第23話 真実

病室に純一が入ると、悦子とユリは驚きの表情を見せる。特にユリは緊張して立ち上がり、純一に向かってお辞儀をした。すると純一はユリの前に立ち

「ここで何をしている?」

「あの・・・」

ユリは口篭もってしまう。

「なぜお前がここにいるのかと聞いているんだ!」

「・・・」

ユリは何も答えられずにいた。純一は本木の態度といい、母親に会っていたユリの行動といい、自分の知らないところで二人の関係が続いていたことに怒りが収まらずユリにきつく当たる。

「勝手なことをしては困る。それに君は何が狙いだ?」

「えっ?」

ユリは思わず聞き返す。純一はユリを見て不適な笑みを浮かべ

「ふん・・・どうせお前も一哉の財産が狙いだろ?」

と、ユリを小馬鹿にしたように言った。

「あなた!失礼じゃない!」

あまりの言葉に悦子も純一を咎めるが、純一は更に

「一哉とはこれっきりにしてくれ、金が目当てなら私が払う」

と、言って、ユリの前から離れる。今まで黙っていたユリも本木との関係を断つように言われると、純一を見つめ、

「それは出来ません・・・どうかお許しください・・・」

と、きっぱり言った。純一は驚き振り返ると、ユリは続けて

「今まで勝手なことをして申し訳ありません」

と、言って、帰る仕度をする。ユリがドアの前に立つと

「ユリちゃん!また来てね・・・必ずよ・・・」

と、悦子がユリに向かって言った。その言葉にユリは悦子の方を振り返り、目礼をして部屋を出て行く。

純一はユリが部屋を出て行くと椅子に座る。

「あなた!どういうつもり!」

「何がだ?」

純一が何事もなかったような顔をして答えると、その純一を悦子は今まで見せたことの無いような形相で睨みつけ言った。

「なんでユリさんにあんなこと言ったの?」

一瞬、純一は悦子の迫力にたじろぐが平静を装い答える。

「私に、・・・隠れてこそこそしているからだ!」

「今ごろ来て何を言ってるの?今まであなたは病院にきたことがある?あの子は家族でもない私のために時間が許す限りそばにいてくれた・・・しかも女優というほかの人の目を気にしなければいけない立場なのに・・・あの子は私を本当の母親だと思ってくれている。私にとってもあの子は娘同然です。一哉にとってもあの子が必要な存在なのが何故わからないの?家族なのに今まで一度も来なかったあなたに、あの子を責める資格はないです」

と、強く言った。純一は悦子の言葉に圧倒された。悦子の言葉に純一は何も言い返せず、しばし考え込んだ後、病室を出て行った。帰る途中、病院の来客名簿を何気なくのぞく。そこには頻繁にユリの名前がたどたどしい日本語で書かれていた。

「キム・ユリか・・・」

純一は悦子の言葉を思い返し、今までの自分の言動を省みた。


ユリはホテルの部屋で沈んでいた。純一の厳しい言葉にさすがのユリも二人の交際を認めてもらえないのではと、考えていた。そんな時、電話が鳴った。

「もしもし、ユリさん?」

本木であった。

「本木さん・・・どうしたの?」

「いや、良いニュースがあったんで、ユリさんに知らせたくて」

「何?」

「新しい融資先が見つかったんだよ!」

「本当?よかったじゃない!」

「ありがとう!ユリさんに真っ先に知らせたくて・・・」

ユリも本木の会社がうまくいったことは本当に嬉しかった。でも、今の自分の気持ちとは対照的に明るく話す本木の言葉が辛くもあった。ユリは辛い自分の気持ちを、本木に全て話してしまいたい衝動に駆られた。

「ユリさん?どうかした?」

「・・・ううん、なんでもない・・・」

ユリは涙を堪えるので必死であった。

「ユリさん・・・何かあったの?」

「なんでもないわ、ちょっと忙しくて疲れただけ・・・」

「・・・そうなの・・・ユリさん、今度会ったときにご馳走するよ!」

「えっ?」

「せっかく融資が決まったんだ。だから一緒にお祝いしてよ」

「そうね・・・わかった。それじゃ来週に会いましょう!」

「OK!じゃあ、また電話する」

本木は電話を切った。今日のユリはどことなく変な気がした。


数日後、本木にのもとに、悦子から電話が入る。

「一哉、ユリちゃん知らない?」

「ユリさん・・・なんで?」

「ユリちゃんの様子、何かおかしくなかった?」

ユリの電話が気になっていた本木は母親の言葉に疑問を感じて

「母さん、ユリさんに何かあったの?」

「・・・そうなのよ・・・ユリちゃんがいた時、父さんが病院に来たの・・・」

「父さんが?」

「そう、それでユリちゃんにひどいことばかり言って・・・、ユリちゃん相当傷ついていたわ・・・」

本木は黙って聞いていた。

「それに、ここ数日、ユリちゃん全然顔を見せてくれなくなったの・・・仕事で来れないんならいいんだけど・・・」

「わかった、僕から連絡してみる」

「本当?頼むわね」

本木は電話を切った。ようやくユリの沈んでいた原因がわかった本木はすぐにユリに電話をした。


食事の約束をした本木とユリは待ち合わせをする。待ち合わせ場所に本木は車で現れた。

「ユリさん!乗って!」

本木の運転する姿を初めて見たユリは驚いた顔を見せる。

「大丈夫!運転初めてじゃないから」

本木はそう言うと、ユリを車に乗せた。

「どこに行くの?」

「食事の前にちょっと付き合ってほしい所があるんだ」

「どこなの?」

ユリが不思議そうに聞くと、本木は微笑んで

「内緒!行ったらわかるから」

と、言って、車を走らせた。


「さあ、着きました」

「ここは・・・」

「いいから来て!」

と、本木は言って、ユリの手を握り引っ張って行った。二人は悦子の病院へ来ていた。

「母さん、元気?」

本木が悦子の病室へと入る。ユリは気まずそうに入り口のところに立ち止まったままであった。そんなユリを見て本木はユリの手を取り部屋の中へと連れてくる。ユリは悦子に気まずそうに挨拶をした。すると悦子は

「どうして来てくれなかったの?娘が急にこなくなったから周りも私も心配したじゃない」

と、笑いながら、そして優しくユリに語った。ユリはその言葉の意味が初めわからなかったが、悦子の『娘が・・・』と、いう言葉から自分を受け入れてくれていることに気が付いた。そして感謝の涙を流し、悦子のもとに駆け寄る。自分の膝で泣くユリの頭を悦子は微笑みながら優しく撫でてあげた。その様子を本木も優しく見守る。

ユリが泣き止むと本木はユリの近くに歩み寄り

「何があっても絶対離れないと言っただろ?」

と、言って、ユリを抱きしめる。ユリは幸せな気持ちを本木の腕の中で感じていた。するとそこへ純一が現れた。

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