弐の六

 あれからというもの、ツヴァイはアインツの手伝いをするのが普通になっていた。

それまでは知らなかったが孤児を引き取るというのは様々な批判もあるようで、そういった批判的な態度を取る人間にはツヴァイが威圧的に対応した。(アインツには都度怒られた。)

 時間が経てば一人また一人と歳の上な者たちから院を卒業してく。

そして気づけば人が増えている。

あっという間に一番歳上なのはツヴァイになってしまった。

 「俺はまだ十五歳なんだがなぁ。」

ツヴァイの呟きにアインツが優しく笑う。

「確かに。いつの間にかお兄さんだものね。」

ふと周りを見ると沢山の幼い子どもたちがいる。

みんな元々はツヴァイと同じ、孤独だった者たちだ。

だがここでは笑顔ではしゃぐ。

「ツヴァイ!遊ぼーよ!」

「だめ!私と遊ぶの!」

 昔は真っ黒に目を染めていたのに気づけば優しい目をしている。

アインツはまたも優しく笑った。

「だーめ。ツヴァイは今は私と作業してるのよ。」

子供達は「えー。」と残念がる。

ツヴァイは照れくさそうに片手をヒラヒラして子供達を追い払った。

 悪い気はしない。そう思ったツヴァイだった。

 「おいおい!まだここはやってんのかよ!」

大きな怒声が響き、子供達は一気に静まり返る。

アインツは子供達を集め、優しい笑顔で奥へ連れて行った。

ツヴァイが舌打ちをして扉の前に行くと戻ってきたアインツが肩を叩き前へ出る。

 扉を開けるとそこにはガラの悪そうな数人のボム星人が立っていた。

「また貴方達ですか。」

アインツにいつもの優しい笑顔はなく、キリッとボム星人を睨みつける。

「またってねぇ。あんたらがここを立ち退いてくれりゃあもう俺等も来る必要ねぇんすけどねぇ。」

「だから言ってんだろーが。ここはアインツが国から買った土地だ。立ち退く必要ねーんだよ。」

ツヴァイもまたアインツ以上の威圧感で睨みつけていた。

今にも殴り掛かりそうなツヴァイをアインツが制す。

「ここは現政府から私が購入したのです。何度も言いますがここを退く気はありません。」

アインツは強い意志をした目で立ち向かう。

 このボム星人はひと月ほど前からこうして訪ねてきていた。

なんでも、この地区を大きく使ってカジノを建てるそうだ。

その為には沢山の子供が暮らすこのブラックハウスがあると客から苦情が来てしまうらしい。

「そう言われましてもねぇ。こっちも困っちまう訳でさ。そっちが聞く耳持たねぇんならやり方は幾らでもあるんですよ。」

脅すように迫るボム星人の一人にツヴァイは嘲笑する。

「やり方ってよー。あんたらボム星人は自爆くらいしか能がねぇから現政府でも大した地位ねーだろ。」

「なんだと!?」

わかりやすい挑発だがこういったものの方が効くのをツヴァイは知っている。

そして何よりツヴァイはこのボム星人達と相対しても負けない自信があった。

ボム星人は主に自らの肉体を爆破できる。

しかし殆どのボム星人は不器用で全身爆破位しか出来ない。

そして異星人ではあるが身体能力は地球人とさして変わらず、その為他の異星人達よりも扱いはあまり良くなく、地位は低いのだ。

対しツヴァイは喧嘩慣れしている。

アインツを守る為に毎日トレーニングも欠かしていない。

事実、初めてこいつらが来たときも十秒とかからずに地に伏してみせた。

それをわかっているからボム星人も口だけで大きく強気に出ないのだ。

「……ちっ!まぁ今回は引きますがねぇ。あまり舐めた態度取られるようならこっちも色々用意してるんでねぇ。覚悟しといてくださいよ。」

なにやら気になる言い方をして、ボム星人たちは去っていった。

 去ったあとしたり顔で室内に入ろうとするとアインツがツヴァイの前に入った。

「…………なんだよ。」

「………前も言ったけどね、容易く挑発するのはあまり宜しくありません。」

 この顔は怒っている顔だ。

ツヴァイはポリポリと頬を掻く。

「いたずらに挑発をすれば相手に不快な思いをさせ、いずれ自分に返ってくるのよ。」

何度か聞いた説教だ。ツヴァイはヒラヒラと手をふる。

「悪かったよ。もーしねーよ。」

説教自体は好きじゃない。だが、アインツは本気で心配しているのがわかる分こちらも本気で聞いてしまう。

照れくさそうに歩いて行くツヴァイを見てアインツも優しくため息を吐いた。

二人はこうして支え合っているのだ。

 そんな一日から、数日の時が流れた。

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