弐の八
「ハァ……ハァ……ハァ…………。」
辿り着き足を止めると途端に酸素の足りなかった肺が息を切らせる。
しかし黒煙の立ち込めるこの場所は不必要な空気を肺に取り込んでしまう。
「…………え?」
思考が止まってしまったのか。ツヴァイの頭は思うように動かない。
理由は明白だ。何故なら大きな爆発音を響かせ黒煙を焚いて燃え盛るこの場所は、ツヴァイが初めて手に入れた家族の眠る場所だったからだ。
燃え続けるブラックハウスは少しずつ崩れ落ちてその姿を変えている。
「…………アインツ!」
ツヴァイは最愛の母の名を呼んで走り出した。
だがしかしすぐさま身体が途中で静止させられる。
「まて!君!何してるんだ!死んでしまうぞ!」
「離せ!中にまだあいつらがいるんだ!中には……アインツが………母さんがいるんだ!」
野次馬の大人達に羽交い締めにされるようにツヴァイは身体を止められた。
「やめろ!無駄だ!」
「どけ!離せ!」
ツヴァイは暴れて大人達を押し退けようとする。
「やめろ!もう無駄だ!」
「うるせぇ!そんなのまだーー……………。」
「もう死んでる!」
一人の大人の無情な言葉。
星の重力が一気にかかったかのようにツヴァイの力は抜けた。
「…………………は?」
頭は混乱し、呼吸は乱れる。
しかし大人は事実だけを述べた。
「これ程の大規模の爆発だぞ………しかももう何分も中から呻き声一つ聞こえない……………もう……間に合わないよ。」
頼んでもいない淡々とした冷静な分析がツヴァイに現実を叩きつける。
しかし大人への怒りは後悔となって頭に駆け巡ってくる。
もし今日早く家に帰っていれば。
もし今日みんなでどこかに遊びに行っていれば。
もし………もし………。
手から小さな袋が零れ落ちる。
その袋は強く握りしめすぎて中身が少しだけ見えていた。
『最愛の母。アインツへ。』
そう綴られた箱の中には小さなネックレス。
特別高級なモノではない。
しかし身寄りのない子供が手に入れるには相当の根気と我慢が要される。
持ち主に贈られることの無くなったネックレスは無情にも地面で転がっていた。
考えても無駄な事ばかり巡り続けるツヴァイ。
今日が人生で最悪の日となった。
真の絶望を味わった。
そしてこの後、本当の怒りを覚えることとなる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます