木の休暇になんとか合わせて休みをもらおうと、次の日マネージャーにスケジュールの調整を依頼する。


「お前な・・・」

「お願いします、なんとか一日でもいいから休めるように調整してください」

マネージャーはユリの必死な姿に苦笑し、半ばあきれた顔で

「わかった・・・一日と言わず何日か休暇が取れるよう協力してやるよ」

「本当?ありがとう!」

ユリは満面の笑顔でマネージャーの手を握って言った。


数日後、本木は成田空港に来ていた。ロビーで立ち止まった本木は決意を胸に、出発ロビーへと向かった。

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